1994年以降に発表された邦訳論文を検索できます。

論文データベース(最新論文順)

緊縮財政が民主主義を脅かす
―― ルビコン川を渡ったヨーロッパ

2015年3月号

マーク・ブリス ブラウン大学教授(政治経済学)、コーネル・バン ボストン大学大学院助教(政治学)

単一通貨を共有しつつも、財政政策を共有していなければ、危機に直面した国は緊縮財政を実施せざるを得なくなる。だがその結果、GDP(国内総生産)はさらに大幅に縮小し、それに応じて債務は増えていく。これがまさに、最近のヨーロッパで起きていることだ。問題はドイツが主導するヨーロッパ当局がデフレの政治学を債務国に強要し、債権国の資産価値を守るために、債務国の有権者が貧困の永続化を支持するのを期待していることだ。どう見ても無理がある。このような環境では、本来は安定している国でも急進左派と急進右派が、われわれが考えているよりも早い段階で急速に台頭してくる。ギリシャの「チプラス現象」がヨーロッパの他の国で再現されるのは、おそらく避けられない。ルビコン川を最初に渡ったのはギリシャだったかもしれない。しかしその経済規模ゆえにゲームチェンジャーになるのは、おそらくスペインだろう。・・・

イスラム国の全貌
―― なぜ対テロ戦略は通用しないか

2015年3月号

オードリー・クルト・クローニン ジョージ・メイソン大学教授(国際安全保障プログラム)

イスラム国はテロ集団の定義では説明できない存在だ。3万の兵士を擁し、イラクとシリアの双方で占領地域を手に入れ、かなりの軍事能力をもっている。コミュニケーションラインを管理し、インフラを建設し、資金調達源をもち、洗練された軍事活動を遂行できる。したがって、これまでの対テロ、対武装集団戦略はイスラム国には通用しない。イスラム国は伝統的な軍隊が主導する純然たる準軍事国家で、20世紀に欧米諸国が考案した中東の政治的国境を消し去り、イスラム世界における唯一の政治、宗教、軍事的権限をもつ主体として自らを位置づけようとしている。必要なのは対テロ戦略でも対武装集団戦略でもない。限定的軍事戦略と広範な外交戦略を組み合わせた「攻撃的な封じ込め戦略」をとる必要がある。

スペインを席巻するポデモスの正体
―― 急進左派思想と現実主義の間

2015年3月号

オマー・G・エンカーナシオン バード・カレッジ教授(政治学)

反エスタブリッシュメント、反緊縮財政の立場をとるギリシャの急進左派連合と同じ主張をしているスペインの新党ポデモスが大きな注目を集めている。2014年11月の世論調査で、ポデモスが(これまでスペイン政治を支配してきた)保守派の国民党や中道左派の社会労働党を凌ぐ勢いをもっていることが明らかになったからだ。スペインがギリシャ経済の6倍、欧州連合内でも4番目に大きな経済をもっている以上、ポデモスはユーロ圏に対するさらに大きな脅威になると考える専門家もいる。たしかに、ポデモスはギリシャの急進左派連合だけでなく、ラテンアメリカで噴出した極左のポピュリスト運動、特にベネズエラのウゴ・チャベスが主導した「ボリバル革命」を想起させる。しかし、ポデモスが急進主義をとった時代は終わり、より現実主義的な組織に生まれ変わりつつある。幅広い階層からの支持を獲得できる包括政党を目指すにつれて、ポデモスは過激な主張を控え、現実主義路線へと向かっている。

ウクライナを救うには
―― 武器支援ではなく、経済援助を

2015年3月号

ラジャン・メノン ニューヨーク市立大学教授(政治学)、キンバリー・マルテン バーナード・カレッジ教授(政治学)

ウクライナ紛争をめぐる今回の停戦合意も、前回同様に破綻するかもしれない。そうなれば、オバマ政権はウクライナへの武器供与を求める、これまで以上に大きな圧力にさらされるだろう。すでに米政府高官の一部は、ウクライナへの武器支援を主張し始めている。だが、武器を提供すれば、ウクライナ東部の紛争は長期化し、アメリカの兵器が他の勢力へと流れる恐れもある。紛争の長期化でロシアを経済的にさらに追い込めると主張する人々もいる。だが、ウクライナ経済はロシア経済以上に深刻な状態にあり、破綻の瀬戸際にある。紛争の長期化が、経済崩壊に直面するウクライナを助けるだろうか。ロシアに懲罰を与えようと、武器を提供して紛争を長期化させ、結果的にウクライナを苦しめるとすれば、プーチンの仕事を彼に成り代わってするようなものだ。アメリカが武器を提供すれば、ウクライナを助けるのではなく、傷つけることになる。

欧州連合を崩壊から救うには
―― 緊縮財政から欧州版三本の矢へ

2015年3月号

マティアス・マティス ジョンズ・ホプキンス大学ポール・ニッツスクール准教授、R・ダニエル・ケレメン ラトガース大学教授(政治学)

いまやヨーロッパ市民はヨーロッパ統合プロジェクトの成果を忘れ去り、EUのことを無能な指導者が率い、経済的痛みを市民に強いる組織だと考えている。かろうじて持ち堪えてはいるが、EUは勢いとソフトパワーを失っている。いまや大胆で奥深いアジェンダを掲げるときだ。先ず経済政策の焦点を緊縮財政から投資と成長へと見直していくべきだ。EUの指導者たちは日本の安倍晋三首相が試みている「3本の矢」に目を向け、量的緩和、景気刺激策、構造改革を組み合わせて実施する必要がある。安全保障と自由主義的価値の領域では、外にロシア、内にハンガリーという脅威を抱え、イギリスのEU脱退という問題にも直面している。だが危機を連帯の機会とみなすべきだ。EUの指導者たちは、経済、安全保障、民主主義をめぐって連帯すればヨーロッパはより強くなれるという自信を取り戻す必要がある。

プーチン・システムの黄昏
―― 民衆蜂起、クーデター、分離独立運動

2015年3月号

アレクサンダー・モティル ラトガース大学教授(政治学)

大統領に就任した当時、エネルギー価格が高騰していたことに乗じて、プーチンは450億ドルを着服したが、それでもロシアの生活レベルを引き上げられるだけの歳入が国庫に残されていた。ロシア軍は増強され、プーチンの側近たちも甘い汁を吸った。だがいまや環境は大きく変化した。原油価格は崩壊し、今後上昇へと転じる気配もない。欧米の制裁によるダメージも大きくなり、いまやロシア経済の規模は縮小しつつある。いずれプーチンは予算削減に手をつけざるを得なくなる。しかし、(ウクライナ危機のなかにある以上)軍事費は削れない。(政治的支持をつなぎ止めるために)社会保障費も削れないとなると、唯一のオプションは、側近たちが国家から資金をかすめ取るのを止めさせることかもしれない。ここでシロヴィキによるクーデターのシナリオが浮上する。民衆蜂起が起きる可能性も、非ロシア系地域で分離独立運動が起きる危険もある。・・・・・プーチン体制はいずれ崩壊する。

ハンガリーの独裁者
―― ヴィクトル・オルバンの意図は何か

2015年3月号

ミッチェル・A・オレンシュタイン ノースイースタン大学教授(政治学)、ピーター・クレコ 政治資本研究所 ディレクター、アティラ・ユハス 政治資本研究所 シニアアナリスト

ハンガリーのヴィクトル・オルバン首相は、国内で民主的制度を傷つける政策をとり、対外的にも第一次世界大戦後に喪失した領土の回復を模索するかのような路線をとっている。「外国で暮らすハンガリー系住民にパスポートを発行し、投票権を与えること」を目的に一連の法律を成立させた彼は、周辺国の同胞たちに自治権を模索するように呼びかけている。モスクワがウクライナやアブハジアのロシア系住民にロシアの市民権を与えたことが、その後の侵略の布石だったことを思えば、オルバンの言動に専門家が戦慄を覚えたとしても不思議はない。だが、彼の意図は、ウラジーミル・プーチンのそれとは違うようだ。民族主義の視点から失われた領土を取り戻すことよりも、オルバンはむしろ選挙での政治的優位を確保することを重視している。問題は、これまでのところ彼の戦略が機能しているとはいえ、いずれそのデリケートなバランスが崩れるかもしれないことだ。

トルコの対シリア戦略とヌスラ戦線
―― なぜトルコはテロ集団を支援するのか

2015年3月号

アーロン・ステイン 英王立防衛安全保障研究所アソシエートフェロー

トルコ政府がシリアのアサド政権へのアプローチをそれまでの関与政策から強硬策へと見直したのは2011年9月。それまで、アサドに対して改革を実施して国内を安定させるように働きかけてきたトルコ政府も、この時期を境に、シリアの独裁者を追放する地域的な試みに積極的に関与するようになった。シリアとの国境地帯に緩衝地帯を設けて、反政府勢力に委ね、自由シリア軍がアサド政権に対抗できるライバル政府を樹立することを期待したが、アメリカと湾岸諸国がこの構想に反対し、計画は頓挫する。こうしてトルコ政府は2012年の晩春以降、アレッポをターゲットにした反政府勢力による攻撃の組織化に乗り出した。自由シリア軍による作戦行動を支援しようと、トルコとカタールは(アサドとの戦いで自由シリア軍と実質的に共闘関係にあった)ヌスラ戦線と直接的に接触するようになった。・・・

世界経済アップデート
―― 原油安、ドル全面高、量的緩和、
ロシア・ヨーロッパ経済

2015年3月号

ルイス・アレクサンダー 元米財務省長官顧問、フィリップ・レグレイン 元欧州委員会委員長経済アドバイザー、マイケル・A・レビ 米外交問題評議会シニアフェロー (エネルギー・問題担当)、セバスチャン・マラビー 米外交問題評議会シニアフェロー (国際経済担当)

主要国のなかで経済が拡大しているのはアメリカだけで、他の主要国経済は停滞している。そして、アメリカ以外の国々は、低成長を穴埋めするために通貨安になることを望んでいる。ここで二つの問題が出てくる。一つは、米ドルがどこまで上昇するか。もう一つは、米ドルと関連して、アメリカが金融危機前に果たしていた「最初で最後の消費者」としての役割をどの程度まで果たせるかだ。(P・レグレイン)

アメリカが国内問題を優先し、為替問題を気に懸けていない環境では、G7はメンバー国が量的緩和策をとり通貨安になっても、これを問題にしなかった。アメリカ経済が好調であれば、このような公式があてはまる。・・・だが米ドルが急激に上昇し続けるようであれば、たんなる景気後退以上のことが起き、アメリカの(ドル高に対する許容的な)態度も大きく変化するかもしれない。但し、貿易と為替のメカニズムが大きく変化していることも認識しなければならない。・・・(L・アレクサンダー)

サウジが現在の路線を見直して減産に踏み切る可能性については、2016年以降に起きるかもしれない二つのシナリオを想定できる。一つはさらに原油価格が大幅に下落し、サウジが市場への介入を決断するというシナリオだ。これには歴史的先例がある。・・・もう一つはサウジのリーダーシップと政治的に派生する変化シナリオだ。(M・レビ)

アサド大統領、シリア紛争を語る

2015年3月号

バッシャール・アサド シリア大統領

そこには二つの反政府武装勢力がいる。多数派はイスラム国とヌスラ戦線・・・。もう一つはオバマが「穏健派の反政府勢力」と呼ぶ集団だ。しかしこの勢力は穏健派の反政府勢力というよりも、反乱勢力だし、その多くがすでにテロ組織に参加している。そしてテロ集団は交渉には関心がなく、自分たちの計画をもっている。一方でシリア軍に帰ってきた兵士たちもいる。・・・紛争は軍事的には決着しない。政治的に決着する。・・・問題はトルコ、サウジ、カタールが依然としてこれらのテロ組織を支援していることだ。これらの国が資金を提供し続ける限り、障害を排除できない。・・・

Page Top