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論文データベース(最新論文順)

対イラン強硬策を
―― イスラエル、湾岸諸国との連帯を模索せよ

2016年2月号

エリオット・コーエン ジョンズホプキンス大学ポール・ニッツスクール 教授(戦略研究)
エリック・エーデルマン ジョンズホプキンス大学ポール・ニッツスクール 戦略研究センター客員研究員
レイ・タキー 米外交問題評議会シニアフェロー

イランの核問題に関する最終合意として知られる包括的共同作業計画(JCPOA)は、歴史上もっとも大きな問題を内包する軍備管理合意の一つだ。この合意ではイランがウラン濃縮をする権利だけでなく、ウラン濃縮を産業化する権利さえも認められている。研究・開発施設の建設も許容され、検証・査察制度も実質的に骨抜きにされている。要するに、イランは経済制裁の解除を手にするだけでなく、核開発を正統化することに成功した。ワシントンはアメリカとイランが友好関係など構築できる環境にないことを理解できずにいる。イランの指導者たちが理解している通り、現実にアメリカとの良好な関係を築けば、イランの政治体制そのものが脅かされる。いまや、ワシントンはイスラエル、湾岸諸国とともに、イランに対する圧力行使策をとる以外に道はない。そうしない限り、中東の不安定化とイランの影響力拡大が続くことになる。

中国経済のスローダウンを分析する

2016年2月号

セバスチャン・マラビー 米外交問題評議会シニアフェロー(国際経済担当)、ブラッド・セッツアー 米外交問題評議会シニアフェロー(国際金融担当)

企業投資の前提は高度成長であり、成長の結果である消費の拡大によって、投資が作り出す財が吸収される。しかし、経済成長がスローダウンすれば、大規模な不良債権を抱え込む。これが資金の流れを淀ませ、経済成長は鈍化する。成長率の鈍化はさらに多くの融資を不良債権化する。・・・中国でこの手のネガティブなフィードバックループによる負の連鎖が起きる危険がある。(S・マラビー) 現在の中国経済に、(経済成長モデルの移行に派生する)構造的なスローダウンという側面があることは誰もが知っている。これに加えて、景気循環上の下降局面にあることも認識しなければならない。実際、不動産市場の冷え込みが製造業に影響を与え、これが賃金の成長や国内需要を抑え込んでいる。これらの下方圧力を、資金投入を通じた金融緩和政策によって十分に相殺できるかどうかが問われている。・・・金融緩和政策とそれが経済に与える衝撃を判断する上で、製造業購買担当者景気指数(PMI)は重要な指標だ。PMIを、緩和政策が不動産投資の落ち込みに端を発する成長を抑え込む流れを覆せるほどパワフルかどうか判断する目安にできる。(B・セッツアー)

世界経済リスクとしての中国経済の
不確実性
―― 持続不可能なフィードバックループ

2016年2月号

セバスチャン・マラビー 米外交問題評議会シニアフェロー(国際経済担当)

中国政府が避けようのない経済スローダウンのタイミングを先送りしよう試みれば、債務はますます肥大化し、最終的な結末をさらに深刻なものにするだろう。銀行がインフラプロジェクトに資金を注ぎ込み、IMFが予測するように、成長率は6%を超えるかもしれない。しかし、持続不可能なやり方に派生するリスクが認識されるようになれば、政府の資本規制をかいくぐって資金は外国へと流出する。いずれにせよ、2016年の中国経済に注目する必要がある。この10 年以上にわたって世界経済の成長を牽引してきた国が、次のグローバル経済ショックの震源地になるかもしれないからだ。・・・

「中国の台頭」の終わり
―― 投資主導型モデルの崩壊と中国の未来

2016年2月号

ダニエル・C・リンチ 南カリフォルニア大学国際関係大学院准教授 (国際関係論)

いまや中国はリセッションに直面し、中国共産党の幹部たちはパニックに陥っている。今後、この厄介な経済トレンドは労働人口の減少と高齢化によってさらに悪化していく。しかも、中国は投資主導型経済モデルから消費主導型モデルへの移行を試みている。中国の台頭が終わらないように手を打つべきタイミングで、そうした経済モデルの戦略的移行がスムーズに進むはずはない。でたらめな投資が債務を膨らませているだけでなく、財政出動の効果さえも低下させている。近い将来に中国共産党は政治的正統性の危機に直面し、この流れは、経済的台頭の終わりによって間違いなく加速する。抗議行動、ストライキ、暴動などの大衆騒乱の発生件数はすでに2000年代に3倍に増え、その後も増え続けている。経済の現実を理解しているとは思えない習近平や軍高官たちも、いずれ、中国経済が大きく不安定化し、その台頭が終わりつつあるという現実に向き合わざるを得なくなる。・・・

政治家アンゲラ・メルケルの光と影
―― 難民危機で問われる政治的立場

2016年2月号

クレア・グリーンシュタイン ノースカロライナ大学チャペルヒル校  博士候補生、ブランドン・テンスリー フルブライトスカラー(2012―2013)

アンゲラ・メルケルはメリハリがある政治家ではない。しかし、とにかく落ち着いている。政策も野心に満ちた大胆なものと言うよりも、穏やかさを特徴とする。彼女の政権が、ドイツ経済が安定していることを追い風としてきたのは間違いなく、プーチンとの対話チャンネルを維持していることも、彼女の対外的影響力を支えてきた。実際、ドイツはロシアにとって友人にもっとも近い存在であり、メルケルがロシア語を話せることもあって、ワシントンは実質的にドイツにあらゆるロシアとの交渉を代弁させている。だが、彼女の難民受け入れに寛容な路線を前に、キリスト教民主同盟内の反発が高まり、ドイツ市民の不満も高まっている。彼女の路線は「道義的帝国主義」と批判され、今後、極右勢力が勢いづいていくかもしない。・・・・市民の苛立ちは高まっているが、依然としてメルケルは潜在的な後継者を圧倒する力をもっている。

CFR Interview
民進党政権で中台関係はどう変化するか

2016年2月号

ジェローム・コーエン 米外交問題評議会シニアフェロー(非常勤)

国民党の馬英九政権は中国との協力関係を大きく進化させたが、交渉に関する十分な情報公開をせず、合意を市民による評価と監督に委ねることを怠った。これが間違ったやり方であることを立証したのが「ひまわり学生運動」だった。・・・台湾と大陸を一体化させていくことについて、民進党は今後も慎重な姿勢を崩さないだろうが、少なくとも、蔡英文は、これまでの協調路線を覆すのではなく、維持していくと表明している。・・・台湾と大陸との関係を進展させるかどうか、進展させるとして、それをどのように実現するか。これが次期政権の課題になるだろう。考えるべきは蔡英文が、台湾と中華人民共和国が「一つの中国」であるとする「92年コンセンサス」を受け入れるかどうかだ。・・・アジアでもっともパワフルな国である中国に近く、北東アジアと東南アジアの間に位置する「不沈空母」として、台湾はかなりの軍事戦略上の価値を持っている。しかし、可能性は低いとは言え、中国との統合を、台湾住民がリファレンダムを通じて明確に支持した場合には、アメリカがそれに反対することはないだろう。・・・(聞き手はエレノア・アルバート、オンラインライター・エディター)

CFR Interview
追い込まれたサウジアラビア

2016年2月号

トビー・マティーセン オックスフォード大学シニアリサーチフェロー

サウジ政府がエネルギー補助金の大幅な削減などの緊縮財政策を発表した後、ニムル師の処刑が実施されたのは偶然ではないし、同じタイミングでイエメンでの停戦合意をキャンセルして空爆を再開したのも偶然ではない。リヤドは宗派主義を政治ツールとして用いている。サウジにとって、イエメン、シリアでの紛争も思うようには展開していない。しかも、国内では経済問題を抱え、政治改革も行われていない。サウジが宗派対立や反イラン感情を煽るのは、こうした問題から民衆の関心をそらすためでもある。一方、地域的な反シーア派感情を煽り立て、ニムル師を処刑し、イランとの関係を遮断することで、ロウハニなどのサウジとの和解を求めるイランの穏健派の影響力は抑え込まれ、テヘランでは強硬派を勢いづかせている。一方で、サウジの新しい指導層もかなりの強硬派で、反イランの地域的グレートゲームの図式を、外交政策の基盤に据えている。・・・(聞き手はザチャリー・ローブ、オンラインライター・エディター)

サウジとイランの終わりなき抗争
―― 対立が終わらない四つの理由

2016年2月号

アーロン・デビッド・ミラー ウッドロー・ウィルソンセンター 副会長 (ニュー・イニシアティブ担当)、ジェイソン・ブロッドスキー  ウッドロー・ウィルソンセンター (リサーチアソシエーツ)

スンニ派の盟主、サウジは追い込まれていると感じている。原油価格は低下し、財政赤字が急激に増えている。イエメンのフーシ派に対する空爆コストも肥大化し、イランが地域的に台頭している。サウジは、複数の嵐に同時に襲われる「パーフェクトストーム」に直面している。一方、シーア派のイランは核合意によって経済制裁が解除された結果、今後、数十億ドル規模の利益を確保し、新たに国際社会での正統性も手に入れることになる。しかもテヘランは、シリアのアサド政権、イラク内のイラン寄りのシーア派勢力、レバノンのヒズボラを支援することで、地域的影響力とパワーを拡大している。シリア、イラクという中東紛争の舞台で、サウジとイランは代理戦争を展開し、いまや宗派対立の様相がますます鮮明になっている。このライバル抗争は当面終わることはない。その理由は四つある。・・・

CFR Events
激化する宗派対立と中東の混乱

2016年2月号

フィリップ・ゴードン 米外交問題評議会シニアフェロー (アメリカ外交担当)、レイ・タキー 米外交問題評議会シニアフェロー(中東担当)、アニヤ・シュメーマン 米外交問題評議会・ワシントンディレクター

「この10年間でイランは、イラク、レバントなど、かつてはプレゼンスをもっていなかった地域へと影響力を拡大している」とサウジはみている。一方イランは、「包囲されたサウジは、最近のシーア派指導者の処刑を含めて、自滅的な行動をとっている」とみなし、「これはリヤドが国内的に追い込まれている証拠だ」と考えている。もっとも、サウジでシーア派指導者が処刑されたことにイランが反発し宗派対立が激化することは、サウジにとっては織り込み済みだった。宗派対立の緊張を高め、スンニ派の立場を擁護していくとアピールし、サウジにおける支配体制を正当化できるとすれば、それはリヤドの利益になるからだ。さらに、今回の事件を通じてサウジが送ろうとしたメッセージの一つはワシントンを意識していた。すでに「アメリカはサウジの立場に反対している」とリヤドが判断しており、メッセージの目的は「サウジかイランか、どちらかを選ぶように」とワシントンに再考を迫ることにあった。・・・シリアやイエメンでの地域紛争が続く限り、基層部分に宗派対立という構図をもつサウジとイランの地政学的なライバル抗争は今後も続くだろう。・・・・

格差是正の具体策を提言する
―― 累進課税の強化と貧困層の富の拡大策を

2016年2月号

アンソニー・B・アトキンソン ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス教授

格差がかつてないレベルへと拡大しているのは、富裕層の所得が劇的に増加する一方で、貧困層の所得がさらに減少しているからだ。政治家は格差の拡大や貧困を懸念するが、是正は不可能だと半ば諦めている。だが、格差を是正する具体策はある。まず、所得税を累進的にする必要があるし、「遺産税」を拡大して、これを誰もが18歳になったときにもらえる「最低限所得保障」の財源にすべきだ。収入が一定以下の人に、税控除ではなく、政府が給付金を提供することもできる。失業対策として政府が「最後の雇用主」となるやり方もある。・・実のところ大部分の格差是正策は、すでに私たちの手の中にある。問題は、政府が格差問題に本腰を入れるかどうかだ。

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