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論文データベース(最新論文順)

次期米大統領のための新国防戦略
―― 形骸化した軍事的優位を
再確立するには

2016年9月号

マック・ソーンベリー 米下院議員
アンドリュー・F・クレピネビッチ 米戦略評価センター会長

西太平洋、湾岸地域、ヨーロッパというアメリカが重要な利益をもつ地域で支配的な力をもつ覇権国が登場するのを阻止するというアメリカの戦略目的は今も変化していない。だが、これらの地域には中国、イラン、ロシアというリビジョニスト国家が存在するために、地域的覇権国出現の阻止、グローバルコモンズの擁護という二つの課題をクリアーしていくのは容易ではない。リビジョニスト国家は、長距離精密誘導兵器、対衛星兵器システム、サイバー兵器などを利用して接近阻止・領域拒否(A2/AD)能力を高め、すでにアメリカの優位を脅かしているからだ。グローバルコモンズも同様だ。海や空、宇宙空間だけでなく、サイバー空間も経済戦争やテロの舞台へと変化し、海中・海底の経済インフラが攻撃ターゲットにされるのも時間の問題だろう。

日韓の核開発をアメリカは容認すべきか
―― 核の傘から
「フレンドリーな拡散」へ

2016年9月号

ダグ・バンドウ ケイトー研究所シニアフェロー

日本や韓国が核武装を考えているとすれば、なぜワシントンが彼らの防衛と安全を保証しなければならないのかという考えが浮上してもおかしくない。一方で、ワシントンが日韓への防衛コミットメントを続けるかどうか迷い始めれば、両国を核武装へと向かわせるかもしれない。日本と韓国が中国や北朝鮮に対抗していくために、(核開発を通じて)独自の抑止力を構築することを望むのなら、ワシントンはそれを許容することも考えるべきだろう。日韓が核抑止力を手に入れれば、仮に紛争が起きても、アメリカが自動的に戦争に巻き込まれることもなくなり、ワシントンは自国の防衛に向けて戦力を再編できる。アメリカのグローバルな防衛上のコミットメントに必要とされるコストは、コミットメントから得られる利益を上回っている。ソウルと東京が北朝鮮に対抗する兵器を開発するのを決意するのであれば、それを許容することをワシントンが検討しないのは愚かだろう。

欧州のシルバー民主主義と年金危機
―― その弊害をいかに緩和するか

2016年9月号

エドアルド・カンパネッラ ウニクレディト銀行ユーロ圏エコノミスト

ヨーロッパの若年層が「自分たちも親世代と同じように寛大な年金を受けとれる」と考えていたのはそう昔の話ではない。だが、現実にはヨーロッパ全域で、未来の世代に重荷が押しつけられ、高齢者の立場が「政治的に」優遇されている。年金危機対策にしても、結局は、「将来の年金受給者」を対象とする見直しが行われただけで、引退世代の社会保障は温存されている。イギリス、イタリア、スペイン、フランスなどで実施された一連の制度改革は、いずれも現在の年金受給者には何の影響も与えない。しかも実際には、ヨーロッパの退職者の所得の中央値は現役労働者の所得の中央値と等しく、退職者の方が高い国さえある。年金制度の破綻を防ぐには、財政の持続可能性、世代間の連帯、世代間の公正という三つの原則間のバランスをとる必要がある。

アメリカ後の中東における
イスラエルの立場
―― 紛争の中枢から安定の柱へ

2016年8月号

マーチン・クレーマー シャレム・カレッジ 学長

中東には巨大なパワーの空白が生じている。憶測を間違えた一連の行動をとった挙げ句、アメリカは中東から遠ざかろうとしている。オバマは同盟国へのコミットメントを減らす一方で、敵対勢力をなだめ、穏健化させることを通じて中東秩序の均衡を図ろうと考えていた。だが、伝統的な中東の同盟国がこの突然の戦略シフトを全面的に信用し、受け入れることはなかった。一方で、イランに対するアラブ諸国の懸念が、曖昧で決め手に欠ける和平プロセス以上に、中東におけるイスラエルとの存在を正常化する作用をし始めている。この流れが続けば、かつては紛争の中枢にあったイスラエルが地域的安定の柱とみなされるようになる可能性もある。

漂流する米・サウジ関係

2016年8月号

F・グレゴリー・ゴース テキサスA&M大学 行政大学院教授(国際関係)

戦後のアメリカとサウジの関係を支えてきた複数の支柱に亀裂が入り始めている。両国を「反ソ」で結束させた冷戦はとうの昔に終わっている。イラクのサダム・フセインが打倒されたことでペルシャ湾岸諸国への軍事的脅威も消失した。しかも、米国内のシェールオイルの増産によって、(中東石油への関心は相対的に薄れ) エネルギー自給という夢が再び取りざたされている。一方サウジは中東全域からイランの影響力を排除することを最優先課題に据え、中東政治で起きることすべてを、イランの勢力拡大というレンズで捉えている。当然、アメリカが重視するイスラム国対策にも力を入れようとしない。すでに「サウジとの同盟関係に価値はあるのか」という声もワシントンでは聞かれる。しかし中東が近い将来、安定化する見込みがない以上、リヤドとの緊密な関係を維持することで得られる恩恵を無視するのは愚かというしかない。・・・

イギリスにとって本当の問題は何か
―― 消失したEUというスケープゴート

2016年8月号

ダニエル・ケレメン ラトガース大学教授(政治学)

経済不安、生活水準の低下、近年の公共サービス削減に対する怒りを投票で表したEU離脱派の有権者も、最終的には問題の本質が、EUからの移民流入ではなく、イギリス経済の構造変化と保守党政権の政策にあることに気づくだろう。イギリスの政治家と有権者の多くは、長年、自国の問題をEUのせいにしてきた。今後、EU離脱の選択が景気悪化を招き、政治的亀裂が拡大するなかで、EUに代わるスケープゴートを別に見つけなければならなくなる。EUから出た方が、暮らし向きがよくなるかどうかは、すぐにはっきりする。

ブレグジットとヨーロッパの未来
―― NATOとユーロへの波及はあるか

2016年8月号

スピーカー: リチャード・ハース 米外交問題評議会会長、セバスチャン・マラビー 米外交問題評議会シニアフェロー(国際経済担当)、 プレサイダー: アニヤ・シュメーマン 米外交問題評議会 ワシントンディレクター

私は重大な問題を国民投票(住民投票)の判断に委ねることには疑問がある。われわれには議会という存在があり、これが代議制民主主義の根幹をなしている。複雑で論争のある問題の決定を国民投票に委ねれば、ブレグジットのような極端な結果に直面する危険がある。国家にとってのメリット・デメリットを考慮して何かを判断するのではなく、多くの人が(感情的)メッセージを伝える手段として国民投票を実施するのは危険を伴う。かくも大規模な近代社会において国民投票が、複雑かつ巨大な問題に対処していく建設的な方法だとは思わない。(R・ハース)

問題は、(ブレグジットによって)今後(イギリスが)不確実性という雲に覆われることになれば、この国への長期投資が遠ざかっていくことだ。おそらく、外国直接投資が干上がることになるかもしれないし、これが経済への下方圧力をさらに高めることになる。こうした富の減少が不動産その他の資産市場を通じて広がりをみせ、最終的に消費を抑え込むことになるだろう。(S・マラビー)

国際法と南シナ海の騒乱
―― ワシントンが北京の穏健派を支えるには

2016年8月号

アリ・ウェイン  アトランティックカウンシル  非常勤フェロー

「中国の(南シナ海における)歴史的主張には法的根拠がない」とした国際仲裁裁判所の判断に北京が配慮する気配はなく、それが伴う国際的立場の失墜さえ気にしていないようだ。これは、一つには「中国はルールを踏み外している」という批判の法的根拠である国連海洋法条約(UNCLOS)にアメリカが参加していないことを北京が理解しているからだ。しかも、「これまで国連海洋法をめぐる仲裁裁判所の判断に従った国連安保理の常任理事国が存在しない」のも事実だ。但し、北京の穏健派は、九段線を今後も「境界線」とみなし続ければ、「アメリカ、そして殆どの東南アジア諸国を敵に回すことになる」と事態を懸念している。

トルコで何が起きているのか
―― 宗教化する政治と過激化する社会

2016年8月号

ソーナー・カギャプタイ ワシントン近東政策研究所  シニアフェロー

トルコ共和国の初代大統領、ムスタファ・ケマル・アタチュルクは「宗教が政治に入り込むのを阻止する堅固な防波堤を築き、トルコを西洋の国として定義した」。これに対してエルドアンは保守的イスラム主義をトルコの政治と教育システム、そして外交政策に反映させようとしている。市民が信仰を個人の生活レベルに留めることを求めたアタチュルクは、過度に保守的な宗教指導者を社会から排除したが、いまや流れは覆され、エルドアンは宗教保守の立場を共有しない人物を二流市民とみなしている。ジハーディストがシリアでの活動のためにトルコを拠点として利用し、イスラム国が台頭するなかで、このような政策がとられたために、いまやトルコ社会は過激化している。イスラム国の脅威が高まるなか、国家と社会にとって痛手なのは、クーデター未遂事件によって、かつてはトルコでもっとも信頼され、結束を誇った軍に対する政府と社会の信頼が今後失墜していくと考えられることだ。

逆風にさらされる民主主義
―― 内向きのアメリカと衰退する世界の民主主義

2016年8月号

ラリー・ダイアモンド  スタンフォード大学 フーバー研究所 シニアフェロー

「人権を重視する民主国家が自国の市民に暴力的な行動をとるリスクは低く、しかも、民主国家同士は戦争をしない」。当然、アメリカが世界で民主化促進策をとる価値は十分にあるが、「国際問題よりも、むしろ国内問題に専念すべきだ」と考える内向きの社会圧力という逆風にワシントンはさらされている。しかも、アメリカの民主主義が世界であこがれや模倣の対象とされることもなくなった。米大統領選挙からも明らかなように、アメリカ市民は大きな疎外感を抱き、現状に怒りを募らせ、一方ワシントンは現状にうまく対処できずにいる。法案はなかなか成立せず、超党派外交など望みようもなく、議会で予算案が紛糾し、定期的に政府機関が閉鎖の危機に追い込まれている。だがこの環境でもアメリカの民主主義への信頼を回復し、民主化促進策をとる余地は残されている。・・・

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