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論文データベース(最新論文順)

グローバル化したイスラム国
―― 増殖する関連組織の脅威

2016年4月号

ダニエル・バイマン ジョージタウン大学教授

欧米諸国が、国内の若者たちがイラクやシリアへ向かうことを心配していればよかった時代はすでに終わっている。ジハード主義者たちが、中東だけでなく、中東を越えたイスラム国のさまざまな「プロビンス」を往き来するようになる事態を警戒せざるを得ない状況になりつつある。「プロビンス」を形づくる関連組織の存在は、イスラム国の活動範囲を広げる一方で、地域紛争における関連組織の脅威をさらに高めており、いずれ関連集団による対欧米テロが起きる恐れもある。だが、われわれは「コア・イスラム国」の指導者と、遠く離れた地域で活動するプロビンスの間で生じる緊張をうまく利用できる。適切な政策をとれば、アメリカとその同盟国は「プロビンス」と「コア・イスラム国」に大きなダメージを与え、相互利益に基づく彼らの関係を破壊的な関係へと変化させることができるだろう。

CFR Events
流動化するサウジ
―― 原油、イラン、国内の不安定化

2016年4月号

バーナード・ハイカル プリンストン大学教授(近東研究)、カレン・エリオット・ハウス 前ウォールストリートジャーナル紙発行人

サウジの社会契約は石油の富による繁栄を前提にしており、(原油安が続き)民衆が望むレベルの繁栄を提供できなくなれば、政府は政治的に非常に困難な事態に直面する。原油以外の歳入源(経済の多角化)について、さまざまな議論が行われているが、これまでうまくいったことはない。・・・リヤドは、歳出を削減して民衆の反発を買うよりも、非石油部門の歳入を増やそうとしている。これまで膨大な浪費を続けた国だけに、節約で一定の資金を手許に残せるが、最終的には、痛みを伴う是正策が必要になるだろう。(K・E・ハウス)

サウジは、イランのことをイスラム国以上に深刻な脅威とみなしている。イランは非国家アクターを操り、イラクからシリア、レバノン、パレスチナ、イエメン、おそらくはバーレーン、さらには、サウジ東部のシーア派を含む、サウジ周辺の全地域(と国内の一部)で影響力を拡大しているからだ。リヤドは、地域的、あるいは中東全域の地政学的優位をめぐって、イランとのゼロサムの関係にあるとみている。(B・ハイカル)

ヨルダンとイスラム国
―― なぜヨルダンでは大規模テロが起きないか

2016年4月号

アーロン・マジッド アンマン在住ジャーナリスト

サウジアラビア、イラク、シリアとは違って、これまでのところヨルダン国内ではイスラム国による大規模なテロ攻撃は起きていない。国内のイスラム国関連の事件による犠牲者数は、多くて5人。ヨルダンの治安部隊、情報機関が洗練された高い能力をもっているとしても、それだけで「なぜヨルダンがイスラム国のテロを回避できているか」のすべてを説明するのは無理がある。おそらく他の中東諸国とは違って、ヨルダン政府が民意を汲み取る明確な姿勢をみせてきた結果、社会の混乱を抑え、テロのリスクを抑え込めたのかもしれない。「民主体制ではないが、ヨルダンはアラブ諸国のなかでも数少ない、市民が政府への要望や不満を表明できる国だ」。ヨルダンではアブドラ国王とムスリム同胞団はともに相手に対して寛容な立場をとっている。そこに問題への政治的解決策が存在することが、大がかりな社会的混乱も過激派テロもヨルダンで起きていない最大の理由ではないか。

踏み込むべきか、後退すべきか
―― 中東におけるアメリカの選択

2016年4月号

ケニス・M・ポラック ブルッキングス研究所シニアフェロー

13世紀のモンゴルによる侵略以降、中東がかくも深刻なカオスに陥ったことはない。イラク、リビア、シリア、イエメンが全面的な内戦に陥り、エジプト、南スーダン、トルコも内戦へと向かう危険がある。すでに内戦の余波が、アルジェリア、ヨルダン、レバノン、サウジアラビア、チュニジアを脅かしている。内戦を終結へ向かわせるのは難しく、決意に満ちた外部からの介入がなければ、内戦は数十年にわたって続く。アメリカの次期大統領は中東政策をめぐって非常に大きな選択に直面する。安定化のためにもっと踏み込んで関与するか、あるいは、さらに距離をとって離れていくかの決定を迫られる。より踏み込んだ関与をすれば、専門家が想定する以上の資源、エネルギー、関心そして政治資源を投入しなければならない。一方、現状の管理能力を手放し、より多くのコミットメントを放棄しても、中東から後退を求める勢力が考える以上の大きなリスクを引き受けなければならなくなる。・・・

豪潜水艦調達と日独仏の競争
―― アメリカは誠実な仲介者を

2016年4月号

ジョナサン・D・キャバリー ウッドロー・ウィルソン・センター フェロー

同盟諸国に「中国の拡大主義に抵抗する試みを強化するように」と働きかけてきたアメリカにとって、オーストラリアが新型の潜水艦を導入するのは歓迎できるニュースだろう。フランスやドイツにとって、共同開発・生産契約を受注できれば、重要で魅力的なディールになる。日本にとっては、契約を受注することはさらに大きな意義がある。契約を受注すれば、日豪のインフォーマルな同盟関係が強化され、中国を封じ込める上で大きな価値をもつからだ。アメリカ政府もこの見方を受け入れ、水面下では日本が契約を受注するのが好ましいと考えているようだ。しかし、前回の潜水艦調達をめぐって大きな失敗を犯したオーストラリアが今回求めている基準はかなり高く、日独仏のいずれにとっても、これを満たすのは容易ではない。重要なのは、軍事予算を押し潰すことなく、必要とする潜水艦をオーストラリアが調達できるかどうかであり、アメリカはその調達をめぐる「誠実な仲介者」の役割を心がけるべきだろう。

日本の新しいリアリズム
―― 安倍首相の戦略ビジョンを検証する

2016年4月号

マイケル・オースリン アメリカン・エンタープライズ研究所 レジデントスカラー、日本研究ディレクター

日本の地域的役割の強化を目指し、民主国家との連携強化を試みるために、安全保障行動の制約の一部を取り払おうとする安倍首相の現実主義的な外交・安全保障路線は、北朝鮮と中国の脅威という地域環境からみても、正しい路線だ。たしかに論争は存在する。市民の多くが平和主義を求める一方で、識者たちは日本の安全保障に対する脅威を憂慮している。しかし、そうした社会的緊張には、孤立主義や介入主義といった極端な方向に日本が進むことを防ぐ効果がある。超国家主義が日本を近隣諸国に対する侵略と戦争へと向かわせた1930年代と違って、現在の日本は、アジアを豊かさと安定へと導く「リベラルなシステム」を強化し、擁護していくために、古い制約を解体しつつある。再出現した権威主義国家がグローバルな平和を脅かすような世界では、日本の新しいリアリズムが太平洋地域の今後10年を形作るのに貢献し、アジアを特定の一国が支配するような事態にならないことを保証する助けになるはずだ。

「ドイツ主導のヨーロッパ」に挑むイタリア
―― マッテオ・レンツィはヨーロッパに代替策を提供できるか

2016年3月号

アンドレア・マモーン ロンドン大学ロイヤルホロウェイ 歴史学講師

ドイツが主導するヨーロッパ政治への反発はかつてなく高まっている。親ヨーロッパ派であるはずの経済エリートたちでさえ、ドイツが主導するヨーロッパ政治に不信感を募らせ、(緊縮財政にこだわるベルリンの頑迷な路線がヨーロッパ各国の投資と経済の再生を阻んでいると考えている。こうしたドイツ批判の急先鋒を担いでいるのが、イタリアのマッテオ・レンツィ首相だ。実際、ドイツ主導で進められた経済政策は景気を浮揚させることに成功していないし、失業率も低下していない。ローマはようやく、ベルルスコーニ政権期に失った信頼性と外交的停滞を回復しようと試み、巻き返しを図りつつあるようだ。実際、レンツィがEU内部で力を結集できれば、ナショナリズム、極右、反EU勢力とは関係のない、ドイツパワーへの代替策を提供できるかもしれない。

ヨーロッパの価値を救うには
―― イスラム系難民とヨーロッパ的価値の危機

2016年3月号

アレクサンダー・ベッツ オックスフォード大学教授 (国際関係論、強制移住策)

ヨーロッパ市民がイスラム系移民を歓迎していないのは事実だが、問題は、極右政党がこうした市民の不安につけ込んで、排外主義を煽り立てているのに対して、その他の政治的立場をとる政治家が、沈黙を守っていることにある。大衆がイスラム教徒に懸念をもつ社会環境のなかで、パリでの同時多発テロ、そしてケルンでの女性を対象とする性的暴行・強奪事件が起き、これがヨーロッパの難民問題の決定的なゲームチェンジャーとなった。だがヨーロッパにとっての真の問題は、市民がヨーロッパのイスラム教徒をどうみなすべきか、「難民や移民」と「テロリストや犯罪者」の区別をどうつけるかについて、政治家たちがビジョンを示してこなかったことにある。彼らは、選挙に悪影響がでたり、メディアにレッテルを貼られたりすることを懸念し、口を閉ざしてきた。こうして市民の反応は混乱し、思い込みに囚われるようになり、ヨーロッパの価値が脅かされている。・・・

イギリスの新しい国際的役割とは
―― 衰退トレンドを克服するビジョンを

2016年3月

ピーター・マーチン APCOワールドワイド アソシエート・ディレクター

イギリスの政治階級は、バックミラーを見ながら、将来を考えようとしている。このために、変化する世界におけるイギリスの地位について考えることができずにいる。この現状の根底にあるのは、国家アイデンティティの危機だ。歴史的に、イギリスは世界の覇権国からの凋落を正面から受け止めてこなかった。この国の世論調査では依然として「我が国は大国であり続けることを望むべきか」という問いかけがなされる。2015年の調査でも63%がイエスと答えているが、世界は、大国としてのイギリスの時代が終わっていることを知っている。イギリスの衰退を覆すには、過去を前提にするのではなく、未来から現在を捉える必要がある。ロンドンは、イギリスのことを「グローバル化を促進するとともに、その問題に対処していくことを目的とする思想と議論を提供し、橋渡し役を担う存在にすること」を考えるべきだろう。

経済格差と政治的自由
―― 自由と平等をいかに両立させるか

2016年3月号

ダニエル・アレン ハーバード大学教授(政治学、教育学)

アメリカの建国の父たちの多くは、政治的自由を実現するには、ある程度の経済的平等が必要であることを理解していた。実際、アメリカで政治的平等と自由がうまく保障されたのは、(土地の分配を通じた)白人社会における経済的平等に依るところが大きかった。だが、19世紀末になると、思想家ウイリアム・グラハム・サムナーは「選択肢は、自由と不平等と適者生存、あるいは、不自由と平等と不適者生存でしかない」と主張した。・・・経済的平等(と格差)が注目されるようになったのはごく最近になってからだ。建国の父たちが信じたように、自由と平等は互いに補完し合える関係となりうる。しかしそれを実現していくには、まず政治的平等を実現する必要がある。そのうえで、政治的平等を社会的、経済的領域における平等を実現するために利用し、またそれらを通じて政治的平等が維持されるように利用していく必要がある。・・・

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