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論文データベース(最新論文順)

ノルディックモデル
―― ニクラス・ゼンストロームとの対話

2015年2月号

ニクラス・ゼンストローム  スカイプ創業者、アトミコ代表

成熟した産業の企業は、(財やサービスを)わずかしか改善できないことが多い。少しは成長し、生産効率も改善しているかもしれないが、基本的に同じような製品を作り続けている。一方、起業家は「異なる方法でこれをやるにはどうすればよいか。問題をどう解決するか。既存の企業ではなく、新しいプレイヤーとして」と白紙に書き込む。既存のインフラもなければ、テクノロジーもない。どうすれば、もっと効率的にうまくできるかを考える。イノベーションを試み、新しいビジネスモデル、そして効率を10倍に高め、既存の企業の10分の1の価格で財やサービスを提供する。こうして起業(とイノベーション)は経済を前に進める力強い牽引役を果たすことになる。・・・

イノベーティブ国家を構築するには
―― 政府がベンチャーキャピタルを見習うべき理由

2015年2月号

マリアナ・マッツカート サセックス大学科学政策研究所(SPRU) 教授(イノベーション経済学)

イノベーションを推進するために国は何をすべきか。「余計な口出しをしないことだ」と考えられてきた。この見方は広く受け入れられているが、ひどく間違っている。現実にはイノベーションを通じて経済成長を遂げている国は、歴史的に政府が企業のパートナー役、それも多くの場合企業が嫌がるリスクを進んで引き受ける大胆なパートナーの役目を果たしてきた。むしろ、技術革新の方向性を見極めて、政府がその領域に投資できる仕組みを形作るべきだ。公的投資に関するこれまでの短絡的考え方を放棄し、政府と民間を分けて考えるのをやめるべきだろう。イスラエルやフィンランドのように、国がベンチャーキャピタルのように、融資先企業の株式を保有することもできる。政府は、イノベーションを推進する未来志向の政府機関を設立し、これを、国内における創造性、応用、実験の拠点とすべきだろう。・・・

イスラム国に参加した民主活動家たち
―― シリアで何が起きているのか

2015年2月号

ベラ・ミロノバ メリーランド大学博士課程、ローブナ・ムリエ  シリア人フォトジャーナリスト、リチャード・ニールセン MIT准教授、サム・ウィット ハイポイント大学准教授

バッシャール・アサドの独裁体制を打倒しようと、平和的な反政府運動を組織した若者たちは、アサドの残忍な弾圧を前に自由シリア軍(FSA)に参加して銃をとった。だがその多くは、すでにFSAを後にして、イスラム国やヌスラ戦線などのジハード主義集団に身を投じている。なぜ民主化運動に参加した若者たちが、イスラム過激派のメンバーになってしまったのか。FSAに対する不信、アサド打倒の目的を共有していることなどが、その理由のようだ。実際、いまはイスラム過激派のメンバーとして戦っているものの、彼らの目的は依然として「アサドを倒すこと」にあるようだ。逆に言えば、アサド体制を打倒すれば、彼らは、イスラム主義国家の建設を含む、ジハード主義集団が掲げる広範な目的に背を向けるかもしれない。だが、すでにイスラム過激派はこの問題への対策を取り始めている。・・・

急速な都市化の光と影
―― スマートシティと脆弱都市

2015年2月号

ロバート・マッガー イガラッペ研究所 リサーチディレクター

今後の世界人口の成長の90%は途上国の都市やスラム街に集中し、先進国の都市人口の増大は鈍化し、人口が減少する都市も出てくる。いまや先進諸国の多くの都市では、スマートシティ構想を通じて都市インフラデータのネットワーク化が進められている。だが、600の大都市だけで、世界のGDPの3分の2を担っていることからも明らかなように、大都市が繁栄する一方で、中小の都市は取り残されている。途上国の都市のなかには、地方政府と市民の社会契約が破綻し、社会的アナーキーに陥っている「脆弱都市」もある。急速な都市化、突出した若年人口、教育レベルの低さ、そして失業が脆弱都市の問題をさらに深刻にしている。・・・

ヨーロッパのイスラム教徒
―― アイデンティティ危機とイスラム
原理主義

2015年2月号

ファラ・パンディッシュ(スピーカー)ジョナサン・マスターズ(プレサイダー) 前国務省特別代表(イスラム社会担当)www.cfr.org 副編集長

ヨーロッパで暮らすイスラム教徒の若者たち、特にミレニアム世代の若者たちは、アイデンティティ危機に直面している。自分が誰なのかを自問し、両親もその答をもっていない自画像の問題に思い悩んでいる。こうして、インターネットで情報を探したり、答を示してくれる人物がいそうな場所に出入りしたりするようになる。パリのテロ事件にも、明らかにこのメカニズムが作用している。次の段階に進もうとアイデンティティを模索するヨーロッパのイスラム教徒の若者たちが、イスラム過激派・原理主義勢力が示すストーリーに魅了されるのは不思議ではない。問題は、イスラム過激派がイスラム教徒はどのようにあるべきか、どのように暮らすべきかだけでなく、彼らを取り巻く環境がどのようなものでなければならないかについて、極端に厳格でイデオロギー的で、教条主義的な立場をとっていることだ。彼らは他者への寛容という概念を明確に拒絶し、「われわれ対彼ら」という精神構造をもっている。これを解体しなければならない。・・・だが、イスラム過激派のイデオロギーに対抗できるのは、同じイスラム社会内部の信頼できる人物によるメッセージだけだろう。

イラク・クルディスタンは独立へ動く
―― イスラム国がもたらした独立の
チャンス

2015年2月号

マイケル・タンチューム   ヘブライ大学フェロー

イスラム国がイラク北部を攻略したことで、石油都市キルクークの帰属を中心とするクルド自治政府とイラク政府の対立も実質的に消滅した。その直後、バルザニ・クルド自治政府議長は独立に向けた住民投票を実施すると表明した。欧米諸国はイスラム国対策として、クルド自治政府との軍事協調戦略を(バグダッドの頭越しに)スタートさせた。バグダッドも、クルド自治政府が管理するあらゆる地域における石油と天然ガスの生産と販売についてエルビルが法的主権をもつことをすでに受け入れている。トルコ、そしてイランさえもクルドの独立を追認するかもしれない。だが、こうした好ましい環境はそう長続きはしない。イラクにおけるイスラム国の脅威が低下し、欧米の関心がもっぱらシリアに向かうようになれば、クルド自治政府は、住民投票を先送りするように求める圧力に次第にさらされるようになる。・・・

中国の次なる経済モデル
―― デジタル革命と創造的破壊

2015年1月号

ジョナサン・ウォツェル マッキンゼー・グローバル・インスティチュート ディレクター
ジョンミン・セオン マッキンゼー・グローバル・インスティチュート シニアフェロー

中国経済のデジタル化への移行は始まったばかりで、今後数年で、テクノロジーが中国経済のビジネススタイルを劇的に変化させていくだろう。インターネットを利用したデジタル化は新しい巨大市場を誕生させるが、それによって古い市場は破壊され、中国企業はかつてなく厳しい市場競争を受け入れざるを得なくなる。数十年にわたって中国経済は大規模な資本投入と労働力の拡大に依存してきたが、いまやこのモデルで動く成長のエンジンは力を失いつつある。デジタル経済の拡大という次のステージは間違いなくリスクと混乱をもたらすが、企業の生産性向上のポテンシャルを解き放つことになる。経済のデジタル化は、中国の国家目標である「持続可能な経済発展モデル」の実現に大きく貢献することになるだろう。・・・・

世界エネルギーアウトルック

2015年1月号

ファティ・ビロル(スピーカー)国際エネルギー機関 チーフエコノミスト
ミシェル・パトロン(プレサイダー)米国家安全保障会議シニアディレクター(エネルギー担当)

原油価格については現在のような水準が1-2年は続くのではないかと私はみている。だが、価格が低下すれば、投資が低下し、需要が上向く。1-2年、あるいはもっと早い段階で、原油価格が上昇し、過去数年間のようなレベルに戻るとしてもおかしくはない。・・・2020年以降は米シェールオイルの生産の伸びは鈍化するだろう。さらに現在の低い原油価格が(投資を低調にし)、シェールオイルの開発・生産を抑え込むと考えられる。2015年には投資計画の見直しが行われるだろうし、価格が現状のままなら、その投資規模はおそらく10%程度小さくなり、その余波が2016年以降に現れてくる。・・・2025年までには、中東での石油増産が再び必要になるが、投資が低調な現状から推定すると中東石油の増産を期待するのは難しいだろう。現在の中東情勢、イラク情勢をみると、現地への投資に関心を示すものはいない。多くの専門家が考えるように、現在の中東の地政学状況が構造化し、今後も続くようなら、投資が進むはずはなく、2020年代に中東原油の増産を期待するのは難しくなる。

嵐の前の静けさ
―― 次にブラックスワン化する国は

2015年1月号

ナシーム・ニコラス・タレブ ニューヨーク大学教授
グレゴリー・F・トレバートン 米国家情報会議議長

国家の脆弱性の基準は五つ存在する。中央集権型の統治システム、画一的で硬直的な経済体制、過大な債務とレバレッジ、政治的硬直性、そして近い過去に衝撃から立ち直った経験をもっていないことだ。この基準に照らせば、世界地図は大きく違ってみえてくる。意外にもいつも混乱しているイタリアに脆弱性を示す兆候はない。政治危機が間欠泉のように吹き出すにも関わらず、うまく分権化されており、その都度、立ち直っている。一方、サウジは石油資源に経済を依存し、政治的に硬直的で、高度な中央集権国家だ。日本も「穏やかな脆弱性」を抱える国に分類できる。非常に大きな対GDP比債務残高を抱え、その多くの時期を通じて一つの政党が政治を支配し、輸出に依存し、「失われた10年」から完全には立ち直れずにいる。そして中国だ。過去の混乱で培った中国の体力は、債務や集権化という弱点を補うほどに強靱だろうか。おそらく答はノーだ。時が経つにつれて、北京がブラックスワン化するリスクは高まっていく。・・・・

インターネットと未来都市
―― モノのインターネットが支える
スマートシティ

2015年1月号

ジョン・チェンバース シスコ・システムズ 最高経営責任者
ウィム・エルフリンク シスコ・システムズ エグゼクティブ・バイスプレジデント

いまやネットにつながるモノはコンピュータ、タブレット、電話だけではない。都市が管理する駐車スペース、鉄道線路、街灯、ゴミ箱も今後インターネットにつながれ、行政サービスの質と効率が劇的に改善していく。伝統的な都市インフラをインターネットで統合管理するスマートシティにおける市民生活は劇的に進化していく。あらゆるモノをインターネットにつなげば、交通の流れはスムーズになり、駐車場の混雑、汚染、エネルギー消費、そして犯罪の発生さえも低下させることができる。今後、政府と市民との社会契約そのものが見直され、IT企業と政府が行政サービスを提供していくことになるだろう。スマートシティは公務員の労働生産性を高め、新しい雇用と才能を引きつけ、増税しなくても新しい歳入減を確保し、市民の生活を質的に向上させることになるだろう。・・・・

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