1994年以降に発表された邦訳論文を検索できます。

論文データベース(最新論文順)

オバマは広島を訪問すべきなのか
―― 感情と理念と政治

2016年5月号

ジェニファー・リンド ダートマス・カレッジ准教授

日本人の多くは、米大統領が被爆地を訪問することで、アメリカが原爆使用という過去と正面から向き合う機会が作り出されることを願っている。すでにホワイトハウスは、日本の市民グループ、軍縮運動家、子供たちなどから、オバマ大統領の広島訪問を希望する手紙を何千通も受けとっている。大統領の広島訪問を待望する人の多くは、「重要なのは謝罪ではない」と考えている。だが、米大統領が広島を訪問すれば、結局は東アジア地域の厄介な歴史問題がさらに複雑になる恐れがある。アメリカ大統領が「被害者としての日本」という考えの中枢である被爆地を訪問すれば、韓国など、日本の近隣諸国の多くはそれを快く思わないからだ。しかもアメリカでは大統領選挙が控えている。大統領が、献花された石碑の前に立ち、黙祷を捧げるにはあまりにも騒々しい環境にあるのは間違いない。・・・・

サウジと米大統領選挙
―― クリントン、トランプ、リヤド

2016年5月号

ファハド・ナゼル JTG 政治分析者

「ジョージ・W・ブッシュ政権が残した(中東における)負の遺産を清算すること」を自らの中東における任務に掲げたオバマも、結局は負の遺産を次期米大統領に委ねることになりそうだ。シリア紛争への関与を躊躇い、イランとの核合意を模索したことで、サウジとアメリカの関係は極度に冷え込み、サウジでは、オバマは近年における「最悪の米大統領」と呼ばれることも多い。次期大統領候補たちはどうだろうか。サウジの主流派メディアは、イスラム教徒の(アメリカへの)移民を禁止することで「問題」を緩和できると発言したトランプのことを「米市民のごく一部が抱く懸念や不満を煽りたてる問題人物」と描写している。クリントンに期待するとしても、その理由は、彼女がトランプではないというだけのことだ。ますます多くのサウジ市民が、安全保障部門でのアメリカの依存を見直すべきだと考えるようになっている。・・・

デジタル時代の外交
―― 大使館は依然として必要か

2016年5月号

アレックス・オリヴァー / 豪ローウィー国際政策研究所 プログラム・ディレクター

かつては政府にとって外国情報収集の要だった大使館も、リアルタイムのメディア報道やリスク管理会社による綿密な外国分析レポートに後れを取るようになった。しかも、本国の政府はいまや外国政府と直接やりとりできるし、インドのナレンドラ・モディ首相のように、ツイッター、フェイスブック、インスタグラムを駆使するトップリーダーも現れている。だが、大使館はメディアとは違って、国益の促進という視点から、それまでの経験と知識を生かして特定の出来事を文脈に位置づけ、分析できる。大使館がなくなれば、現地の情勢や鍵を握る人物が誰であるかを知る外交官も、自国の市民が外国で窮地に陥ったときに手を差し伸べる領事館の職員もいなくなる。だがそれでも今後、大使館の運命は「より機敏に状況に対応できるようになれるか、流動化するグローバル情勢により適応に対応できるようになれるか」に左右される。だが、数世紀にわたって存在する伝統的な組織にとって、そうした変貌を遂げるのは決して容易ではないだろう。

日本の新しいビジネス文化
―― 日本の起業家世代と社会貢献

2016年4月号

デヴィン・スチュワート カーネギー国際関係倫理委員会シニアフェロー

日本政府の高官たちも、経済再生の柱としての量的緩和と財政出動によってかろうじて成長が支えられていることに気づき始め、新戦略では「スタートアップ企業」が重視されている。ベンチャー企業と新技術への投資を奨励し、大学におけるアントレプレナーシップ(起業精神)の訓練と教育を支援し、シリコンバレーのアントレプレナー(起業家)と日本のアントレプレナーたちをセミナーやメンターシップ・プログラムを通じて結びつけようとしている。もちろん、日本の新企業に投資されたベンチャーキャピタル資金はわずか約10億ドルで、同年のアメリカのスタートアップに投資された590億ドルと比べると依然として大きく見劣りする。しかし、日本の企業文化のなかで次第にスタートアップ企業が受け入れられ始め、起業家の社会的な地位も高まっている。「いまや優秀な学生たちはグーグル、マッキンゼー、そしてスタートアップ企業に就職したいと考えている」

中印の間で揺れるネパール
―― ネパールは中継貿易の拠点を目指せ

2016年4月号

ファハド・シャー ジャーナリスト

文化的にインドと近いネパールのマデシ民族の自治要求をめぐってインドとの関係が緊張するなか、ネパール政府は(インドのライバルである)中国との関係強化を模索しているかのような動きをみせている。ネパール政府は「インドは国内で差別の撤廃や自治権の拡大を求めて運動を展開しているマデシを支援している」と批判した。事実、インド政府はネパールに対して(マデシの意向に沿うような)憲法改正を促し、カトマンズは「内政干渉だ」とこれに強く反発した。一転、ネパールは中国との北部貿易ルートの開発に力を入れ、中国も開発援助の増額やさまざまな開発プロジェクトでこれに応えている。北京はチベットの治安対策面でもネパールとの関係強化に関心を持っている。中国との良好な関係を形作るのは良いことだが、結局のところ、ネパールにとって「中国はインドの代替策にはなり得ない」。むしろ、ネパールは中印貿易の中継基地として戦略的立地を生かすべきではないか。

米大学生への留学の薦め
―― 国際問題と外国への感性を高めるには

2016年4月号

サンフォード・J・アンガー ガウチャー大学名誉学長

アメリカ人には、外国に関する知識や理解がほぼ例外なく欠落している。しかも外交予算は削られ、メディアも国際報道を減らしている。いまや大統領選挙の論争においてさえ、外交問題について十分な情報に基づく議論を聞くことはない。このために、アメリカの価値を反映し、大衆も支持するような、冷静で一貫性のある外交政策の策定と実施が妨げられている。必要なのは、大学のカリキュラムの一環として外国に留学し、貴重な知見を得てアメリカに帰ってくる大学生を大幅に増やすことだ。アメリカの現在そして過去のリーダーの多くは、若くて感受性が強いときに、外国に留学し、外国でさまざまな活動に従事した経験を持っている。この事実は、企業、政府、科学、教育、非営利組織、芸術など分野を問わない。留学生の増加をアメリカの社会と外交政策の改善につなげていくには、留学プログラムへの参加者の数と多様性を大幅に拡大する必要がある。

ローマ史はわれわれに何を問いかける
―― 近代政治への教訓

2016年4月号

マイケル・フォンテーヌ コーネル大学准教授(古典)

ローマ人はすでに5世紀末までに、その後、19世紀半ばまで西洋世界が実現できなかった高度な生活レベルを享受していた。そこには水洗トイレ、大理石のキッチンカウンター、屋内暖房、美容歯科まであった。ローマはこのライフスタイルを「元老院とローマの市民」(SPQR)として知られる、市民と選挙で選ばれる指導者との関係を通じて保障していた。そうした古代ローマの歴史には近代政治の教訓とできるエピソードが数多くある。移民問題、予防攻撃、ポリティカル・コレクトネス、宗教集団への対応、マイノリティの扱いなどだ。紀元前146年にローマがカルタゴ相手に最終的に勝利を収めて以降の歴史は、新たな一極世界における覇権が伴う問題が何であるかもわれわれに教えている。その後、ローマでは対外的な敵の消失によって、内的な権力抗争が展開されるようになり、小さな脅威でさえも帝国の存続を脅かす脅威とみなされるようになった。・・・

イノベーションと 「70対20対10ルール」
――ルース・ポラットとの対話

2016年4月号

ルース・ポラット アルファベット CFO(最高財務責任者)

ルース・ポラットは、テクノロジー企業のエグゼクティブとしては異例のキャリアの持ち主だ。2015年5月にグーグル、その数カ月後にグーグルの持ち株会社アルファベットの最高財務責任者(CFO)に就任するまで、彼女は米金融大手モルガン・スタンレーのCFOだった。2008年の金融危機では、経営不振に陥った米保険最大手AIGの処理について連邦準備制度理事会(FRB)と、連邦住宅抵当公社(ファニーメイ)と連邦住宅貸付抵当公社(フレディマック)の処理について米財務省と協力した経験をもっている。オバマ政権下の2013年には、財務副長官候補に名前が上がったこともある。政治サイト「ポリティコ」はポラットのことを「ウォール街でもっともパワフルな女性」と呼んだが、今は「シリコンバレーでもっともパワフルな女性の1人」だ。(聞き手はジョナサン・テッパーマン、フォーリン・アフェアーズ誌副編集長)

グローバル化したイスラム国
―― 増殖する関連組織の脅威

2016年4月号

ダニエル・バイマン ジョージタウン大学教授

欧米諸国が、国内の若者たちがイラクやシリアへ向かうことを心配していればよかった時代はすでに終わっている。ジハード主義者たちが、中東だけでなく、中東を越えたイスラム国のさまざまな「プロビンス」を往き来するようになる事態を警戒せざるを得ない状況になりつつある。「プロビンス」を形づくる関連組織の存在は、イスラム国の活動範囲を広げる一方で、地域紛争における関連組織の脅威をさらに高めており、いずれ関連集団による対欧米テロが起きる恐れもある。だが、われわれは「コア・イスラム国」の指導者と、遠く離れた地域で活動するプロビンスの間で生じる緊張をうまく利用できる。適切な政策をとれば、アメリカとその同盟国は「プロビンス」と「コア・イスラム国」に大きなダメージを与え、相互利益に基づく彼らの関係を破壊的な関係へと変化させることができるだろう。

CFR Events
流動化するサウジ
―― 原油、イラン、国内の不安定化

2016年4月号

バーナード・ハイカル プリンストン大学教授(近東研究)、カレン・エリオット・ハウス 前ウォールストリートジャーナル紙発行人

サウジの社会契約は石油の富による繁栄を前提にしており、(原油安が続き)民衆が望むレベルの繁栄を提供できなくなれば、政府は政治的に非常に困難な事態に直面する。原油以外の歳入源(経済の多角化)について、さまざまな議論が行われているが、これまでうまくいったことはない。・・・リヤドは、歳出を削減して民衆の反発を買うよりも、非石油部門の歳入を増やそうとしている。これまで膨大な浪費を続けた国だけに、節約で一定の資金を手許に残せるが、最終的には、痛みを伴う是正策が必要になるだろう。(K・E・ハウス)

サウジは、イランのことをイスラム国以上に深刻な脅威とみなしている。イランは非国家アクターを操り、イラクからシリア、レバノン、パレスチナ、イエメン、おそらくはバーレーン、さらには、サウジ東部のシーア派を含む、サウジ周辺の全地域(と国内の一部)で影響力を拡大しているからだ。リヤドは、地域的、あるいは中東全域の地政学的優位をめぐって、イランとのゼロサムの関係にあるとみている。(B・ハイカル)

Page Top