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論文データベース(最新論文順)

封じ込めではなく、
イスラム国の打倒と粉砕を

2016年1月号

ヒラリー・クリントン 元米国務長官

結局のところ、米軍機やドローンによる攻撃を含む、われわれが利用できる全てのツールを用いて、テロの危険がある全ての地域で対策をとらなければならない。外国人戦士のイスラム国への流入と流出、テロ資金の流れを遮断し、サイバースペースでの闘いを試みることが、イスラム国との戦いには欠かせない。今後の脅威に対抗していく上でも、これらの試みが対策の基盤を提供することになるだろう。・・・われわれの目的をイスラム国の抑止や封じ込めではなく、彼らを打倒し、破壊することに据えなければならない。・・・「スンニ派の第2の覚醒」の基盤作りを試みる必要もある。・・・アサドがこれ以上民間人や反体制派を空爆で殺戮するのを阻止するために、飛行禁止空域も設定すべきだ。有志連合メンバー国が地上にいる反体制派を空から支援して安全地帯を形作れば、国内避難民もヨーロッパを目指すのでなく、国内に留まるようになる。・・・

ミャンマー 民主化への遠い道のり

2016年1月号

ゾルタン・バラニー
テキサス大学教授(政治学)

2015年11月8日、ミャンマー(ビルマ)で25年ぶりに総選挙が実施され、ほぼ半世紀に及んだ残忍な軍政を経て、ノーベル平和賞を受賞したアウンサンスーチー率いる野党・国民民主連盟(NLD)が地滑り的な勝利を収めた。いまやミャンマー内外で、平和的に政権交代が実現し、歴史的な民主化が実現することへの期待が高まっている。しかし、そうした期待をもつのは時期尚早だし、過度に楽観的だろう。ミャンマーの軍部は依然として大きな権力と権限をもっているし、NLDは巨大で複雑な国の官僚機構を管理した経験がない。しかも政治腐敗が蔓延し、中国との関係も不安定化している。NLDの勝利が近年のミャンマーにとってもっとも期待のもてる展開であることは間違いないが、政治的安定が実現するまでには、まだ長い道のりが待ち受けている。

プーチンの中東地政学戦略
―― ロシアを新戦略へ駆り立てた反発と不満

2016年1月号

アンジェラ・ステント  ジョージタウン大学教授(政治学)

ロシアによるグルジアとウクライナでの戦争、そしてクリミアの編入は、「ポスト冷戦ヨーロッパの安全保障構造から自国が締め出されている現状」に対するモスクワなりの答えだった。一方、シリア紛争への介入は「中東におけるロシアの影響力を再生する」というより大きな目的を見据えた行動だった。シリアに介入したことで、ロシアはポスト・アサドのシリアでも影響力を行使できるだけでなく、地域プレイヤーたちに「アメリカとは違って、ロシアは民衆蜂起から中東の指導者と政府を守り、反政府勢力が権力を奪取しようとしても、政府を見捨てることはない」というメッセージを送ったことになる。すでに2015年後半には、エジプト、イスラエル、ヨルダン、クウェート、サウジアラビア、アラブ首長国連邦の指導者たちが相次いでモスクワを訪問している。・・・すでにサウジは100億ドルを、主にロシアの農業プロジェクトのために投資することを約束し、・・・イラクはイスラム国との戦いにロシアの力を借りるかもしれないと示唆している。・・・

国際貿易に関する危険な妄想
―― 貿易と経済と所得格差

2016年3月号

ウリ・ダドゥッシュ カーネギー国際平和財団シニアアソシエイト

世界貿易の停滞は「ピーク・グローバル化」や「ピーク・トレード」の結果ではないし、保護主義が新たに蔓延しているわけでもない。貿易の停滞は、金融危機後の経済のシクリカルなスローダウンから世界経済が立ち直れずにいることを意味するにすぎない。たしかに、中国の需要に依存してきた原材料輸出国の経済も停滞し、貿易の流れをさらに淀ませている。しかし、これでグローバル化の拡大が終わるわけではない。途上国の台頭もグロ―バル化も終わることはなく、それだけにWTOの役目が終わったわけでもない。貿易改革を支える政治的コンセンサスは形骸化しつつあるが、TPPのような自立的で広範囲をカバーする地域貿易協定を通じてであれ、あるいは多国間交渉の新しいアプローチを通じてであれ、世界の貿易制度の改革は依然として必要だ。この試みを怠れば、より危険な時代にわれわれは足を踏み入れることになる。問題を正面から捉えるために、われわれは貿易に関する危険な妄想を取り払う必要がある。

解禁へ向かうアメリカの原油輸出
―― クリーンエネルギーと石油企業の利益

2015年12月号

ジェフ・コルガン ブラウン大学助教授

原油輸出の解禁を求める米石油企業と輸出禁止の継続を求める石油精製企業の利益が対立するなか、米議会は原油輸出禁止の解除へと明確に舵を取っている。共和党の大統領候補たちが解禁を支持する一方で、クリーンエネルギーへシフトしていくことを重視するオバマ政権とヒラリー・クリントンは輸出禁止の継続を求めている。石油企業は水圧破砕産業、石油精製企業は環境保護団体とそれぞれ政治的連帯を組織している。ここで必要なのは政治的妥協だろう。輸出解禁に歩み寄りつつも、石油企業から「環境汚染の低いグリーン経済に向けたシフト」へのコミットメントを引き出す必要がある。

北欧モデルの教訓とは
―― テクノクラシーとポピュリズムの間

2015年12月号

ファブリッツィオ・タッシナーリ デンマーク国際問題研究所 外交政策研究部長

北欧諸国は民主社会主義を通じて市場経済と普遍的社会保障間の均衡を見いだし、大きな成功を収めてきたと考えられている。男女平等、国民皆保険、持続可能なエネルギーといった北欧発の進歩的社会政策はいまや広く世界に浸透し、これまで北欧(スカンジナビア)モデルは大きな称賛の対象とされてきた。さらに北欧諸国は他に先駆けて効率的で公正なテクノクラシーを確立してきた。だが近年では、移民規制や緊縮財政といった論争の対象とされる政策を実施し、反EU、反移民をスローガンに掲げる急進的なポピュリズム政党も台頭している。いまや北欧モデルも、自由民主主義とポピュリズムの政治運動との均衡を見いだす必要に新たに迫られている。

難民の自立を助けよ
―― 難民危機への経済開発アプローチを

2015年12月号

アレクサンダー・ベッツ オックスフォード大学教授(政治学)、ポール・コリアー オックスフォード大学教授(経済学)

長期的な難民生活を強いられている人々は、永続性のある解決策、つまり、母国あるいはその他の国が「平和的な社会に自分たちを統合してくれること」を願っている。昨今のシリア難民への対応をめぐるヨーロッパの混乱からみても、難民危機への新しいアプローチが必要なことは明らかだ。難民の生活レベルを改善する一方で、難民受け入れ国の経済、安全保障利益を高める政策が必要とされている。現在の古色蒼然たる政策を、特別経済区を作って、難民に雇用を提供することで自立の道を与え、社会に統合していく政策へと見直していく必要がある。最終的に紛争が終わった時に備えてシリア難民はビジネスの下地を作っておく必要がある。このプロセスを難民受け入れ国経済の発展にも寄与するものにしなければならない。こうしたアプローチなら、難民の必要性と受け入れ国の利益を重ねあわせられるし、他の難民危機への対応にも適用できるだろう。

イスラム国の大きな過ち
―― グローバルテロ戦略の弊害

2015年12月号

ダニエル・バイマン ジョージタウン大学教授

パリの同時多発テロから、厄介なシナリオがみえてくる。それは、イスラム国がこれまでの地域重視戦略を見直し、グローバルテロ戦略へとシフトしつつあるかもしれないことだ。グローバルテロ戦略をとれば、戦士のリクルートもうまく進む。数多くの外国人メンバーを抱えているだけに、イスラム国はグローバルテロ戦略をとる資産をもっているともみなせる。だがその副作用も大きい。世界的にテロを展開するには組織の指揮統制を緩め、ローカルなテロ分子に行動の自由を与えるしかない。司令塔をもたないテロの場合、ターゲットを間違え、残忍な殺戮を行うようになることも多い。実際、こうした関連組織の暴走ゆえに、世界のイスラム教徒がアルカイダに背を向けるようになったことは広く知られている。世界はさらに忌まわしいテロが起きることを警戒すべきだが、イスラム国がグローバルテロ戦略へシフトしているとすれば、最終的に大きなコストを支払わされることになるだろう。

パリ同時多発テロとイスラム国
―― 次のターゲットは欧米かサウジか

2015年12月号掲載

スティーブン・クック/米外交問題評議会シニアフェロー // フリップ・ゴードン /米外交問題評議会シニアフェロー // ファラ・パンディッシュ /米外交問題評議会シニアフェロー // グレアム・ウッド/米外交問題評議会シニアフェロー

今回のテロは、イスラム国をうまく特定地域内に封じ込めたことによって起きたと考えることもできる。われわれは領土を取り戻しつつあり、もはやイスラム国が支配地域を拡大する余地は残されていない。彼らは、テロを起こすことで「われわれが終わったわけではなく、別のやり方もできる」と言いたいのだと思う。(P・ゴードン)

考えるべきは、メッカとメジナを支配地域に組み込まずに、彼らが「イスラム国家」を自称できるかどうかだ。この意味で、私は、イスラム国は、(欧米世界ではなく)サウジを主要なテロのターゲットだとみなしていると思う。サウジもそのリスクを警戒している。(宗派対立の構図を作り出そうとするイスラム国系集団によって)、サウジのシーア派モスクは連日攻撃されている。(S・クック)

イスラム国による軍事的侵略と征服による領土拡大路線がうまくいっていない。・・・、この現実を前にイスラム国は路線を見直し、外国でのテロを(新規リクルートを通じた)勢力拡大のツールと位置づけたのかもしれない。(G・ウッド)

パックス・アメリカーナの終わり
―― 中東からの建設的後退を

2015年12月号

スティーブン・サイモン / 前ホワイトハウス シニアディレクター (中東・北アフリカ担当)
ジョナサン・スティブンソン/ 米海軍大学教授

湾岸戦争以降のアメリカの中東介入路線は、アメリカの歴史的規範からの逸脱だった。それまでアメリカとペルシャ湾岸諸国は、安定した石油の価格と供給を維持し、中東の政治的安定を維持していく必要があるという認識だけでなく、1979年以降はイラン封じ込めという戦略目的も共有していた。この環境において中東への軍事介入路線は規範ではなかった。いまやシェール資源の開発を可能にした水圧破砕法の登場によってアメリカの湾岸石油への直接的依存度も、その戦略的価値も低下し、サウジや湾岸の小国を外交的に重視するワシントンの路線も形骸化した。一方、アメリカがジハード主義の粉砕を重視しているのに対して、湾岸のアラブ諸国はシリアのバッシャール・アサドとそのパトロンであるイランを倒すことを優先している。こうして中東の地域パートナーたちは、ワシントンの要請を次第に受け入れなくなり、ワシントンも、アメリカの利益と価値から離れつつあるパートナーたちの利益を守ることにかつてほど力を入れなくなった。・・・

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