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論文データベース(最新論文順)

価値なき同盟国は見捨てよ
―― パキスタンへの強硬策を

2015年11月号

C・クリスティーン・フェア ジョージタウン大学 外交大学院准教授(安全保障研究)、スーミット・ガングリー ブルーミントン校教授(政治学)

パキスタンはアフガンでもインドでも、武装集団を使って長く策謀を巡らしてきた。これらの武装集団のおかげで、パキスタンは正規兵を配備するリスクを回避するとともに、もっともらしい理由を付けて紛争やテロへの自らの関与を否定することもできた。また核兵器を保有しているおかげで、武装集団を利用して近隣国(とりわけインド)を攻撃しても、報復を恐れる必要もなかった。一方で、その実態がパキスタン政府や軍の代理組織、傀儡組織であるにも関わらず、これら「その行動を制御できない」武装集団の脅威を理由に、外国に援助をたかってきた。もうこの事実に目を背けるのは止めるべきだ。パキスタンは同盟国でもパートナーでもなく、敵対国だという認識を前提にした関係への仕切り直しが必要だ。ワシントンは民生部門への援助は続けても、パキスタンの偉ぶった軍事エリートたちへの援助に終止符を打つ必要がある。

新グレートゲーム
―― インド太平洋をめぐる中印のせめぎ合い

2015年11月号

ラニ・D・ミューレン ウィリアム&メリーカレッジ準教授(政治学)、コディ・ポプリン ブルッキング研究所 リサーチアソシエーツ

中国が「マラッカ・ジレンマ」への対策を取り始めたことがインド太平洋の海洋秩序を揺り動かしている。中国のインド太平洋へのアクセスはマラッカ海峡を経由するルートに限られ、そこにたどり着く途上でも近隣諸国との領有権論争をあちこちに抱えた南シナ海を航行しなければならない。これがマラッカ・ジレンマだ。中国が南シナ海に滑走路付きの人工島を造成したのも、国連海洋法条約が認める以上のこれまでよりも広範囲の排他的経済水域を宣言したのも、そして南アジア諸国との関係を強化しているのも、このジレンマを克服しようとしたからだ。一方、中国がパキスタンとの同盟関係を軸に陸海の双方から対インド包囲網を築くつもりではないかと懸念するインドも、アクトイースト戦略を通じて、インド洋沿岸諸国との関係を拡大し、中国がインド洋での永続的なプレゼンスを確立するのを阻止しようと試みている。いまや、インド太平洋では新しいグレートゲームが展開されている。

TPP批准に向けた最後のハードル
―― 米議会と産業界の曖昧な立場

2015年11月号

リチャード・カッツ オリエンタル・エコノミスト・レポート編集長

現状では、TPPが米議会で批准されるかどうか、仮に批准されるとしても、それがいつになるのかさえ分からない。ビジネス・コミュニティのTPPへの立場は分裂しているし、圧力団体の巻き返し策も軽くみてはならない。共和党指導者が沈黙を守る同僚議員たちに熱心に働きかけなければ、TPPは批准されないかもしれない。反対派の一部は、オバマ政権であれ次期政権であれ、米政府は再交渉を相手国に強要できると確信している。自由貿易の支持派の多くも、かつてのように「自由貿易は貿易相手国を繁栄させることで、アメリカも恩恵を引き出せる」とは考えていない。彼らは米企業に都合がよいように外国市場を開放させることしか考えていない。すでに十分に市場開放されているアメリカにとって、できることはほとんど残されていないと考えている。このような自己中心的な幻想に貿易相手国は強い反発を示すことになるだろう。

シリア紛争と米ロ関係
―― 米ロ協調を左右するアサドファクター

2015年11月号

エオドワード・デレジアン 元駐シリア米大使

ロシアが唐突にシリアに軍事介入した理由はいくつかある。一つはイスラム過激主義がロシアの南部国境地帯に広がっていくことを懸念したからだ。プーチンはシリアがロシアのイスラム過激主義拡大の拠点になることを警戒している。さらにモスクワはシリアのタルタスにある海軍施設、つまり、ロシアが確保している地中海に面した唯一の不凍港へのアクセスを何としても維持したいと考えている。ここは、ロシア海軍が領海を越えてパワーを展開するための重要な港だ。もっとも、ロシアのシリアへの介入によって、イスラム過激派がロシアを主要な敵に据え、報復のターゲットにする可能性もある。・・・一方、シリア紛争をめぐる米ロ関係の最大の試金石は、バッシャール・アサドの処遇だ。これまでワシントンは、「アサドは解決策ではなく、問題の一部であり、彼が退陣することが前提だ」という立場をとってきた。だが、アサドの退陣を交渉の前提に据えてきたアメリカの態度も次第に軟化してきている。政治体制移行期の「初期段階にはアサドが権力者だとしても、いずれ退陣する」という妥協案が出てくるかもしれない。この意味で、シリア紛争をめぐる地域諸国、イラン、ロシアを含む大国間の外交交渉に向けた国際環境が生まれつつある。

革命国家の歴史とイスラム国
―― さらなる拡大と膨張はあり得ない

2015年11月号

スティーブン・ウォルト ハーバード大学教授(国際関係論)

極端な暴力路線をとり、性奴隷を正当化しているとはいえ、革命運動としてみればイスラム国(ISIS)に目新しい要素はほとんどない。宗教的側面をもっているとはいえ、イスラム国は多くの側面においてフランス、ロシア、中国、キューバ、カンボジア、イランで革命期に出現した体制、国家建設を目指した革命運動に驚くほどよく似ている。そして、歴史が示すところによれば、革命国家を外から倒そうとする試みは、逆に強硬派を勢いづけ、さらなる拡大の機会を与え、逆効果となることが多い。よりすぐれた政策は、イスラム国に対する辛抱強い「封じ込め戦略」を地域アクターに委ね、アメリカは遠くから見守ることだ。無謀な行動はコストを伴い、逆効果であることを誰かが教えるまで、革命国家がその行動を穏健化させることはない。その革命的な目的を穏健化させるか、完全に放棄するまで、イスラム国を辛抱強く封じ込める必要がある。

ロシアのシリア介入戦略の全貌
―― そのリスクとベネフィットを検証する

2015年11月号掲載

デミトリ・アダムスキー/IDCヘルズリア 准教授

シリアを安定化させて、ロシアの地域的プレゼンスを維持できるようにすることを、モスクワはおそらく介入の最終目的に据えている。初期段階ではシリアの沿海部の安全を確保し、この地域での影響力の強化を試みるはずだ。この地域には、ラタキヤやタルトゥースなど、ロシアがこれまでも影響力をもってきた施設がある。とはいえ、モスクワはシリアにおける地上戦の殆どを同盟勢力に委ねるだろう。作戦計画に参加し、情報を共有し、ターゲットを選定するとしても、ロシアの大隊をダマスカスで日常的に見かけるようなことにはならない。・・・地上戦を担うのは、残されたアサドの部隊、イランの革命防衛隊と民兵部隊バスィージ、そしてレバノンのヒズボラだろう。問題は、イスラム国に対する作戦を開始した当初は、この同盟勢力間の連帯を維持できても、作戦が長期化し、特にアサドが支配する地域の安定化が実現すれば、同盟勢力の利益認識が次第に分裂し始めると考えられることだ。・・・

プーチンを支えるイワン・イリインの思想
―― 反西洋の立場とロシア的価値の再生

2015年11月号

アントン・バーバシン インターセクションプロジェクト マネージング・ディレクター
ハンナ・ソバーン ハドソン研究所 非常勤フェロー リサーチアソシエーツ

イワン・イリインは歴史上の偉大な人物ではない。彼は古典的な意味での研究者や哲学者ではなく、扇動主義と陰謀理論を振りかざし、ファシズム志向をもつ国家主義者にすぎなかった。「ロシアのような巨大な国では民主主義ではなく、(権威主義的な)『国家独裁』だけが唯一可能な権力の在り方だ。地理的・民族的・文化的多様性を抱えるロシアは、強力な中央集権体制でなければ一つにまとめられない」。かつて、このような見方を示したイリインの著作が近年クレムリン内部で広く読まれている。2006年以降、プーチン自ら、国民向け演説でイリインの考えについて言及するようになった。その目的は明らかだ。権威主義的統治を正当化し、外からの脅威を煽り、ロシア正教の伝統的価値を重視することで、ロシア社会をまとめ、ロシアの精神の再生を試みることにある。・・・

ヨーロッパのハンガリー問題
―― ビクトル・オルバンという腐ったリンゴ

2015年11月号

ダニエル・ケレメン
ラトガース大学教授(政治学)

中国やロシア、あるいはトルコに準じた非自由主義的な国家をハンガリーに建設する」と発言するなど、ハンガリーのビクトル・オルバン首相はこれまでも欧州連合(EU)にとって困惑を禁じ得ない存在だった。彼はハンガリーの司法権の独立やメディアの多様性を攻撃し、選挙制度を操作し、一党独裁の強化を試みてきた。だが現在の難民危機におけるオルバンの冷淡で短絡的な対応からみて、もはや彼は「困惑を禁じ得ない」どころか人権と人間の尊厳を重視するEUの「名折れ」的な存在だ。疲れ果てた難民を路上に放置し、残りは汚い収容施設へ送り込んでいる。セルビアとの国境沿いに有刺鉄線のフェンスを設置し、これを不満として集まってきた難民たちには放水銃や催涙ガスさえ浴びせかけた。ヨーロッパの指導者たちは、一丸となってオルバンのレトリックと政策を糾弾しなければならない。そうできなければ、ヨーロッパの腐ったリンゴがますます増えていくことになる。

気候変動と次の難民危機
―― 沈みゆく島嶼国の運命

2015年11月号

パトリック・サイクス ジャーナリスト

科学者たちは、ツバルは今後50年で完全に水没し、モルジブが水没するまでの猶予はあと30年と予測している。これらの島に住めなくなるとすれば、その近隣の島も同じ運命を辿る。太平洋の22の島国で暮らす920万人、そしてモルジブ諸島の34万5000人が住む場所を失う。ヨーロッパの海岸に押し寄せる大規模な難民ほど、海面水位の上昇がメディアの関心を引くことはないが、国家と領土が海面下に姿を消し、消失するというかつてない事態の帰結は、ヨーロッパの難民危機同様に深刻なものになる。最大の問題は、気候変動難民の場合、国と主権を完全に失ってしまうことだ。難民の受け入れ国は、入国を認めようとしている人物が誰なのか、その母国が消失しているとすれば、一体誰が彼らに責任を負うのかを考え込むことになるだろう。気候変動がすすむなか、国の存続と海洋境界線の安定した存続を想定する国際法は過去の遺物と化しつつある。・・・

クルド人の政治的連帯とトルコの未来

2015年11月号

ソーナー・カギャプタイ ワシントン・インスティチュートトルコ研究プログラムディレクター

これまで長期にわたって、トルコのクルド人コミュニティは、政治的に分裂し、全国レベルの運動としてまとまりをもっていなかった。だがエルドアンが、イスラム国の攻勢にさらされるシリアのクルド人の窮状に「様子見」を決め込んだことが、トルコのクルド人の怒りを買い、政治的に連帯させた。いまやクルド人は政治的立場の違いよりも、民族を軸にまとまるようになり、その大多数が人民民主主義党(HDP)という一つの政党に投票するようになった。こうしてHDPはトルコ議会で3番目に大きな勢力に浮上し、クルド人はすでに政治的影響力を手に入れている。もはやトルコ政府も包括的な権利と政治への参加を求めるクルド人の要求を無視できなくなっている。問題は、エルドアンが自分のやり方を強要するという姿勢を崩していないことだ。

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