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論文データベース(最新論文順)

アメリカのエリート大学は若者に教養と規律を与える場ではなくなっている。大学は学部生を教える仕事を薄給の非常勤講師に任せる一方で、学生とはほとんど接することのない著名な研究者をリクルートすることに血道をあげている。経験が豊かで献身的な教員の指導のもとで、学生たちがさまざまな概念について意見を交換し、人生の目的を考え、それまで常識と考えてきたことに疑いを抱くような経験をさせるという役割はもはや重視されていない。親にも問題がある。いまや十代あるいはそれ未満の子供時代でさえ、名門大学に入るための激しい競争のなかにいる。・・・完璧な経歴づくりは、プレスクール選びから始まり、小中学校を通じて続く。これらが社会格差を増大させ、コミュニティ意識を希薄化させている。この歪んだ構造が教育上の問題だけでなく、政治・社会問題も作り出している。

トルコのサウジ接近と対イラン関係
―― トルコの真意、サウジの思惑

2015年5月号

アーロン・ステイン 英王立統合軍防衛安全保障問題研究所アソシエートフェロー

サウジは、(イランが支援していると言われる)イエメンのシーア派武装集団フーシ派に対する空爆を実施し、サウジと同じスンニ派のトルコは、サウジの空爆を支持すると最近表明した。それでも、トルコがサウジの地域的な野心のために、イランとの関係を犠牲にするとは考えにくい。トルコは中東におけるイランの大きな役割を事実上受け入れ、これに挑戦しようとは考えていない。トルコは、サウジほどイランの核開発プログラムを警戒していないし、イラン同様にクルド人問題を抱え、イランにエネルギー資源を依存している。一方、(ムスリム同胞団の)政治的イスラム主義をめぐるサウジとトルコの対立は解消していない。イエメン空爆に対するトルコのサウジへの歩み寄りは、戦争が続く中東でトルコがとってきたこれまでのバランス戦術の継続とみなすべきで、抜本的な路線変更ではない。

このままでは中国経済は債務に押し潰される
―― 地方政府と国有企業の巨大債務

2015年5月号

シブ・チェン イェール大学教授(金融論)

これまで中国政府は、主要銀行の不良債権が経済に悪影響を与えないようにベイルアウト(救済融資)や簿外債務化を試み、一方、地方の銀行については、地方政府が調停する「合意」で債務危機を抑え込んできた。だが、もっともリスクが高いのは地方政府そして国有企業が抱え込んでいる膨大な債務だ。不動産市場が停滞するにつれて、地方政府がデフォルトを避けるために土地をツールとして債務不履行を先送りすることもできなくなる。経済成長が鈍化している以上、国有企業がこれまでのように債務まみれでオペレーションを続けるわけにもいかない。しかも、債務の返済に苦しむ借り手は今後ますます増えていく。中国が債務問題を克服できなければ、今後の道のりは2008年当時以上に険しいものになり、中国経済に壊滅的な打撃を与える危機が起きるのは避けられなくなる。

イラン核合意と北朝鮮の教訓
―― 合意を政治的に進化させるには

2015年5月号

ジョン・デルーリー 延世大学准教授

イランとの核合意にとって、北朝鮮への核外交が失敗したことの中核的教訓とは何か。それは、最善の取引を交わしたとしても、合意そのものは外交ドラマのプレリュードにすぎないということだ。テヘランが平壌と同じ道を歩むのを阻むには、今後、テヘランがこれまでとは抜本的に異なる新しいアメリカや地域諸国との関係、国際コミュニティとの関係を築いていけるようにしなければならない。アメリカは北朝鮮との核合意を結びながらも、政治的理由から合意を適切に履行せず、結局、北朝鮮は核開発の道を歩み、核保有を宣言した。米議会からリヤド、エルサレムにいたるまで、イランとの核合意に反対する勢力がすでに動きだしている。相手国との関係の正常化こそが、核開発の凍結を実現する最善の方法であることを忘れてはならない。そうできなかったことが北朝鮮外交失敗の本質であり、この教訓をイランとの外交交渉に生かしていく必要がある。

CFR Interview
アジアインフラ投資銀行
―― 国際経済秩序への挑戦か協調か

2015年5月号

ロバート・カーン 米外交問題評議会シニアフェロー(国際経済担当)

中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)は各国のインフラ改善を目的に掲げ、他の国際機関と協力していくと表明している。とはいえ、この構想は既存のグローバル金融機関における改革が進展しなかったことに対する中国の不満に根ざしている。この意味では、AIIBは、BRICS銀行とともに、既存の国際経済秩序に対する中国の挑戦とみなせる。一方、ヨーロッパ諸国がAIIBへの参加を決めたのは、その活動と既存の国際機関の活動との一体性を持たせるには、外にいるよりも参加して内側にいた方がよいと判断したからだ。ワシントンが次第にこの構想をめぐって孤立しつつあることは否定できない。理屈上はAIIBが世界銀行やアジア開発銀行と共同出資して投資プログラムを進めることもできるが、現実にどうなるかは分からない。現在のAIIBは勢いをもっているが、今後、融資基準の劣化、投資プロジェクトの選択ミスなどの問題に直面していくはずで、こうした問題を経験することなく、AIIBが拡大していくとは考えにくい。(聞き手はEleanor Albert , Online Writer and Editor)

ユーラシアで進行する露欧中の戦略地政学
――突き崩されたヨーロッパモデルの優位

2015年5月号

アイバン・クラステフ ルーマニア自由戦略センター所長
マーク・レナード ヨーロッパ外交評議会理事

ベルリンの壁崩壊以降、ヨーロッパはEUの拡大を通じて、軍事力よりも経済相互依存を、国境よりも人の自由な移動を重視する「ヨーロッパモデル」を重視するようになり、ロシアを含む域外の近隣国も最終的にはヨーロッパモデルを受け入れると考えるようになった。だが、2014年に起きたロシアのクリミア侵攻によってその前提は根底から覆された。しかも、ウクライナへの軍事援助をめぐって欧米はいまも合意できずにいる。一方でプーチンは、ハンガリーを含む一部のヨーロッパ諸国への影響力を強化し、ユーラシア経済連合構想でEUに対抗しようとしている。だが、ウクライナをめぐるロシアとの対立にばかり気をとられていると、思わぬ伏兵・中国に足をすくわれることになる。海と陸のシルクロード構想を通じて、ユーラシアを影響圏に組み込もうと試みる中国は、ウクライナ危機が進行するなか、すでに東ヨーロッパでのプレゼンスを高めることに成功している。

日韓関係の修復はできる
―― 問題は歴史ではなく、安全保障領域にある

2015年4月号

ジェニファー・リンド ダートマスカレッジ准教授

多くの人は、日韓関係がうまくいかないのは、歴史問題に派生する敵意ゆえに信頼できる関係を構築できずにいるからだと考えている。だがこの説明は十分ではない。現象と原因を取り違えている。日韓の歴史論争は、関係がうまくいっていないことに派生する現象であって、関係を悪化させている原因ではない。すでに現在の日本と韓国は、ともに歩み寄れるような利益を共有している。日本と韓国は貿易パートナーだし、教育、化学、技術領域で交流し、相手の大衆文化も受け入れている。問題は、日韓がともにその同盟関係を重視せず、しかも、日本と韓国を協調へと向かわせるかに思える中国の経済的、軍事的台頭に東京とソウルが逆の反応をみせていることだ。だが、ソウルと東京が、和解が自国の利益になると判断すれば、そこへ至る道筋は存在するし、そこで、歴史問題が障害になることはない。

人道的介入で破綻国家と化したリビア
―― なぜアメリカは判断を間違えたのか

2015年4月号

アラン・J・クーパーマン テキサス大学准教授(政治学)

NATOが軍事介入するまでには、リビア内戦はすでに終わりに近づいていた。しかし、軍事介入で流れは大きく変化した。カダフィ政権が倒れた後も紛争が続き、少なくとも1万人近くが犠牲になった。今から考えれば、オバマ政権のリビア介入は惨めな失敗だった。民主化が進展しなかっただけでなく、リビアは破綻国家と化してしまった。暴力による犠牲者数、人権侵害の件数は数倍に増えた。テロとの戦いを容易にするのではなく、いまやリビアは、アルカイダやイスラム国(ISIS)関連組織の聖域と化している。「もっと全面的に介入すべきだった。社会を再建するためにもっと踏み込んだ関与をすべきだった」とオバマ大統領は語っている。だが、実際には、軍事介入の決定そのものが間違っていた、リビアには軍事介入すべきでなかった。

CFR Interview
内戦への道を歩むイエメン
――シーア派系フーシ派の目的は何か

2015年4月号

エイプリル・ロングレー・アレイ
国際危機グループ

2015年1月、イエメンでイスラム教シーア派系武装勢力「フーシ派」が権力を掌握し、議会を解散して暫定政府の樹立を宣言した。しかし、政治的経験のないフーシ派には、政府を運営し、経済を管理していく力はない。これまでの問題を批判するだけで、統治上の責任はほとんど果たせずにいる。一方でイエメンのスンニ派系テロ集団・アラビア半島のアルカイダ(AQAP)は、紛争を宗派抗争へ持ち込もうと策謀している。実際、フーシ派を侵略者とみなしているイエメン中央部のバイダー県を含む地域では、いまやAQAPに多くの若者が参加しつつある。地方の部族がAQAPと手を組む可能性もある。サウジは、外交的にフーシ派を孤立させ、彼らと軍事的に対立している集団を支援し、フーシ派に明確に敵対する路線をとっている。一方で、危機を緩和させるためにシーア派のイランが前向きな行動をみせるとも考えにくい。いまや宗派を軸とするイエメン内戦のリスクが高まっている。・・・

中国経済はなぜ失速したか
―― 新常態を説明する二つの要因

2015年4月号

サルバトーレ・バボネス
シドニー大学上級講師

中国経済の成長率鈍化を説明する要因は二つある。一つは出生率の低下、もう一つは都市への移住ペースの鈍化だ。たしかに、1970年代の出生率の低下は経済成長の追い風を作り出した。一人っ子政策で、扶養すべき子供が1人しかいない親たちはより多くの時間を労働に充てることができた。だが40年後の現在、いまや年老いた親たちは引退の年を迎えつつあり、しかも子供が親を支えていくのは不可能な状態にある。都市への移住ペースの鈍化も中国の経済成長率を抑え込んでいる。1980年当時は、総人口の5分の1を下回っていた中国の都市人口も、いまや全体の過半数を超え、しかも主要都市の空室率が上昇していることからみても、都市化はいまや上限に達している。要するに、中国の経済ブーム・高度成長の時代は終わったのだ。今後成長率はますます鈍化し、2020年代には中国の成長率は横ばいを辿るようになるだろう。

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