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論文データベース(最新論文順)

難民の対応コストを誰に負担させるか
―― 難民を発生させた国の責任を問う

2015年10月号

ガイ・S・グッドウィン=ジル/オックスフォード大学名誉教授
セリム・キャン・サザク/センチュリー財団リサーチャー

大規模な難民が発生しても、国際社会は難民を受け入れた当事国に主な責任を負わせ、近隣諸国が難民たちを暖かく受け入れることを期待するだけだ。難民受け入れ国を他国が支援することを定めた国際法が存在しないために、現実には、その対応コストは難民を受け入れた当事国が負担せざるを得ない。こうして、難民の滞在期間が長期化するにつれて、受け入れ国の出費は膨らんでいく。だが、難民が外国において人間的な生活をするために必要なコストは、人々が家を後にせざるを得ない状況を作り出した国に支払わせるべきではないか。国際社会が大量の難民を発生させた政策や行動に関わった特定の指導者の資産を標的とする制裁を適用することもできる。危機を作り出した国の資産を凍結して、その資金を難民の人道支援に充てることは物質的な貢献になるだけでなく、紛争に対する抑止力にもなる。・・・

CFR Experts Brief
移民問題とヨーロッパの統合
―― 通貨危機から難民危機へ

2015年10月号

セバスチャン・マラビー 米外交問題評議会シニアフェロー(国際経済担当)

現状では、難民受け入れをドイツが主導し、一方で、東ヨーロッパ、中央ヨーロッパ諸国はこれに否定的だ。いずれにせよ、ヨーロッパの難民危機は、今後当面続く。シリアだけでも、すでに400万人が国を後にし、700万人が国内避難民と化している。これまでのところ、シリア難民のごく一部がヨーロッパの海岸に押し寄せているに過ぎない。欧州連合(EU)がこの課題への集団的対応策を見いだせなければ、非常に無様な疑問が浮上することになる。ヨーロッパの国境線が抜け穴だらけになった場合、EUメンバー国は「域内の自由な人の移動」へのコミットメントを維持できるだろうか。移民の流れをうまく管理できなければ、ヨーロッパの有権者のヨーロッパ統合への熱意がさらに揺るがされることになりかねない。

ロシアはなぜシリアに介入したか
―― プーチンに譲歩を求めよ

2015年9月号

ミッチェル・オレンスタイン ペンシルベニア大学教授(政治学)

なぜプーチンはシリア紛争に介入したのか。第1の目的は、ウクライナという言葉を新聞のヘッドラインから消すためだ。モスクワの外交担当者たちは、ウクライナ問題が後方に位置づけられるようになれば、欧米の問題意識も薄れ、最終的に制裁も緩和されると期待している。第2の目的は、シリアに関与することで、プーチンは、欧米が取引しなければならない世界の指導者としての地位を確立できると考えたようだ。だが、安易にプーチンの策謀に調子を合わせるのではく、欧米はこの「プーチンのあがき」をうまく利用して、ウクライナ問題をめぐってロシアから譲歩を引き出すべきだ。ウクライナが東部国境を守る権利を認め、ロシアの部隊と兵器を撤収させ、恩赦と権力分有を条件に、ドンバスの指導者たちにキエフへ権限を返還させる必要がある。

迫りくる中国経済の危機
―― 人民元下落は危機のプレリュードにすぎない

2015年9月号

サルバトーレ・バボネス  シドニー大学准教授(社会学、社会政策)

中国で金融危機が進行している。株式市場の混乱、輸出の低迷、そして人民元のクラッシュはまだ序の口にすぎない。今後、人口動態の停滞、資本逃避、そして、経済の多くを市場に委ねるとした2013年の決定がさらに大きな危機を作り出すことになるだろう。高齢化で政府の社会保障関連支出が増大していくにも関わらず、税収を通じた歳入増にはもはや多くを期待できない。「中国は豊かになる前に歳をとる」とよく言われるが、同様に、完全な税制を整備する前に、経済が自由化されれば、歳入を確保するのはますます難しくなる。課税なき自由化は中国政府を第3世界特有の永続的な金融危機に直面させるだろう。主に逆累進税で資金を調達し、社会保障上の責務を果たそうとすれば、中国は、すでにそこから抜け出したはずの第3世界のような状況に陥る。人民元の切り下げは、さらに大きな危機のプレリュードに過ぎず、そこで問題が終わることはない。

対ロ新冷戦とヨーロッパの漂流
―― オバマはなぜロシアの侵略を予見
できなかったか

2015年9月号

アン・アップルボーム ワシントン・ポスト紙コラムニスト

欧米はロシアに嘘をついてきた。NATOは今もロシアにとって脅威だ。・・・たとえ欧米がロシアの天然ガスに背を向けても、ロシアには東アジアに多くの潜在的顧客がいる」。すでに2009年の段階で、ロシアのラブロフ外相はこう語っていた。しかしオバマ政権は、「ヨーロッパは安全で退屈な場所で、真剣に議論すべき対象というより、記念写真に収まるサイト」としか考えていなかった。そしてウクライナ危機が起きた。それでも、オバマは危機を一貫してヨーロッパの地域問題と表現し、距離を置いた。いまやロシアの影響力が高まっているのは旧ソビエト地域だけではない。ロシアはヨーロッパの反EU・反NATO政党を資金面で支援し、ヨーロッパを内側から切り崩そうとしている。しかも、ヨーロッパはギリシャの債務問題とイギリスのEU離脱を問う国民投票、そして大規模な地中海難民の問題に翻弄されている。・・・

CFR Events
中国経済の異変を読み解く
―― 市場経済への移行を乗り切れるのか

2015年9月号

ニコラス・R・ラーディ李稻葵高西慶鄭新立スティーブン・ウェイスマン ピーターソン国際経済研究所 シニアフェロー清華大学教授(経済学)中国投資有限責任公司(CIC)前会長中国国際経済交流センター(CCIEE)副所長米ウォールストリートジャーナル アソシエート・エディター

この30年でGDPに占める投資の割合は30%から50%に上昇し、一方で消費は50%から35%へと落ち込んだ。供給能力の急激な拡大に需要が追いついていけずにいる。いまや何を生産しても売るのが難しくなっている。われわれは、需要と供給のインバランスという、根本的で長期的な構造問題に対処していかなければならない。(鄭新立)

デフレが問題化しつつあるのは事実としても、デフレが他の諸国のような深刻な問題を中国で作り出すことはないだろう。依然として中国経済は7%の成長を遂げており、それが3―5%へと鈍化していくとは考えにくいし、5%以上で経済が成長している国でデフレが問題になることはあり得ない。(N・ラーディ)

「いつ経済成長の停滞が終わるか」、これは重要なポイントだ。おそらく、2015年末か2016年の第一四半期には経済は上向くとわれわれは考えている。半年以内、あるいは1年以内には景気の底を打つと思う。その後、成長率は6―7%で安定的に推移するだろう。(李稻葵)

これまで長期的に停滞してきた不動産市場がいまや大都市を中心に復活しつつあり、価格も上昇している。もちろん、その変動性から考えて、長期的に資金が不動産市場に留まるとは思わないが、不動産市場はいまも大きな経済要因だと思う。(高西慶)

エルドアンの大胆なギャンブル
―― 二正面作戦の政治的余波を考える

2015年9月号

ジャシュア・ウォーカーアンドリュー・ボーエン 米ジャーマン・マーシャルファンド シニアフェローセンター・フォー・ナショナルインタレスト中東研究ディレクター

トルコ政府は、イスラム国の空爆に踏み切っただけでなく、イラクにいるPKK勢力を空爆する二正面作戦を展開している。さらにアメリカとの情報共有の拡大に応じ、米軍の国内基地の使用を認める一方で、シリア側国境地帯に安全地帯の設定を求めている。複雑なのは、米軍がイラクのクルド民兵組織「ペシュメルガ」、シリアのクルド民兵組織「人民防衛隊(YPG)」と協力関係にあり、しかも、YPGはトルコが空爆対象にしているPKKの関連勢力であることだ。トルコのPKK空爆によって、トルコ国内のクルド人勢力とトルコ政府との関係も微妙になる。しかも、YPGがイスラム国に対して軍事的に勝利を収め、国内ではPKK系の政党が最近の選挙で大きな躍進を遂げている。エルドアンの大胆な賭けが、国際的、そして国内政治面でどのような帰結を伴うのか、予断を許さない状況にある。

動き出したクルド連邦の夢
―― 政治的影響力を手にしたトルコのクルド人

2015年8月号

マイケル・タンチューム
ヘブライ大学トルーマン研究所フェロー (中東ユニット)

シリアのクルド人勢力(PYD)がイスラム国との軍事的攻防で大きな勝利を手にし、一方トルコ国内でもクルド系政党(HDP)が最近の選挙で大きな躍進を遂げた。だが、この展開から最大の恩恵を引き出せるのは、HDPを立ち上げ、PYDへの影響力をもつクルド労働者党(PKK)だろう。PKKがトルコ政府との停戦を維持できれば、HDPを通じてクルド人が民主的な方法で自治を獲得できる見込みはますます大きくなる。PKKは、分離独立は求めていない。むしろ、中東における3000万のクルド人を束ねる「汎クルド連邦」の実現を夢見ている。トルコとシリアの双方で自治的なクルド地域を確立するという夢が実現するかどうかは予断を許さないが、最近の進展が、すでにトルコと中東の政治地図を変化させているのは間違いないだろう。

「ギリシャ危機」という虚構
―― 危機の本当のルーツは独仏の銀行
だった

2015年8月号

マーク・ブリス ブラウン大学教授(政治・経済学)

2010年に危機が起きるまでに、フランスの銀行がユーロ周辺諸国に有する不良債権の規模は4650億ユーロ、ドイツの銀行のそれは4930億ユーロに達していた。問題は、ユーロゾーン中核地域のメガバンクが過去10年で資産規模を倍増させ、オペレーショナルレバレッジ比率が2倍に高まり、しかも、これらの銀行が「大きすぎてつぶせない」と判断されたことだった。ギリシャがディフォルトに陥り、独仏の銀行がその損失を埋めようと、各国の国債を手放せば、債券市場が大混乱に陥り、ヨーロッパ全土で銀行破綻が相次ぐ恐れがあった。要するに、EUはギリシャに融資を提供することで、ギリシャの債権者であるドイツとフランスの銀行を助けたに過ぎない。ギリシャはドイツとフランスの銀行を救済する目的のための道筋に過ぎなかった。なかには、90%の資金がギリシャを完全に素通りしているとみなす試算さえある。「怠惰なギリシャ人と規律あるドイツ人」というイメージには大きな嘘がある。

CFR Interview
ヨーロッパ危機、中国の大戦略とTPP

2015年8月号

イアン・ブレマー ユーラシア・グループ代表

ヨーロッパは反EU感情の高まり、メンバー国間の亀裂、そしてロシアの脅威にさらされている。問題の多くは、メンバー国間の関係がうまくいっていないことに派生している。ギリシャのような小国がかくも大きな混乱を引き起こし、いまも解決されていないこと自体、メンバー国の関係がうまくいっていない証拠だろう。しかも、大きな地政学問題が生じている。中東やサハラ砂漠以南から難民がかつてない規模でヨーロッパに押し寄せ、ウクライナ危機に派生する米ロの対立もエスカレートしている。これらのすべてがヨーロッパに重くのしかかり、欧州経済に対する足かせを作りだしている。一方、現在、世界でグローバル戦略をもっている国があるとすれば、それはアメリカではない。中国だ。中国は国際貿易を拡大し、多国間金融機関を立ち上げている。中国は国家主導型の貿易・投資ルールの確立を試みており、このモデルは欧米が確立してきた既存の国際ルールを直接的に脅かすことになる。この意味でもアメリカがTPP構想から遠ざかるのは戦略的に間違っている。TPPはアメリカの長期的戦略のもっとも重要なコンポーネントであり、協定を締結することが極めて重要だ。

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