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論文データベース(最新論文順)

ルーブルショックとプーチンのジレンマ
――欧米に譲歩するか、ソビエトに回帰
するか

2015年1月号

ダニエル・クラウド プリンストン大学講師(哲学)ファイアーバード・ファンドカンタリアン・キャピタルマネジメント共同設立者

米連邦準備制度が金融政策の正常化を試み始めた2014年夏以降、原油価格は低下し始め、1年前と比べて原油価格の水準はいまや半分へと低下している。ロシアの輸出利益の3分の2は原油輸出収益であり、当然、モスクワが巨大な貿易黒字を維持していけるはずはない。控えめにみても、2015年にはロシア経済の規模は少なくとも4%縮小する。すでにインフレ率は8%を超え、今後さらに悪化していく。プーチンが何をしようと、この低い水準の原油価格ではルーブルが深刻な危機から脱することはできない。しかも、ロシアの外貨準備は急速に枯渇しつつある。・・・早い段階でプーチンが欧米との関係を修復すれば、1998年のようなルーブルのクラッシュは回避できるかもしれないが、それには大きな政治コストが伴う。一方、プーチンが現在のコースを維持し、権力を維持していくつもりなら、法の支配に基づく政府という体裁をかなぐり捨て、ソビエト流の警察国家を再構築するしかない。・・・

孤立した一本の矢
―― 量的緩和の国際的政治・経済リスク

2015年1月号

ロバート・カーン 米外交問題評議会シニアフェロー

アナリストの多くは、2014年12月の解散総選挙を契機に、安倍政権が構造改革に積極的に取り組むことを期待している。だが、今後、日本政府が構造改革に向けたイニシアティブをとっても、既得権益集団が依然として力をもち、改革への政治的障害が存在するために、その焦点は選挙制度の改正や地域安全保障の問題へと置き換えられ、構造改革を支える政治的エネルギーが奪われてしまうかもしれない。とはいえ、アベノミクスの第3の矢(構造改革)が進展しなければ、日本経済の成長のすべては量的緩和に依存することになる。そして、量的緩和と明らかに連動している円安が、2015年に向けて、通貨戦争のリスクを高め、世界の通貨市場を緊張させることになるかもしれない。さらに、これまでも貿易条約の批准に際しては為替レートのミスアラインメントへの対応を厳格に義務づけてきた米議会が、円安ドル高問題を取り上げれば、TPP交渉にも暗雲が立ち込めることになる。・・・

2015年世界経済アウトルック

2015年1月号

ロバート・カーン 米外交問題評議会シニアフェローダミアン・マ ポールソン研究所エドワード・アーデン 米外交問題評議会シニアフェロー

2015年にヨーロッパは数多くの内外の問題に新たに直面する。緊縮財政に対する大衆の不満が高まり、拒絶主義的な政治運動がさらに勢いを増すだろう。しかも、ギリシャ、スペイン、ポルトガル、イギリスで選挙が予定されており、市民たちが現状への不満を示す十分な機会が存在する。この意味で、ギリシャが再び今後を占う先行指標の役割を果たしている。選挙の結果、ギリシャとヨーロッパが衝突コースへ向かう危険もある。(R・カーン)

中国経済にとって、2015年は変化とシステム移行の年になる。中国経済の高度成長時代は終わりつつあり、いまや、GDP成長率がこれまでのようには重視されない経済開発の「ニューノーマル」へと向かいつつある。(D・マ)

2015年には、グローバル貿易の自由化をめぐって、この20年間で最大のブレイクスルーが起きる可能性も、一方で、もっとも深刻な失敗に直面する恐れもある。いずれにせよ、穏当な成功と後退を何度も長期的に繰り返した後、2015年はグローバルな自由貿易の大きなターニングポイントになるかもしれない。(E・アーデン)

2015年
―― 波乱の年の国際情勢

2015年1月号

ジェームズ・リンゼー 米外交問題評議会研究部長

2014年に発生した様々な紛争や問題、例えば、ウクライナ東部の分離独立運動、イラクとシリアにおけるイスラム国の台頭、イスラエルとパレスチナの緊張は今後も続くだろう。さらに、事態が間違った方向へと向かえば、南シナ海、北朝鮮、インド・パキスタンというフラッシングポイントで新たに紛争が起きる危険もある。経済領域にも暗雲が立ち籠めている。ヨーロッパと日本はリセッ ションの瀬戸際を彷徨っている。ヨーロッパではソブリンリスクが再燃し、欧州連合の未来にも暗雲が立ち籠めている。中国の成長率は鈍化し、北京が管理しなければならない国内的な圧力はますます高まっている。一方でロシア、ベネズエラ、ナイジェリアを含む産油国は、原油価格の低下によって追い込まれている。・・・

イスラム国に参加するトルコの若者たち
―― 過激化するトルコ社会

2014年12月号

ギュネス・ムラット・テズクール ロヨラ大学准教授(政治学) / サブリ・シフチー カンサス州立大学助教(政治学)

約1000人のトルコ市民がイスラム国に、数百人がシリアのアルカイダ系組織・ヌスラ戦線に参加しているとメディアは伝えている。だが、トルコとシリアの国境管理がずさんであることを考慮すれば、こうした数字はトルコへのジハード主義の浸透、そしてリクルートの実態を過小評価している。驚くべきは、トルコからシリアへ向かったジハードの戦士の多くは、貧困に苦しむ、社会から隔絶された若者たちではないことだ。彼らは安定した家族のなかで育まれ、力強い共同体のネットワークのなかで暮らしてきた。どう考えても、トルコでは非常に特異的な何かが進行している。これは、公正発展党(AKP)が中核的な支持基盤にアピールし、より敬虔な社会を実現しようと、イスラム組織を資金援助したことと関係がある。イスラム主義の社会的活動が盛んになっただけでなく、そのなかで、過激主義も育まれてしまったのだ。・・・

中東ではなく、中ロの脅威を重視せよ
―― 欧州と東アジアの同盟国をいかに守るか

2014年12月号

リチャード・ベッツ   コロンビア大学教授

イスラム過激派がイラクとシリアの大規模な領土を制圧し、ロシアがウクライナに介入し、東アジアでは中国が軍事力を増強している。ワシントンは大きな選択に直面している。これら危険にさらされた地域に介入せずに、運命にすべてを委ねるのか、それとも、状況を正すために危険な賭に打ってでるのか。政策決定者は二つの設問を考える必要がある。一つは危機にさらされている利益がどの程度重要か、もう一つは、その利益を守る上で軍事力を用いるのがどの程度効果的かだ。この設問への答から考えても、いまやアメリカは戦略的優先課題の焦点を伝統的な国家間紛争に再び合わせるべきだし、ワシントンは中東から完全に手を引けるようになるのを待たずに、最優先課題をヨーロッパとアジアにおける同盟国の防衛に据える必要がある。

アメリカのエネルギー資源輸出
―― その幻想と現実

2014年12月号

モハンマド・アリ・セルギー    オンライン・ライター

シェールオイルは米国内の施設では効率的に精製できないために、すでにその生産量が精製能力の限界に近づきつつある。専門家の多くは、このような精製能力を上回る供給過剰となったシェールオイルを輸出にまわすべきだと主張している。一方、天然ガス輸出の場合、FTA(自由貿易協定)を締結していない国への輸出には米政府の認可が必要になる。この意味では、環大西洋包括的貿易投資協定(TTIP)と環太平洋協定パートナーシップ(TPP)が実現すれば、ヨーロッパとアジア諸国へのLNG輸出は実質的に自由化される。・・・国内のシェールガスとシェールオイルの生産量が増大するにつれて、アメリカのエネルギー輸出をめぐってさまざまな憶測が飛びかっている。しかし、アメリカの資源輸出には、規制、市場経済のロジック、環境問題、そして政治が複雑に関わってくる。・・・・

文化遺産とナショナリズム
―― 文化遺産を人類が共有するには

2014年12月号

ジェームズ・クノー J・ポール・ゲッティ財団最高経営責任者

文化遺産の返還を求めることで、エジプトはファラオの時代と、イランは古代ペルシャ時代と、そしてイタリアはローマ帝国とつながっていることを示したいと考えている。しかし、これは文化保護主義につながる。狭義なアイデンティティーを強化するために文化遺産とその歴史を利用すべきではないだろう。文化遺産の返還を要求する流れは、文化財交流を否定するだけでなく、ニューヨークのメトロポリタン美術館、ロンドンの大英博物館、パリのルーブル美術館などの世界的博物館の役割を否定することになる。博物館は、ある時期のある文化の美術品を、別の時期の異なる文化の作品と並べて展示することで、さまざまな世界と人々への関心と好奇心を刺激し、コスモポリタンな世界観を育む場所だ。文化財を、統治エリートの政治的アジェンダに左右される国家の遺産としてではなく、人類の遺産としてとらえる必要がある。

欧米はロシアへの約束を破ったのか
―― NATO東方不拡大の約束は存在した

2014年12月号

ジョシュア・R・I・シフリンソン  テキサスA&M大学准教授

「NATOゾーンの拡大は受け入れられない」と主張するゴルバチョフ大統領に、ベーカー米国務長官は「われわれも同じ立場だ」と応えた。公開された国務省の会議録によれば、ベーカーはソビエトに対して「NATOの管轄地域、あるいは戦力が東方へと拡大することはない」と明確な保証を与えている。この意味ではNATOを東方に拡大させないという約束は明らかに存在した。約束は文書化されなかったが、東西ドイツは統合し、ソビエトは戦力を引き揚げ、NATOは現状を維持する。これが当時の了解だった。ドイツ統一に合意すれば欧米は(NATOの東方拡大を)自制するとモスクワが考えたとしても無理はなかった。しかし、「ワシントンは二枚舌を使ったという点で有罪であり、したがって、モスクワのウクライナにおける最近の行動も正当化される」と考えるのは論理の飛躍がある。・・・・

CFR Meeting
証言 いかに冷戦は終結したか
―― ドイツ再統一とNATO加盟問題

2014年12月号

ロバート・ブラックウィル/米外交問題評議会シニアフェロー
ビタリー・チュルキン/ロシア国連大使
フランク・エルベ /元ドイツ外務省政策企画部長

「ゴルバチョフとシュワルナゼは、経済的にも社会的にもソビエトが深刻な状態に陥っていることを理解していた。・・・ソビエトの指導者たちは、アメリカを中心とする欧米との新しい関係が、ソビエトの経済問題を解決する助けになると考えていた」。(フランク・エルベ)

「あまりに性急に交渉を進めれば、ソビエト市民がまだ事態を受け入れる準備ができていないために、ドイツ再統一も見果てぬ夢に終わる。交渉を過度に緩慢なものにすれば、ゴルバチョフに敵対する勢力が連帯し、この場合も統一は実現しない。これがシュワルナゼの立場だった」。(ロバート・ブラックウィル)

「ゴルバチョフは、自分自身が批判的な体制を維持したいとは考えていなかったし、ある意味では自分が政治的に生き残りたいとは考えていなかった。だから、(東ヨーロッパへの軍事介入を選ばず)状況を流れに委ねることを選んだ」。(ビタリー・チェルキン)

当時、ドイツ人の多くは「NATO加盟にこだわれば、再統一は実現しない」と考えていた。他に再統一を果たす道筋がなかったために、中立国家になるしかないと感じていた。 だが、12月12日にベルリンで演説したベーカー国務長官は「統一を果たしたドイツがNATOに加盟することを条件に、ワシントンはドイツ再統一を支援する」と表明した。これによって、西ドイツ政府は非常に苦しい立場に追い込まれた。統一とNATO加盟を両立させる方法はないと感じていたからだ。 (フランク・エルベ)

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