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論文データベース(最新論文順)

地球を覆うエアロゾルを削減せよ
―― エアロゾルの拡散と水資源の減少

2016年5月号

ベラガダン・ロマナサン カリフォルニア大学サンジェゴ校 海洋学研究所教授(大気・気候科学)
ジェシカ・セダン インド工科大学マドラス校・科学技術・政策研究所ディレクター
デビッド・G・ビクター カリフォルニア大学サンジェゴ校・グローバル政策・戦略大学院教授

発電所で利用される石炭、自動車のディーゼル燃料、料理用の薪の燃焼など、温室効果ガスを排出する人間の活動は、一方でエアロゾルと呼ばれる微粒子も排出する。エアロゾルは、広い範囲に靄(もや)がかかる現象をもたらし、太陽光を遮ったり散乱させたりする。その結果、地表に届く太陽光エネルギーが減少し、いつ、どこに、どれくらいの雨が降るかを左右する水分の蒸発が減少して水循環を混乱させる。2050年までに世界人口の40%が苛酷な水不足に直面するとの予測もすでに出ている。各国政府が理解し始めているように、水不足は経済的、人道的な課題であるだけではなく、地政学的な問題も絡んでくる。エアロゾル汚染への対策は温室効果ガス削減のキャンペーンに比べて市民の大きな関心を集めないが、その対策を、気候変動を抑える地球規模の行動における重要な柱とすべき理由は十分にある。

文明は衝突せず、融合している
―― 将来を悲観する必要はない

2016年5月号

キショール・マブバニ シンガポール国立大学 リー・クアンユースクール学院長
ローレンス・サマーズ  ハーバード大学名誉学長

昨今の欧米世界ではイスラム世界の混乱、中国の台頭、欧米の経済・政治システムの硬直化といった一連の課題に派生する悲観主義が蔓延している。とにかく欧米人の多くが自信を失ってしまっている。しかし、悲観主義に陥る理由はない。悪い出来事にばかり気を奪われるのではなく、世界で起きている良いことにもっと目を向けるべきだ。この数十年で非常に多くの人が貧困層から脱し、軍事紛争の数も低下している。とりわけ、世界の人々の期待が似通ったものになってきている。これは、グローバルな構造の見直しをめぐる革命ではなく、進化へと世界が向かっていることを意味する。現在のペシミズムの最大の危険は、悲嘆に暮れるがゆえに悲観せざる得ない未来を呼び込んでしまい、既存のグローバルシステムを再活性化しようと試みるのではなく、恐れに囚われ、欧米がこれまでのグローバルなエンゲージメントから手を引いてしまうことだ。

オバマは広島を訪問すべきなのか
―― 感情と理念と政治

2016年5月号

ジェニファー・リンド ダートマス・カレッジ准教授

日本人の多くは、米大統領が被爆地を訪問することで、アメリカが原爆使用という過去と正面から向き合う機会が作り出されることを願っている。すでにホワイトハウスは、日本の市民グループ、軍縮運動家、子供たちなどから、オバマ大統領の広島訪問を希望する手紙を何千通も受けとっている。大統領の広島訪問を待望する人の多くは、「重要なのは謝罪ではない」と考えている。だが、米大統領が広島を訪問すれば、結局は東アジア地域の厄介な歴史問題がさらに複雑になる恐れがある。アメリカ大統領が「被害者としての日本」という考えの中枢である被爆地を訪問すれば、韓国など、日本の近隣諸国の多くはそれを快く思わないからだ。しかもアメリカでは大統領選挙が控えている。大統領が、献花された石碑の前に立ち、黙祷を捧げるにはあまりにも騒々しい環境にあるのは間違いない。・・・・

サウジと米大統領選挙
―― クリントン、トランプ、リヤド

2016年5月号

ファハド・ナゼル JTG 政治分析者

「ジョージ・W・ブッシュ政権が残した(中東における)負の遺産を清算すること」を自らの中東における任務に掲げたオバマも、結局は負の遺産を次期米大統領に委ねることになりそうだ。シリア紛争への関与を躊躇い、イランとの核合意を模索したことで、サウジとアメリカの関係は極度に冷え込み、サウジでは、オバマは近年における「最悪の米大統領」と呼ばれることも多い。次期大統領候補たちはどうだろうか。サウジの主流派メディアは、イスラム教徒の(アメリカへの)移民を禁止することで「問題」を緩和できると発言したトランプのことを「米市民のごく一部が抱く懸念や不満を煽りたてる問題人物」と描写している。クリントンに期待するとしても、その理由は、彼女がトランプではないというだけのことだ。ますます多くのサウジ市民が、安全保障部門でのアメリカの依存を見直すべきだと考えるようになっている。・・・

デジタル時代の外交
―― 大使館は依然として必要か

2016年5月号

アレックス・オリヴァー / 豪ローウィー国際政策研究所 プログラム・ディレクター

かつては政府にとって外国情報収集の要だった大使館も、リアルタイムのメディア報道やリスク管理会社による綿密な外国分析レポートに後れを取るようになった。しかも、本国の政府はいまや外国政府と直接やりとりできるし、インドのナレンドラ・モディ首相のように、ツイッター、フェイスブック、インスタグラムを駆使するトップリーダーも現れている。だが、大使館はメディアとは違って、国益の促進という視点から、それまでの経験と知識を生かして特定の出来事を文脈に位置づけ、分析できる。大使館がなくなれば、現地の情勢や鍵を握る人物が誰であるかを知る外交官も、自国の市民が外国で窮地に陥ったときに手を差し伸べる領事館の職員もいなくなる。だがそれでも今後、大使館の運命は「より機敏に状況に対応できるようになれるか、流動化するグローバル情勢により適応に対応できるようになれるか」に左右される。だが、数世紀にわたって存在する伝統的な組織にとって、そうした変貌を遂げるのは決して容易ではないだろう。

日本の新しいビジネス文化
―― 日本の起業家世代と社会貢献

2016年4月号

デヴィン・スチュワート カーネギー国際関係倫理委員会シニアフェロー

日本政府の高官たちも、経済再生の柱としての量的緩和と財政出動によってかろうじて成長が支えられていることに気づき始め、新戦略では「スタートアップ企業」が重視されている。ベンチャー企業と新技術への投資を奨励し、大学におけるアントレプレナーシップ(起業精神)の訓練と教育を支援し、シリコンバレーのアントレプレナー(起業家)と日本のアントレプレナーたちをセミナーやメンターシップ・プログラムを通じて結びつけようとしている。もちろん、日本の新企業に投資されたベンチャーキャピタル資金はわずか約10億ドルで、同年のアメリカのスタートアップに投資された590億ドルと比べると依然として大きく見劣りする。しかし、日本の企業文化のなかで次第にスタートアップ企業が受け入れられ始め、起業家の社会的な地位も高まっている。「いまや優秀な学生たちはグーグル、マッキンゼー、そしてスタートアップ企業に就職したいと考えている」

中印の間で揺れるネパール
―― ネパールは中継貿易の拠点を目指せ

2016年4月号

ファハド・シャー ジャーナリスト

文化的にインドと近いネパールのマデシ民族の自治要求をめぐってインドとの関係が緊張するなか、ネパール政府は(インドのライバルである)中国との関係強化を模索しているかのような動きをみせている。ネパール政府は「インドは国内で差別の撤廃や自治権の拡大を求めて運動を展開しているマデシを支援している」と批判した。事実、インド政府はネパールに対して(マデシの意向に沿うような)憲法改正を促し、カトマンズは「内政干渉だ」とこれに強く反発した。一転、ネパールは中国との北部貿易ルートの開発に力を入れ、中国も開発援助の増額やさまざまな開発プロジェクトでこれに応えている。北京はチベットの治安対策面でもネパールとの関係強化に関心を持っている。中国との良好な関係を形作るのは良いことだが、結局のところ、ネパールにとって「中国はインドの代替策にはなり得ない」。むしろ、ネパールは中印貿易の中継基地として戦略的立地を生かすべきではないか。

米大学生への留学の薦め
―― 国際問題と外国への感性を高めるには

2016年4月号

サンフォード・J・アンガー ガウチャー大学名誉学長

アメリカ人には、外国に関する知識や理解がほぼ例外なく欠落している。しかも外交予算は削られ、メディアも国際報道を減らしている。いまや大統領選挙の論争においてさえ、外交問題について十分な情報に基づく議論を聞くことはない。このために、アメリカの価値を反映し、大衆も支持するような、冷静で一貫性のある外交政策の策定と実施が妨げられている。必要なのは、大学のカリキュラムの一環として外国に留学し、貴重な知見を得てアメリカに帰ってくる大学生を大幅に増やすことだ。アメリカの現在そして過去のリーダーの多くは、若くて感受性が強いときに、外国に留学し、外国でさまざまな活動に従事した経験を持っている。この事実は、企業、政府、科学、教育、非営利組織、芸術など分野を問わない。留学生の増加をアメリカの社会と外交政策の改善につなげていくには、留学プログラムへの参加者の数と多様性を大幅に拡大する必要がある。

ローマ史はわれわれに何を問いかける
―― 近代政治への教訓

2016年4月号

マイケル・フォンテーヌ コーネル大学准教授(古典)

ローマ人はすでに5世紀末までに、その後、19世紀半ばまで西洋世界が実現できなかった高度な生活レベルを享受していた。そこには水洗トイレ、大理石のキッチンカウンター、屋内暖房、美容歯科まであった。ローマはこのライフスタイルを「元老院とローマの市民」(SPQR)として知られる、市民と選挙で選ばれる指導者との関係を通じて保障していた。そうした古代ローマの歴史には近代政治の教訓とできるエピソードが数多くある。移民問題、予防攻撃、ポリティカル・コレクトネス、宗教集団への対応、マイノリティの扱いなどだ。紀元前146年にローマがカルタゴ相手に最終的に勝利を収めて以降の歴史は、新たな一極世界における覇権が伴う問題が何であるかもわれわれに教えている。その後、ローマでは対外的な敵の消失によって、内的な権力抗争が展開されるようになり、小さな脅威でさえも帝国の存続を脅かす脅威とみなされるようになった。・・・

イノベーションと 「70対20対10ルール」
――ルース・ポラットとの対話

2016年4月号

ルース・ポラット アルファベット CFO(最高財務責任者)

ルース・ポラットは、テクノロジー企業のエグゼクティブとしては異例のキャリアの持ち主だ。2015年5月にグーグル、その数カ月後にグーグルの持ち株会社アルファベットの最高財務責任者(CFO)に就任するまで、彼女は米金融大手モルガン・スタンレーのCFOだった。2008年の金融危機では、経営不振に陥った米保険最大手AIGの処理について連邦準備制度理事会(FRB)と、連邦住宅抵当公社(ファニーメイ)と連邦住宅貸付抵当公社(フレディマック)の処理について米財務省と協力した経験をもっている。オバマ政権下の2013年には、財務副長官候補に名前が上がったこともある。政治サイト「ポリティコ」はポラットのことを「ウォール街でもっともパワフルな女性」と呼んだが、今は「シリコンバレーでもっともパワフルな女性の1人」だ。(聞き手はジョナサン・テッパーマン、フォーリン・アフェアーズ誌副編集長)

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