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論文データベース(最新論文順)

国際貿易に関する危険な妄想
―― 貿易と経済と所得格差

2016年3月号

ウリ・ダドゥッシュ カーネギー国際平和財団シニアアソシエイト

世界貿易の停滞は「ピーク・グローバル化」や「ピーク・トレード」の結果ではないし、保護主義が新たに蔓延しているわけでもない。貿易の停滞は、金融危機後の経済のシクリカルなスローダウンから世界経済が立ち直れずにいることを意味するにすぎない。たしかに、中国の需要に依存してきた原材料輸出国の経済も停滞し、貿易の流れをさらに淀ませている。しかし、これでグローバル化の拡大が終わるわけではない。途上国の台頭もグロ―バル化も終わることはなく、それだけにWTOの役目が終わったわけでもない。貿易改革を支える政治的コンセンサスは形骸化しつつあるが、TPPのような自立的で広範囲をカバーする地域貿易協定を通じてであれ、あるいは多国間交渉の新しいアプローチを通じてであれ、世界の貿易制度の改革は依然として必要だ。この試みを怠れば、より危険な時代にわれわれは足を踏み入れることになる。問題を正面から捉えるために、われわれは貿易に関する危険な妄想を取り払う必要がある。

解禁へ向かうアメリカの原油輸出
―― クリーンエネルギーと石油企業の利益

2015年12月号

ジェフ・コルガン ブラウン大学助教授

原油輸出の解禁を求める米石油企業と輸出禁止の継続を求める石油精製企業の利益が対立するなか、米議会は原油輸出禁止の解除へと明確に舵を取っている。共和党の大統領候補たちが解禁を支持する一方で、クリーンエネルギーへシフトしていくことを重視するオバマ政権とヒラリー・クリントンは輸出禁止の継続を求めている。石油企業は水圧破砕産業、石油精製企業は環境保護団体とそれぞれ政治的連帯を組織している。ここで必要なのは政治的妥協だろう。輸出解禁に歩み寄りつつも、石油企業から「環境汚染の低いグリーン経済に向けたシフト」へのコミットメントを引き出す必要がある。

北欧モデルの教訓とは
―― テクノクラシーとポピュリズムの間

2015年12月号

ファブリッツィオ・タッシナーリ デンマーク国際問題研究所 外交政策研究部長

北欧諸国は民主社会主義を通じて市場経済と普遍的社会保障間の均衡を見いだし、大きな成功を収めてきたと考えられている。男女平等、国民皆保険、持続可能なエネルギーといった北欧発の進歩的社会政策はいまや広く世界に浸透し、これまで北欧(スカンジナビア)モデルは大きな称賛の対象とされてきた。さらに北欧諸国は他に先駆けて効率的で公正なテクノクラシーを確立してきた。だが近年では、移民規制や緊縮財政といった論争の対象とされる政策を実施し、反EU、反移民をスローガンに掲げる急進的なポピュリズム政党も台頭している。いまや北欧モデルも、自由民主主義とポピュリズムの政治運動との均衡を見いだす必要に新たに迫られている。

難民の自立を助けよ
―― 難民危機への経済開発アプローチを

2015年12月号

アレクサンダー・ベッツ オックスフォード大学教授(政治学)、ポール・コリアー オックスフォード大学教授(経済学)

長期的な難民生活を強いられている人々は、永続性のある解決策、つまり、母国あるいはその他の国が「平和的な社会に自分たちを統合してくれること」を願っている。昨今のシリア難民への対応をめぐるヨーロッパの混乱からみても、難民危機への新しいアプローチが必要なことは明らかだ。難民の生活レベルを改善する一方で、難民受け入れ国の経済、安全保障利益を高める政策が必要とされている。現在の古色蒼然たる政策を、特別経済区を作って、難民に雇用を提供することで自立の道を与え、社会に統合していく政策へと見直していく必要がある。最終的に紛争が終わった時に備えてシリア難民はビジネスの下地を作っておく必要がある。このプロセスを難民受け入れ国経済の発展にも寄与するものにしなければならない。こうしたアプローチなら、難民の必要性と受け入れ国の利益を重ねあわせられるし、他の難民危機への対応にも適用できるだろう。

イスラム国の大きな過ち
―― グローバルテロ戦略の弊害

2015年12月号

ダニエル・バイマン ジョージタウン大学教授

パリの同時多発テロから、厄介なシナリオがみえてくる。それは、イスラム国がこれまでの地域重視戦略を見直し、グローバルテロ戦略へとシフトしつつあるかもしれないことだ。グローバルテロ戦略をとれば、戦士のリクルートもうまく進む。数多くの外国人メンバーを抱えているだけに、イスラム国はグローバルテロ戦略をとる資産をもっているともみなせる。だがその副作用も大きい。世界的にテロを展開するには組織の指揮統制を緩め、ローカルなテロ分子に行動の自由を与えるしかない。司令塔をもたないテロの場合、ターゲットを間違え、残忍な殺戮を行うようになることも多い。実際、こうした関連組織の暴走ゆえに、世界のイスラム教徒がアルカイダに背を向けるようになったことは広く知られている。世界はさらに忌まわしいテロが起きることを警戒すべきだが、イスラム国がグローバルテロ戦略へシフトしているとすれば、最終的に大きなコストを支払わされることになるだろう。

パリ同時多発テロとイスラム国
―― 次のターゲットは欧米かサウジか

2015年12月号掲載

スティーブン・クック/米外交問題評議会シニアフェロー // フリップ・ゴードン /米外交問題評議会シニアフェロー // ファラ・パンディッシュ /米外交問題評議会シニアフェロー // グレアム・ウッド/米外交問題評議会シニアフェロー

今回のテロは、イスラム国をうまく特定地域内に封じ込めたことによって起きたと考えることもできる。われわれは領土を取り戻しつつあり、もはやイスラム国が支配地域を拡大する余地は残されていない。彼らは、テロを起こすことで「われわれが終わったわけではなく、別のやり方もできる」と言いたいのだと思う。(P・ゴードン)

考えるべきは、メッカとメジナを支配地域に組み込まずに、彼らが「イスラム国家」を自称できるかどうかだ。この意味で、私は、イスラム国は、(欧米世界ではなく)サウジを主要なテロのターゲットだとみなしていると思う。サウジもそのリスクを警戒している。(宗派対立の構図を作り出そうとするイスラム国系集団によって)、サウジのシーア派モスクは連日攻撃されている。(S・クック)

イスラム国による軍事的侵略と征服による領土拡大路線がうまくいっていない。・・・、この現実を前にイスラム国は路線を見直し、外国でのテロを(新規リクルートを通じた)勢力拡大のツールと位置づけたのかもしれない。(G・ウッド)

パックス・アメリカーナの終わり
―― 中東からの建設的後退を

2015年12月号

スティーブン・サイモン / 前ホワイトハウス シニアディレクター (中東・北アフリカ担当)
ジョナサン・スティブンソン/ 米海軍大学教授

湾岸戦争以降のアメリカの中東介入路線は、アメリカの歴史的規範からの逸脱だった。それまでアメリカとペルシャ湾岸諸国は、安定した石油の価格と供給を維持し、中東の政治的安定を維持していく必要があるという認識だけでなく、1979年以降はイラン封じ込めという戦略目的も共有していた。この環境において中東への軍事介入路線は規範ではなかった。いまやシェール資源の開発を可能にした水圧破砕法の登場によってアメリカの湾岸石油への直接的依存度も、その戦略的価値も低下し、サウジや湾岸の小国を外交的に重視するワシントンの路線も形骸化した。一方、アメリカがジハード主義の粉砕を重視しているのに対して、湾岸のアラブ諸国はシリアのバッシャール・アサドとそのパトロンであるイランを倒すことを優先している。こうして中東の地域パートナーたちは、ワシントンの要請を次第に受け入れなくなり、ワシントンも、アメリカの利益と価値から離れつつあるパートナーたちの利益を守ることにかつてほど力を入れなくなった。・・・

水素エネルギーへの大きな期待
―― 水素型燃料電池とエネルギーの未来

2015年12月号

マシュー・M・メンチ テネシー大学ノックスビル校教授

水素型燃料電池が魅力ある選択肢であることはかねて明らかだった。水素と酸素の化学反応を利用して電気をつくるため、その過程で排出されるのは熱と水だけだ。そしていまや水素を用いた燃料電池技術は競争力のある選択肢となりつつある。世界における燃料電池の売り上げは年々伸びており、容量も2009年からの4年間で2倍以上に増えている。韓国の現代自動車は、多目的スポーツ車(SUV)「ツーソン」の燃料電池モデルを発売し、トヨタ自動車も水素型燃料電池車「ミライ」を5万7500ドルで発売している。燃料電池が進化すれば、貯蔵能力がないという配電網の最大の問題の一つも解決できるし、再生可能エネルギーの利用も促進される。水素型燃料電池の市場化は、もはや未来のものではなくなっている。但し、幅広い応用にはまだ長い道のりが待ち受けている。

エボラ危機対策の教訓(下)
―― なぜWHOは危機対策を間違えたか

2015年12月号

ローリー・ギャレット 米外交問題評議会シニアフェロー(グローバルヘルス担当)

西アフリカで何が起きているかを世界が認識し始めたのは2014年9月半ばになってからだった。国連安保理はエボラ出血熱を「国際的な脅威である」と宣言し、国連総会もこの流れに続いた。米疾病管理センター(CDC)は大規模な国際的介入がなければ、2月までに感染者は100万を超えるだろうという予測を発表した。だがエボラ危機への国際社会の対応は時期を失していた。WHOの指導者たちは、進行する危機を前にしてもひどく緩慢な対応に終始した。すでに2014年5月末までに感染はギニア、リベリア、シエラレオネ全域へと広がっていた。このとき、WHOのアウトブレイクに対する警報は最低レベルへと引き下げられていた。WHOはグローバルヘルス領域の中枢権限を維持していけるのかとその存続を疑問視する声が上がったのも無理はない。この疑問への答えは「依然としてWHOは必要だ」ということになるが、そのためには組織改革が不可欠だ。・・・

<CFR Events>
中国経済と新興市場危機
――世界経済アップデート

2015年12月号

ルイス・アレキサンダー
野村ホールディングスアメリカ、チーフエコノミスト
ビンセント・ラインハルト
アメリカン・エンタープライズ研究所 客員研究員
ジョン・リプスキー
ジョンズホプキンス大学ポール・ニッツスクール 外交政策研究所 シニアフェロー

立ち直りつつあるとはいえ、中国の不動産市場には大きなインバランスがある。不動産市場の問題には地方政府の債務問題も関わってくる。さらに、急成長期の設備投資によって、いまやさまざまな産業が大規模な過剰生産能力を抱え込んでいる。これらの問題は銀行部門の不良債権としていずれ先鋭化する。(L・アレクサンダー)

中国は膨大な投資をしながらも、それを経済成長に結びつけられずにいる。最大の問題は非効率だ。資本を無駄に浪費している。・・・彼らはどこに向かうべきかを理解しているし、どうすれば、そこにたどり着けるかの計画ももっている。しかし、誰もがそこに向かうことが自分の利益になると考えているわけではなく、改革路線への抵抗がある。(J・リプスキー)

現在、地球の歴史のなかで最大規模の農村から都市への人口移動が起きていることに注目すべきだ。都市部での労働生産性は高く、所得は大きくなる。その半分を貯蓄にまわせば、これを中国全土での投資として利用できる。もちろん、間違いを積み重ねていけば、10年毎に、不良債権の山と建設すべきではなかった工場が残される。だが、政府がこれを清算して、同じことを繰り返すこともできる。・・・(V・ラインハルト)

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