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論文データベース(最新論文順)

ウクライナの混迷とシリア介入
―― プーチンの策謀に欧米はどう対処すべきか

2015年11月号

ミッチェル・オレンシュタイン ペンシルベニア大学教授(政治学)

なぜプーチンはシリア紛争に軍事介入したのか。第1の目的は、ウクライナという言葉を新聞のヘッドラインから消すことだ。モスクワの外交担当者たちは、ウクライナ問題が国際社会のアジェンダの後方に位置づけられるようになれば、欧米の問題意識も薄れ、最終的に対ロシア制裁も緩和されるのではないかと期待している。第2に、シリアに関与することで、「欧米が取引しなければならない世界の指導者としての地位を再確立できる」とプーチンは考えたようだ。欧米は安易にプーチンの策謀に調子を合わせるのではなく、この「プーチンのあがき」をうまく利用して、ウクライナ問題をめぐってロシアから譲歩を引き出すべきだろう。

ウクライナ「紛争凍結」という幻想
―― ロシアが再び武力行使に出る理由

2015年10月号

サミュエル・キャラップ 英国際戦略研究所シニアフェロー (ロシア・ユーラシア担当)

ロシアの目的は、ウクライナの新たな憲法構造のなかで親ロシア派地域の権限と自治権を強化し、キエフに対する影響力を(間接的に)制度化することにある。この意味で、ドンバスをウクライナの他の地域から切り離すのは、ロシアにとって敗北を受け入れるに等しい。これまでのところ、ミンスク2の政治プロセスは、モスクワが考えていたようには進展していない。つまり、ウクライナによる合意の履行に明らかな不満をもっている以上、モスクワは現状を覆すために実力行使に出る可能性が高い。いまや唯一の疑問は、行動を起こすかどうかではなく、どのような行動をみせるかだ。いずれにせよ、ロシアの実力行使によってウクライナはかなりの経済的・人的なコストを強いられる。ヤヌコビッチ政権が倒れてわずか数日後にロシアがクリミアに侵攻したように、モスクワは危機の当初から拙速で無謀な行動をとってきたことを忘れてはならない。

バラク・オバマと米中東政策の分水嶺
―― なぜアラブの春を支持し、中東不介入策を貫いたか

2015年10月号

マーク・リンチ ジョージ・ワシントン大学教授(政治学)

ブッシュ政権期には、アラブの独裁者たちはテロ戦略・イラン戦略をめぐってアメリカと足並みさえ合わせれば、ワシントンの民主化要求をかわせると読んでいた。自分たちの利益に合致する地域秩序をあえて覆したいと望む中東の指導者はほとんどいなかった。だが、アラブの春に直面したオバマは独裁政権の指導者ではなく、街頭デモに繰り出した民衆を明確に支持し、ムスリム同胞団の政治参加を認めた。さらに、米軍の過大な地域関与を控え、基本的に不介入路線をとった。オバマはシリア紛争への踏み込んだ関与を避け、イラクから部隊を撤退させ、イランとの核合意をまとめ、アラブの春を支持した。おそらく、次期大統領はオバマの路線から距離を置こうとするだろう。しかし、結局は、容易ならざる中東の現実とオバマの選択の正しさを思い知ることになるだろう。

中国の市場自由化が引き起こす混乱
―― 政府による管理から市場メカニズムへの段階的移行

2015年10月号

ウィリアム・アダムス NC金融サービスグループ 上席国際エコノミスト

2015年夏の中国の株式市場、為替市場の混乱は、北京が市場の自由化を進めていることが引き起こした変動だった。株式市場の自由化を目指して、「上海・香港株式市場の相互乗り入れ」を認めたものの、主要なグローバル株式指数であるMSCIが上海で取引される中国株式の指標への組み入れを見送ったことをきっかけに、混乱が作り出された。同様に、人民元の唐突な切り下げも、北京が人民元のグローバルな役割を拡大しようとしたことが原因だ。今後も、自由化を進めれば、北京は経済と金融システムに対するトップダウンの管理手法を維持できなくなり、市場による調整と金融市場の変動と余波はこれまで以上に大きくなる。新たな経済モデルを目指した自由化プロセスが維持される限り、世界は、新しい金融アイデンティティを模索する中国の試みが引き起こすグローバルな混乱への対応を今後も余儀なくされるだろう。

中国市場の異変とグローバル経済
―― 中国経済はリセッションに陥りつつある

2015年10月号

シブ・チェン イェール大学教授
ウィレム・ブイター シティグループ、チーフエコノミスト
ロバート・カーン 米外交問題評議会シニアフェロー
マイケル・レビ 米外交問題評議会地政経済学センター  ディレクター

GDPの50%に相当する投資をして、それでも中国経済の成長率は7%だ。本当の成長率は4・5%かそれ未満だと考えられる。要するに、中国経済はリセッションに陥りつつある。 (W・ブイター)
今後、さらに人民元が切り下げられる可能性は十分にある。他の諸国が中国の通貨切り下げに追随すれば、これらの影響は総体的にかなり大きなものになる。(R・カーン)

危機に直面すると中国政府はマネーサプライを増大させる。だがいまや優れた投資機会は限られている。こうして流動性を増やしても、多くの資金は中国から外へ向かい、アメリカがその恩恵を多く受けるようになるだろう。中国の株式市場や不動産市場、そして経済が問題に直面すればするほど、資金が中国から(アメリカを含む)外国へと向かうようになる。(シブ・チェン)

企業活動と持続可能な社会
―― 環境と社会への企業の貢献を数値化せよ

2015年10月号

ダイアン・コイル マンチェスター大学教授(経済学)

他の一切の指標を排除して、利益だけが商業的成功を測る唯一の基準にされ、目先のことしか考えず、持続可能性を考えない風潮が生まれたのは、現在の会計基準のせいだろう。だが、この限定的で一面的な評価モデルにも変化が起きている。営利企業ながらも、社会や環境問題の解決に貢献する「ベネフィット・コーポレーション」という分類がすでにアメリカでは登場しているし、他の国々でも似たような企業が誕生している。現代の企業を「真に公平に評価する」には、金融資産と物的資産だけでなく知的資本、人的資本、社会資本、自然資産という四つの資本を考慮する必要がある。そうすれば企業は、より持続可能な活動を心がけるようになる。必要な変革を起こすには、新しい国際会計基準を作り、企業に決算報告とともに社会・環境インパクトを報告させるべきだろう。・・・

都市の連携が世界を変える
―― 都市の新しい魅力

2015年10月号

マイケル・ブルームバーグ 前ニューヨーク市長

これまで都市の経済開発といえば、既存の企業を市内に引き留め、新しい企業を、インセンティブを提供して誘致するというスタイルが主流だった。しかし21世紀に入ると、より効果的な経済開発モデルが登場した。企業ではなく、市民にとって魅力的な都市環境の整備に力を入れることが、経済モデルになった。多くの都市が経験している通り、いまや資本がある場所に才能ある人々が集まるのではなく、才能ある人々がいる場所に資本が集まる。そして企業は、人が住みたい場所に投資したいと考えるようになった。・・・今後、都市は貧困、医療、生活レベルの改善、治安強化のために、より積極的な対策を講じるようになるだろうし、気候変動対策でも、都市は中央政府以上に大きな役割を果たすようになる。・・・

キッシンジャーの歴史的意味合い
―― なぜ彼はリアリストと誤解されたか

2015年10月号

ニーアル・ファーガソン ハーバード大学教授(歴史学)

キッシンジャーは広く「リアリスト」だと考えられている。だが、彼は外交キャリアの初期段階から、理想主義者として活動してきた。確かに、彼はウッドロー・ウィルソンのような理想主義者ではないが、リアリストでもない。哲学的な意味では間違いなく理想主義者だった。キッシンジャーが重視したのは、ライバルや同盟国との関係を理解する上で歴史が重要であること。外交政策決定の多くは不毛の選択肢のなかから、ましな選択をすることに他ならないこと。そして、指導者たちが、道徳的な空虚なリアリズムに陥らないように心がけなければならないことだった。1968年末同様に、深刻な戦略的混乱のなかにある現在、ワシントンはキッシンジャー流の外交アプローチを切実に必要としている。しかし、まず政策決定者そして市民は、「キッシンジャーの意味合い」を正確に理解する必要がある。

欧州移民危機の真実
―― 悲劇的選択とモラルハザード

2015年10月号

マイケル・テイテルバーム ハーバード大学法律大学院 シニアリサーチフェロー

人道的にも政治的にも非常に深刻な危機がヨーロッパで進行している。難民に同情する市民感情のうねりは、リセッション、高い失業率、テロ攻撃、ユーロシステムの危機に苦しむヨーロッパに、さらに深刻な課題を突きつけている。ヨーロッパのポピュリストや反EUの政党や運動にとっては、そこに、うまく追い風にできる政治環境が生じていることを意味する。しかも「悲劇的な選択」と「モラルハザード」の問題がある。限られた資源を絶望的な状況にある人々にいかに分配するかを含めて、ヨーロッパの移民対策がその社会的価値と衝突する恐れがある。一方、好ましい目的地とみなされている国が人道主義的立場から移民を受け入れるという声明を発表すれば、ますます多くの人をリスクの高い旅へと駆り立ててしまう。紛争周辺国にいる難民への支援強化など、現在の路線を見直していかない限り、平和と繁栄、そして人の自由な移動に象徴されるヨーロッパ統合プログラムの成果そのものが、揺るがされることになる。

解体する秩序と帝国主義の教訓
―― 強制力と合意の間

2015年10月号

ニック・ダンフォース ジョージタウン大学博士候補生(歴史)

西洋の帝国主義が一時的であれ、大きな流れを作り出せたのは、「強制力を行使する地域」と「相手の同意を求める地域」を明確に区別していたからだ。「パワー面で見劣りする国が相手なら力で支配できるかもしれない。しかし、相手が帝国のライバルとなると、周到な外交とうまく調整された協調が欠かせない」。これが当時の考えだった。このコンセンサスを無視して、ヨーロッパで帝国の建設を目指したヒトラーの試みは、悲劇を引き起こした。プーチンが、ロシアが主導する独立国家共同体(CIS)を形作ったのは繁栄を共有することを考えたからではない。帝国主義国家が世界の多くの地域を力で統治することに道を開いた国家パワーの格差がいまや消失し、新たな枠組みを考案する必要に迫られたからだ。すでに各国間、地域間のパワーの格差は消失している。ここでかつての帝国主義の歴史からどのような教訓を引き出すか。帝国にノスタルジアを抱くのも、帝国の強制力を正当化するのも間違っている。・・・

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