20世紀末以降、欧米主導の国際秩序に対する反発を共有するトルコとロシアは相手の地政学的懸念に配慮し、経済協力を優先するようになったが、この数年で流れは変化し、いまや地域的優位の確立を目指す伝統的な地政学対立の構図が復活している。ロシアとトルコが良好な関係にあったこの15年は、むしろ両国の対立の歴史からみれば、例外的な時期だった。モスクワは黒海とエーゲ海をつなぐダーダネルス海峡、マルマラ海、ボスポラス海峡をトルコから手に入れることを歴史的に重視し、両国の関係はこの海洋ルートをめぐって第一次世界大戦前から緊張してきた。エーゲ海へ続く海峡を手に入れたいと考えたスターリンはトルコで共産主義革命を起こそうと画策した。その後もロシアはクルド労働者党(PKK)を支援してトルコを不安定化させようと試みた。最近のクリミア編入によってトルコに対するロシアの脅威は大きく高まり、いまやロシアとトルコの利益はカフカス、黒海、中東で衝突し始めている。