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論文データベース(最新論文順)

プーチン・システムの黄昏
―― 民衆蜂起、クーデター、分離独立運動

2015年3月号

アレクサンダー・モティル ラトガース大学教授(政治学)

大統領に就任した当時、エネルギー価格が高騰していたことに乗じて、プーチンは450億ドルを着服したが、それでもロシアの生活レベルを引き上げられるだけの歳入が国庫に残されていた。ロシア軍は増強され、プーチンの側近たちも甘い汁を吸った。だがいまや環境は大きく変化した。原油価格は崩壊し、今後上昇へと転じる気配もない。欧米の制裁によるダメージも大きくなり、いまやロシア経済の規模は縮小しつつある。いずれプーチンは予算削減に手をつけざるを得なくなる。しかし、(ウクライナ危機のなかにある以上)軍事費は削れない。(政治的支持をつなぎ止めるために)社会保障費も削れないとなると、唯一のオプションは、側近たちが国家から資金をかすめ取るのを止めさせることかもしれない。ここでシロヴィキによるクーデターのシナリオが浮上する。民衆蜂起が起きる可能性も、非ロシア系地域で分離独立運動が起きる危険もある。・・・・・プーチン体制はいずれ崩壊する。

ハンガリーの独裁者
―― ヴィクトル・オルバンの意図は何か

2015年3月号

ミッチェル・A・オレンシュタイン ノースイースタン大学教授(政治学)、ピーター・クレコ 政治資本研究所 ディレクター、アティラ・ユハス 政治資本研究所 シニアアナリスト

ハンガリーのヴィクトル・オルバン首相は、国内で民主的制度を傷つける政策をとり、対外的にも第一次世界大戦後に喪失した領土の回復を模索するかのような路線をとっている。「外国で暮らすハンガリー系住民にパスポートを発行し、投票権を与えること」を目的に一連の法律を成立させた彼は、周辺国の同胞たちに自治権を模索するように呼びかけている。モスクワがウクライナやアブハジアのロシア系住民にロシアの市民権を与えたことが、その後の侵略の布石だったことを思えば、オルバンの言動に専門家が戦慄を覚えたとしても不思議はない。だが、彼の意図は、ウラジーミル・プーチンのそれとは違うようだ。民族主義の視点から失われた領土を取り戻すことよりも、オルバンはむしろ選挙での政治的優位を確保することを重視している。問題は、これまでのところ彼の戦略が機能しているとはいえ、いずれそのデリケートなバランスが崩れるかもしれないことだ。

トルコの対シリア戦略とヌスラ戦線
―― なぜトルコはテロ集団を支援するのか

2015年3月号

アーロン・ステイン 英王立防衛安全保障研究所アソシエートフェロー

トルコ政府がシリアのアサド政権へのアプローチをそれまでの関与政策から強硬策へと見直したのは2011年9月。それまで、アサドに対して改革を実施して国内を安定させるように働きかけてきたトルコ政府も、この時期を境に、シリアの独裁者を追放する地域的な試みに積極的に関与するようになった。シリアとの国境地帯に緩衝地帯を設けて、反政府勢力に委ね、自由シリア軍がアサド政権に対抗できるライバル政府を樹立することを期待したが、アメリカと湾岸諸国がこの構想に反対し、計画は頓挫する。こうしてトルコ政府は2012年の晩春以降、アレッポをターゲットにした反政府勢力による攻撃の組織化に乗り出した。自由シリア軍による作戦行動を支援しようと、トルコとカタールは(アサドとの戦いで自由シリア軍と実質的に共闘関係にあった)ヌスラ戦線と直接的に接触するようになった。・・・

世界経済アップデート
―― 原油安、ドル全面高、量的緩和、
ロシア・ヨーロッパ経済

2015年3月号

ルイス・アレクサンダー 元米財務省長官顧問、フィリップ・レグレイン 元欧州委員会委員長経済アドバイザー、マイケル・A・レビ 米外交問題評議会シニアフェロー (エネルギー・問題担当)、セバスチャン・マラビー 米外交問題評議会シニアフェロー (国際経済担当)

主要国のなかで経済が拡大しているのはアメリカだけで、他の主要国経済は停滞している。そして、アメリカ以外の国々は、低成長を穴埋めするために通貨安になることを望んでいる。ここで二つの問題が出てくる。一つは、米ドルがどこまで上昇するか。もう一つは、米ドルと関連して、アメリカが金融危機前に果たしていた「最初で最後の消費者」としての役割をどの程度まで果たせるかだ。(P・レグレイン)

アメリカが国内問題を優先し、為替問題を気に懸けていない環境では、G7はメンバー国が量的緩和策をとり通貨安になっても、これを問題にしなかった。アメリカ経済が好調であれば、このような公式があてはまる。・・・だが米ドルが急激に上昇し続けるようであれば、たんなる景気後退以上のことが起き、アメリカの(ドル高に対する許容的な)態度も大きく変化するかもしれない。但し、貿易と為替のメカニズムが大きく変化していることも認識しなければならない。・・・(L・アレクサンダー)

サウジが現在の路線を見直して減産に踏み切る可能性については、2016年以降に起きるかもしれない二つのシナリオを想定できる。一つはさらに原油価格が大幅に下落し、サウジが市場への介入を決断するというシナリオだ。これには歴史的先例がある。・・・もう一つはサウジのリーダーシップと政治的に派生する変化シナリオだ。(M・レビ)

アサド大統領、シリア紛争を語る

2015年3月号

バッシャール・アサド シリア大統領

そこには二つの反政府武装勢力がいる。多数派はイスラム国とヌスラ戦線・・・。もう一つはオバマが「穏健派の反政府勢力」と呼ぶ集団だ。しかしこの勢力は穏健派の反政府勢力というよりも、反乱勢力だし、その多くがすでにテロ組織に参加している。そしてテロ集団は交渉には関心がなく、自分たちの計画をもっている。一方でシリア軍に帰ってきた兵士たちもいる。・・・紛争は軍事的には決着しない。政治的に決着する。・・・問題はトルコ、サウジ、カタールが依然としてこれらのテロ組織を支援していることだ。これらの国が資金を提供し続ける限り、障害を排除できない。・・・

市場創造型イノベーションのパワー
―― 経済を成長させるイノベーションとは

2015年2月号

ブライアン・C・メズー  ハーバード・ビジネススクール フェロー クレイトン・M・クリステンセン ハーバード・ビジネススクール教授 デレク・ファン・ビーバー ハーバード・ビジネススクール 上級講師

雇用を創出するのは社会でも政府でも産業でもない。それは企業とその経営者たちだ。支出、投資、雇用の判断を下すのは起業家と企業に他ならない。そしてこれらの判断が市場創造型イノベーションへと向かえば、国は持続的成長と繁栄の恩恵に浴する。その好例が戦後の日本経済だ。これまで日本の戦後経済の成功は、国家のプライドと力強い労働倫理、政府のビジョン、優れた科学・技術教育といった要因で説明されてきた。だが、その成功はバイク、自動車、家電、事務機器、鉄鋼などのセクターにおける市場創造型イノベーションに起因していた。ホンダ、カワサキ、スズキ、ヤマハというバイクメーカーは国内市場での需要の掘り起こしを競い合い、その後、同じ戦略を外国市場でも試みた。家電部門(パナソニック、シャープ、ソニー)、自動車部門(日産とトヨタ)、そして事務機器部門(キャノン、京セラ、リコー)も、これと同じパターンで成功した。市場創造型イノベーションで戦後日本は成功を収め、このモデルが世界に広がっていった。・・・

プーチン世代の若者たち
―― ロシアエリート予備軍の現状維持志向

2015年2月号

サラ・E・メンデルソン  戦略国際問題研究所 人権イニシアチブ・ディレクター

ロシアのエリート校の大学生たちは政治に対して非常に懐疑的であるにも関わらず、強い現状維持志向をもっている。彼らの関心は大学でいい成績をとって、政府か大手企業に就職することだけで、チュニジアやウクライナなど世界中で若者が自由と尊厳を求めて抗議行動を起こしていることについて、感銘を受けることはない。むしろ大衆運動は自発的には起きないと考えている。要するに、反政府運動はアメリカが裏で糸を引いているというプーチンの確信を、彼らも共有している。こうした若手エリート層の台頭は、ロシアにおける民主主義の覚醒を少なくとも一世代にわたって遅らせることになるだろう。

精神障害の経済・社会コストに目を向けよ
―― 見えないコストと偏見、放置される対策

2015年2月号

トーマス・R・インセル  米国立精神衛生研究所 所長 パメラ・Y・コリンズ 米国立精神衛生研究所 部長 (グローバル・メンタルヘルス) スティーブン・E・ハイマン ハーバード&MIT「ブロード研究所」 所長

精神障害は直接・間接に世界経済に年間2兆5000億ドルのコストを強いている。2030年までに精神障害のコストは、心臓疾患、ガン、糖尿病、そして呼吸器系疾患が強いるコストの合計を上回る6兆ドルへと増大すると予測されている。だが、この迫りくる危機が適切に認識されていない。これは、富裕国では精神障害が個人や家族が直面する問題として狭義にとらえられ、低所得諸国や中所得諸国では先進諸国の病気とみなされているからだ。精神障害の問題をこのまま放置すれば、いかに大きな問題が作り出されるかを理解する必要があるし、「メンタルヘルスの改善がより健康な体を保つことにつながるという事実」に焦点を合わせた対策をとるべきだ。人々の精神障害への認識と議論をさまざまな角度から変えていく必要がある。

サウジの石油戦略シフトとそのリスク
―― 原油低価格戦略にリヤドは耐えられるのか

2015年2月号

ビラル・Y・サーブ  アトランティック・カウンシル シニアフェロー  ロバート・A・マニング   アトランティック・カウンシル シニアフェロー

自信過剰に陥っているとき、あるいは、次第に懸念を募らせつつある時期には、いかなる政府も大きな賭に打って出ることが多い。国内では変革を求める動きかあり、隣接するイエメンでは紛争が起きている。そして、イスラム国がさまざまな問題を作り出している。サウジは必要以上に野心的になっているのかもしれない。緊張と混乱と不確実性が高まっているタイミングで、原油の低価格化を放置して、大胆な地政学的賭けに出ている。リヤドはグローバル市場におけるサウジ原油のシェアを増やそうと考えているのかもしれない。だが、この戦略の最大のリスクは国内にある。原油価格が1バレル55ドル前後で推移すれば、2015年のサウジの歳入から890億ドルが消し飛ぶ。予算の50%に達している社会保障給付や公務員のサラリーが削減されるのは避けられず、これが予期せぬ事態を引き起こす恐れもある。

ドイツの極右運動ペギーダが動員するデモ隊は「重税、犯罪、治安問題という社会的病巣を作り出しているのはイスラム教徒やその他の外国人移民だ」と批判している。「ドイツはいまやイスラム教徒たちに乗っ取られつつある」と言う彼らは、「2035年までには、生粋のドイツ人よりもイスラム教徒の数の方が多くなる」と主張している。実際には、この主張は現実とはほど遠い。それでもドイツ人の57%が「イスラム教徒を脅威とみなしている」と答え、24%が「イスラム系移民を禁止すべきだ」と考えている。「ドイツのための選択肢」を例外とするあらゆるドイツの政党は、ペギーダを批判し、彼らの要求を検討することさえ拒絶している。だが今後、右派政党「ドイツのための選択肢」の支持が高まっていけば、ペギーダ運動が政治に影響を与えるようになる危険もある。

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