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論文データベース(最新論文順)

生産年齢人口の減少と経済の停滞
―― グローバル経済の低成長化は避けられない

2016年3月号

ルチール・シャルマ モルガン・スタンレー インベストメント・マネジメント 新興市場・グローバルマクロ担当ディレクター

労働人口、特に15―64歳の生産年齢人口の増加ペースが世界的に鈍化していることは否定しようのない事実だ。生産年齢人口の伸びが年2%を下回ると、その国で10年以上にわたって高度成長が起きる可能性は低くなる。生産年齢人口の減少というトレンドで、なぜ金融危機後の景気回復がスムーズに進まないか、そのかなりの部分を説明できる。出生率を上げたり、労働人口に加わる成人を増やしたりするため、各国政府はさまざまな優遇策をとれるし、実際多くの国がそうしている。しかしそれらが中途半端な施策であるために、労働人口の増大を抑え込む大きなトレンドを、ごく部分的にしか相殺できていない。結局世界は、経済成長が鈍化し、高度成長を遂げる国が少ない未来の到来を覚悟する必要がある。

長期停滞にどう向き合うか
―― 金融政策の限界と財政政策の役割

2016年3月号

ローレンス・サマーズ 元米財務長官

今後10年にわたって、先進国のインフレ率は1%程度で、実質金利はゼロに近い状態が続くと市場は読んでいる。アメリカ経済についても同様だ。回復基調に転じて7年が経つとはいえ、市場は、経済がノーマルな復活を遂げるとは考えていない。この見方を理解するには、エコノミストのアルヴィン・ハンセンが1930年に示した長期停滞論に目を向ける必要がある。長期停滞論の見方に従えば、先進国経済は、貯蓄性向が増大し、投資性向が低下していることに派生する不均衡に苦しんでいる。その結果、過剰な貯蓄が需要を抑え込み、経済成長率とインフレ率を低下させ、貯蓄と投資のインバランスが実質金利を抑え込んでいる。この数年にわたって先進国を悩ませている、こうした日本型の経済停滞が、今後、当面続くことになるかもしれない。だが、打開策はある。・・・

長期停滞を恐れるな
―― 重要なのはGDPではなく、
生活レベルだ

2016年3月号

ザチャリー・カラベル エンベスネット グローバル戦略統括者

先進国は依然としてデフレから抜け出せずにいる。中国は(投資主導型経済から)消費主導型経済への先の見えない不安定な移行プロセスのさなかにある。しかも、所得格差の危険を警告する声がますます大きくなり、経済の先行きが各国で悲観されている。だが、この見立ては基本的に間違っている。GDP(国内総生産)はデジタルの時代の経済を判断する適切な指標ではないからだ。GDPに議論を依存するあまり、世界的に生活コストが低下していることが無視されている。生活に不可欠な財やサービスの価格が低下すれば、賃金レベルが停滞しても、生活レベルを維持するか、向上させることができる。デフレと低需要は成長を抑え込むかもしれないが、それが必ずしも繁栄を損なうとは限らない。これを、身をもって理解しているのが日本だ。世界は「成長の限界」に達しつつあるかもしれないが、依然として繁栄の限界は視野に入ってきていない。

拡大する国内格差と縮小するグローバルな格差

2016年2月号

フランソワ・ブルギニョン 前世界銀行チーフエコノミスト

世界を一つのコミュニティとして捉えて格差を考えることもできる。フランス国内での生活レベルの違いだけでなく、フランスの富裕層と中国の貧困層(あるいは、フランスの貧困層と中国の富裕層)の違いを考えることもできるだろう。興味深いのは、グローバルな格差が2000年以降、劇的に縮小し始めたことだ。これは途上国、特に中印の経済レベルが、先進国のレベルへと近づいているからだ。今後、新興国経済が停滞していくとしても、その成長率が先進国の成長率を上回る限り、グローバルな格差は縮小していく。一方、各国の国内格差は拡大し続けている。問題は、各国における国内格差の拡大が、国家間の格差の縮小を相殺している部分があることだ。このトレンドを抑え込むには、各国は所得再分配政策を実施し、労働・金融市場の規制を強化し、企業が資産や生産ラインを外国に移転して、課税逃れをするのを阻む国際的アレンジメントを考案すべきだろう。

平等と格差の社会思想史
―― 労働運動からドラッカー、そしてシュンペーターへ

2016年2月号

ピエール・ロザンヴァロン コレージュ・ド・フランス教授(政治史)

多くの人は貧困関連の社会統計や極端な貧困のケースを前に驚愕し、格差の現状を嘆きつつも、「ダイナミックな経済システムのなかで所得格差が生じるのは避けられない」と考えている。要するに、目に余る格差に対して道義的な反感を示しつつも、格差是正に向けた理論的基盤への確固たるコンセンサスは存在しない。だが、20世紀初頭から中盤にかけては、そうしたコンセンサスがなかったにも関わらず、一連の社会保障政策が導入され、格差は大きく縮小した。これは、政治指導者たちが、共産主義革命に象徴される社会革命運動を警戒したからだった。だが、冷戦が終わり、平和の時代が続くと、市民の国家コミュニティへの帰属意識も薄れ、福祉国家は深刻な危機の時代を迎えた。財政的理由からだけでなく、個人の責任が社会生活を規定する要因として復活し、ドラッカーから再びシュンペーターの時代へと移行するなかで、社会的危機という概念そのものが形骸化している。・・・

対イラン強硬策を
―― イスラエル、湾岸諸国との連帯を模索せよ

2016年2月号

エリオット・コーエン ジョンズホプキンス大学ポール・ニッツスクール 教授(戦略研究)
エリック・エーデルマン ジョンズホプキンス大学ポール・ニッツスクール 戦略研究センター客員研究員
レイ・タキー 米外交問題評議会シニアフェロー

イランの核問題に関する最終合意として知られる包括的共同作業計画(JCPOA)は、歴史上もっとも大きな問題を内包する軍備管理合意の一つだ。この合意ではイランがウラン濃縮をする権利だけでなく、ウラン濃縮を産業化する権利さえも認められている。研究・開発施設の建設も許容され、検証・査察制度も実質的に骨抜きにされている。要するに、イランは経済制裁の解除を手にするだけでなく、核開発を正統化することに成功した。ワシントンはアメリカとイランが友好関係など構築できる環境にないことを理解できずにいる。イランの指導者たちが理解している通り、現実にアメリカとの良好な関係を築けば、イランの政治体制そのものが脅かされる。いまや、ワシントンはイスラエル、湾岸諸国とともに、イランに対する圧力行使策をとる以外に道はない。そうしない限り、中東の不安定化とイランの影響力拡大が続くことになる。

中国経済のスローダウンを分析する

2016年2月号

セバスチャン・マラビー 米外交問題評議会シニアフェロー(国際経済担当)、ブラッド・セッツアー 米外交問題評議会シニアフェロー(国際金融担当)

企業投資の前提は高度成長であり、成長の結果である消費の拡大によって、投資が作り出す財が吸収される。しかし、経済成長がスローダウンすれば、大規模な不良債権を抱え込む。これが資金の流れを淀ませ、経済成長は鈍化する。成長率の鈍化はさらに多くの融資を不良債権化する。・・・中国でこの手のネガティブなフィードバックループによる負の連鎖が起きる危険がある。(S・マラビー) 現在の中国経済に、(経済成長モデルの移行に派生する)構造的なスローダウンという側面があることは誰もが知っている。これに加えて、景気循環上の下降局面にあることも認識しなければならない。実際、不動産市場の冷え込みが製造業に影響を与え、これが賃金の成長や国内需要を抑え込んでいる。これらの下方圧力を、資金投入を通じた金融緩和政策によって十分に相殺できるかどうかが問われている。・・・金融緩和政策とそれが経済に与える衝撃を判断する上で、製造業購買担当者景気指数(PMI)は重要な指標だ。PMIを、緩和政策が不動産投資の落ち込みに端を発する成長を抑え込む流れを覆せるほどパワフルかどうか判断する目安にできる。(B・セッツアー)

世界経済リスクとしての中国経済の
不確実性
―― 持続不可能なフィードバックループ

2016年2月号

セバスチャン・マラビー 米外交問題評議会シニアフェロー(国際経済担当)

中国政府が避けようのない経済スローダウンのタイミングを先送りしよう試みれば、債務はますます肥大化し、最終的な結末をさらに深刻なものにするだろう。銀行がインフラプロジェクトに資金を注ぎ込み、IMFが予測するように、成長率は6%を超えるかもしれない。しかし、持続不可能なやり方に派生するリスクが認識されるようになれば、政府の資本規制をかいくぐって資金は外国へと流出する。いずれにせよ、2016年の中国経済に注目する必要がある。この10 年以上にわたって世界経済の成長を牽引してきた国が、次のグローバル経済ショックの震源地になるかもしれないからだ。・・・

「中国の台頭」の終わり
―― 投資主導型モデルの崩壊と中国の未来

2016年2月号

ダニエル・C・リンチ 南カリフォルニア大学国際関係大学院准教授 (国際関係論)

いまや中国はリセッションに直面し、中国共産党の幹部たちはパニックに陥っている。今後、この厄介な経済トレンドは労働人口の減少と高齢化によってさらに悪化していく。しかも、中国は投資主導型経済モデルから消費主導型モデルへの移行を試みている。中国の台頭が終わらないように手を打つべきタイミングで、そうした経済モデルの戦略的移行がスムーズに進むはずはない。でたらめな投資が債務を膨らませているだけでなく、財政出動の効果さえも低下させている。近い将来に中国共産党は政治的正統性の危機に直面し、この流れは、経済的台頭の終わりによって間違いなく加速する。抗議行動、ストライキ、暴動などの大衆騒乱の発生件数はすでに2000年代に3倍に増え、その後も増え続けている。経済の現実を理解しているとは思えない習近平や軍高官たちも、いずれ、中国経済が大きく不安定化し、その台頭が終わりつつあるという現実に向き合わざるを得なくなる。・・・

政治家アンゲラ・メルケルの光と影
―― 難民危機で問われる政治的立場

2016年2月号

クレア・グリーンシュタイン ノースカロライナ大学チャペルヒル校  博士候補生、ブランドン・テンスリー フルブライトスカラー(2012―2013)

アンゲラ・メルケルはメリハリがある政治家ではない。しかし、とにかく落ち着いている。政策も野心に満ちた大胆なものと言うよりも、穏やかさを特徴とする。彼女の政権が、ドイツ経済が安定していることを追い風としてきたのは間違いなく、プーチンとの対話チャンネルを維持していることも、彼女の対外的影響力を支えてきた。実際、ドイツはロシアにとって友人にもっとも近い存在であり、メルケルがロシア語を話せることもあって、ワシントンは実質的にドイツにあらゆるロシアとの交渉を代弁させている。だが、彼女の難民受け入れに寛容な路線を前に、キリスト教民主同盟内の反発が高まり、ドイツ市民の不満も高まっている。彼女の路線は「道義的帝国主義」と批判され、今後、極右勢力が勢いづいていくかもしない。・・・・市民の苛立ちは高まっているが、依然としてメルケルは潜在的な後継者を圧倒する力をもっている。

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