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論文データベース(最新論文順)

フランスのユダヤ人
―― シオニズムとフランスへの忠誠

2015年12月号

リサ・モーゼス・レフ
アメリカン大学准教授(歴史学)

現在と過去の反ユダヤ主義には多くの違いがあるが、基本的な構造は似ている。その背景には、政治と経済の危機があるし、世界中の民主主義国がアイデンティティーとその純度を重視する運動の圧力にさらされていることにも関係がある。そして、人種差別によって多くの人の機会が制限され、各国内の経済格差が劇的に拡大している。現代の反ユダヤ主義を突き動かしているのは、こうした社会の現象と風潮であり、イスラム教対ユダヤ・キリスト教の「文明の衝突」ではない。これをユダヤ人だけでなく、社会全体の問題として捉えなければならない。かつて自分がユダヤ人であることを公言して、フランスの首相になったレオン・ブルムも、「ユダヤ人問題と社会全体の問題間の区別はない」と考え、社会問題へ同じアプローチをとった。この思想を現在のフランス政府も引き継いでいる。

迫り来る湾岸経済の危機
―― 経済の多角化を阻む障害をいかに克服するか

2015年12月号

アディール・マリク
オックスフォード大学イスラム研究センター リサーチフェロー

湾岸の産油国の経常収支は今後急速に悪化していく。国際通貨基金(IMF)の予測によれば、5年後の2020年までに、湾岸諸国の経常赤字合計額は7000億ドルに達する。原油安が続けばこの数字がさらに膨らむ恐れもある。原油価格の変動に翻弄されないように経済の多角化を進める必要があることはかねて理解されてきたが、改革は進んでいない。問題は、そうした改革によって支配エリートの権力基盤が損なわれてしまうことだ。構造改革によってビジネス界の収益が拡大して、影響力が大きくなれば、支配者の権力基盤が揺るがされる。つまり、経済の多角化を進めるには、改革によって資源輸出の収益に依存するエリートが何かを失うとしても、それを埋め合わせる恩恵があることを指導者たちが納得する必要がある。先ず手を付けるべきは金融部門の改革と整備。市場の自由化、そして地域的経済協調の確立だろう。

新米ロ冷戦の現実
―― 冷戦期以上の米ロ関係の緊張

2015年12月号

ディミトリ・サイメス ナショナルインタレストセンター会長

ロシアにペナルティを科すことが経済制裁の目的だとすれば、われわれは一定の成功を収めている。一方、その目的がロシアをもっと穏健かつ協調的にし、好ましい方向へと向かわせることが目的なら、われわれは意図とは逆の現実に直面している。制裁が続くなかで、アメリカがウクライナに武器を供与し、ウクライナ政府がウクライナ東部(ドンバス)の問題を力で解決しようとすれば、ロシアは歴史的な決定、つまり、ウクライナ全域の占領に踏み切らざるを得ないと考える高官もいる。この場合、300―500万の難民がヨーロッパへと向かうことになる。私の知る限り、モスクワが、これを現実の計画としてまとめているわけではない。しかし、そうした議論があるのは事実だし、この議論を魅力的だと考える高官たちもいる。さらに、包囲網を築かれていると危機感を強めるロシア高官の一部は、バルト諸国の1カ国か2カ国に懲罰を与えることでNATOの安全保障システムが空洞化していることを立証したいと考えている。・・・(聞き手はJeanne Park, Deputy Director, www.cfr.org)

忌まわしきイラク紛争の現実
―― もはや分権化か分割しか道はない

2015年12月号

アリ・ケデリー
元駐イラク米大使特別補佐官

イラク治安部隊の崩壊とシーア派武装勢力の台頭は、バグダッドの影響力をさらに弱め、イラク国内におけるイランの影響力を高めた。イランの影響下にあるシーア派武装集団は、スンニ派地域に攻め入っては残虐行為を繰り返し、結局は、スンニ派住民たちをイスラム国支持へと向かわせている。一方で、イスラム国が罪のないシーア派住民を爆弾テロで殺害すると、シーア派武装勢力への人々の支持が高まり、イラク政府はますます弱体化する。スンニ派とシーア派、アラブ人とクルド人、それぞれの宗派・民族集団の内部抗争という構図での地域的な代理戦争と紛争が同時多発的に起きており、イラク近代史におけるもっとも危険に満ちた時代が今まさに始まろうとしている。イラクが第2のシリア、つまり、市民を脅かし、大規模な難民を発生させ、ジハード主義を育む空間へと転落していくのを阻止するには大胆な措置が必要だ。おそらく各派の民族自決を認める必要がある。・・・

誰がミャンマーを統治するのか
―― アウンサンスーチーと軍は歩み寄れるか

2015年12月号

アーロン・L・コネリー
豪ローウィ国際政策研究所 リサーチフェロー

ミャンマーの選挙で改選されるのは上院・下院とも議席の75%だけで、残る25%は軍の指定席だ。憲法改正には議会の75%以上の賛成が必要とされるため、軍はみずからの権限縮小につながる改正を必ず阻止できる。さらに、軍最高司令官は国防相、内務相、国境相の任命権を持っている。アウンサンスーチーの選挙での勝利は、新生ミャンマーにおける今後5年あまりの権力分担をめぐる熾烈な争いの始まりにすぎない。この争いの過程で、スーチーと軍との関係も調整を迫られる。現憲法の改正を広く民衆に訴えようとすれば、彼女は再び自宅に軟禁され、ミャンマーは軍事政権に戻ってしまうだろう。今後5カ月でアウンサンスーチーと軍がどのように歩み寄るのか、そして新生ミャンマーにおける権力分担に合意できるかが、今後のミャンマーの進路を決定することになる。

価値なき同盟国は見捨てよ
―― パキスタンへの強硬策を

2015年11月号

C・クリスティーン・フェア ジョージタウン大学 外交大学院准教授(安全保障研究)、スーミット・ガングリー ブルーミントン校教授(政治学)

パキスタンはアフガンでもインドでも、武装集団を使って長く策謀を巡らしてきた。これらの武装集団のおかげで、パキスタンは正規兵を配備するリスクを回避するとともに、もっともらしい理由を付けて紛争やテロへの自らの関与を否定することもできた。また核兵器を保有しているおかげで、武装集団を利用して近隣国(とりわけインド)を攻撃しても、報復を恐れる必要もなかった。一方で、その実態がパキスタン政府や軍の代理組織、傀儡組織であるにも関わらず、これら「その行動を制御できない」武装集団の脅威を理由に、外国に援助をたかってきた。もうこの事実に目を背けるのは止めるべきだ。パキスタンは同盟国でもパートナーでもなく、敵対国だという認識を前提にした関係への仕切り直しが必要だ。ワシントンは民生部門への援助は続けても、パキスタンの偉ぶった軍事エリートたちへの援助に終止符を打つ必要がある。

新グレートゲーム
―― インド太平洋をめぐる中印のせめぎ合い

2015年11月号

ラニ・D・ミューレン ウィリアム&メリーカレッジ準教授(政治学)、コディ・ポプリン ブルッキング研究所 リサーチアソシエーツ

中国が「マラッカ・ジレンマ」への対策を取り始めたことがインド太平洋の海洋秩序を揺り動かしている。中国のインド太平洋へのアクセスはマラッカ海峡を経由するルートに限られ、そこにたどり着く途上でも近隣諸国との領有権論争をあちこちに抱えた南シナ海を航行しなければならない。これがマラッカ・ジレンマだ。中国が南シナ海に滑走路付きの人工島を造成したのも、国連海洋法条約が認める以上のこれまでよりも広範囲の排他的経済水域を宣言したのも、そして南アジア諸国との関係を強化しているのも、このジレンマを克服しようとしたからだ。一方、中国がパキスタンとの同盟関係を軸に陸海の双方から対インド包囲網を築くつもりではないかと懸念するインドも、アクトイースト戦略を通じて、インド洋沿岸諸国との関係を拡大し、中国がインド洋での永続的なプレゼンスを確立するのを阻止しようと試みている。いまや、インド太平洋では新しいグレートゲームが展開されている。

TPP批准に向けた最後のハードル
―― 米議会と産業界の曖昧な立場

2015年11月号

リチャード・カッツ オリエンタル・エコノミスト・レポート編集長

現状では、TPPが米議会で批准されるかどうか、仮に批准されるとしても、それがいつになるのかさえ分からない。ビジネス・コミュニティのTPPへの立場は分裂しているし、圧力団体の巻き返し策も軽くみてはならない。共和党指導者が沈黙を守る同僚議員たちに熱心に働きかけなければ、TPPは批准されないかもしれない。反対派の一部は、オバマ政権であれ次期政権であれ、米政府は再交渉を相手国に強要できると確信している。自由貿易の支持派の多くも、かつてのように「自由貿易は貿易相手国を繁栄させることで、アメリカも恩恵を引き出せる」とは考えていない。彼らは米企業に都合がよいように外国市場を開放させることしか考えていない。すでに十分に市場開放されているアメリカにとって、できることはほとんど残されていないと考えている。このような自己中心的な幻想に貿易相手国は強い反発を示すことになるだろう。

シリア紛争と米ロ関係
―― 米ロ協調を左右するアサドファクター

2015年11月号

エオドワード・デレジアン 元駐シリア米大使

ロシアが唐突にシリアに軍事介入した理由はいくつかある。一つはイスラム過激主義がロシアの南部国境地帯に広がっていくことを懸念したからだ。プーチンはシリアがロシアのイスラム過激主義拡大の拠点になることを警戒している。さらにモスクワはシリアのタルタスにある海軍施設、つまり、ロシアが確保している地中海に面した唯一の不凍港へのアクセスを何としても維持したいと考えている。ここは、ロシア海軍が領海を越えてパワーを展開するための重要な港だ。もっとも、ロシアのシリアへの介入によって、イスラム過激派がロシアを主要な敵に据え、報復のターゲットにする可能性もある。・・・一方、シリア紛争をめぐる米ロ関係の最大の試金石は、バッシャール・アサドの処遇だ。これまでワシントンは、「アサドは解決策ではなく、問題の一部であり、彼が退陣することが前提だ」という立場をとってきた。だが、アサドの退陣を交渉の前提に据えてきたアメリカの態度も次第に軟化してきている。政治体制移行期の「初期段階にはアサドが権力者だとしても、いずれ退陣する」という妥協案が出てくるかもしれない。この意味で、シリア紛争をめぐる地域諸国、イラン、ロシアを含む大国間の外交交渉に向けた国際環境が生まれつつある。

革命国家の歴史とイスラム国
―― さらなる拡大と膨張はあり得ない

2015年11月号

スティーブン・ウォルト ハーバード大学教授(国際関係論)

極端な暴力路線をとり、性奴隷を正当化しているとはいえ、革命運動としてみればイスラム国(ISIS)に目新しい要素はほとんどない。宗教的側面をもっているとはいえ、イスラム国は多くの側面においてフランス、ロシア、中国、キューバ、カンボジア、イランで革命期に出現した体制、国家建設を目指した革命運動に驚くほどよく似ている。そして、歴史が示すところによれば、革命国家を外から倒そうとする試みは、逆に強硬派を勢いづけ、さらなる拡大の機会を与え、逆効果となることが多い。よりすぐれた政策は、イスラム国に対する辛抱強い「封じ込め戦略」を地域アクターに委ね、アメリカは遠くから見守ることだ。無謀な行動はコストを伴い、逆効果であることを誰かが教えるまで、革命国家がその行動を穏健化させることはない。その革命的な目的を穏健化させるか、完全に放棄するまで、イスラム国を辛抱強く封じ込める必要がある。

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