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論文データベース(最新論文順)

日米自由貿易協定の交渉を
―― 日米関係の戦略基盤を強化するには

2017年2月号

マイケル・オースリン  アメリカン・エンタープライズ研究所 日本研究担当ディレクター

トランプは、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)という複雑な多国間貿易協定を批判しつつも、「私なら必要になれば再交渉できるような、透明性があり、よりシンプルで合理化されたアメリカの労働者にダメージを与えない二国間合意をまとめる」と約束している。(多国間貿易合意であるTPPへの反対をもって)トランプのことを「自由貿易に反対する重商主義者だ」と考える評論家は、彼が現実には自由貿易政策を模索するかもしれないことを無視している。(多国間貿易合意は拒絶しても)自由貿易体制を維持していくことに本気なのであれば、トランプはまず日本と自由貿易合意を交渉すべきだろう。日米二国間自由貿易合意の原型はすでにTPPによって描かれているからだ。日米の安全保障面での協調はすでに深化しており、二国間自由貿易協定交渉を通じて関係をさらに固めていけば、日米関係の戦略基盤をさらに強化できるだろう。

北京が台湾を取り戻すことなどあり得ない。台湾を中国の一つの省とみなす神話を永続化させるのは無意味であり、いまや台湾は普通の国家へ歩み出すタイミングだろう。そのためには、中華民国のかつての主張を前提とする南シナ海における領有権の主張を撤回し、「台湾が中華民国である」という虚構を捨てる必要がある。それがレトリックだとしても「中国大陸での一部の権利を有している」という主張を捨て去ることだ。公式に独立宣言を出す必要は必ずしもない。中華民国というこの島の名称を台湾へ公式に変えるべきだろう。これなら、独立宣言でなく、アイデンティティの宣言になる。もはや中華民国という(中国を想起させる)名称を用いない台湾なら、アメリカ、そして世界各国は、現在のパレスチナがそうであるように、今後より積極的に台湾と交流していけるようになる。

中東がトランプに抱く期待と不安
―― 米次期政権の中東政策を考える

2017年1月号

アハロン・クリーマン テルアビブ大学名誉教授(外交研究)
ヨエル・グザンスキー テルアビブ大学 国家安全保障研究所フェロー

アラブの指導者たちは、ドナルド・トランプがいくら反イスラム的な発言を繰り返しても、それでもヒラリー・クリントンが大統領になってオバマ政権のイラン・シリア政策が永続化されるよりもましだと考えていた。彼らが、トランプの大統領選挙での勝利を祝福したのはこのためだ。しかし、トランプ政権が先を見据えた行動をとったとしても、中東諸国の信頼を取り戻すには、より緊密な協議や協調、公的な安全保障合意、武器供給、オフショア戦力配備、さらにはイランに対する圧力強化などが必要になる。トランプはイラン合意を「交渉でまとめられた最悪の合意」と何度も批判してきたが、実際にはイランに強硬策をとれるかどうかはわからない。アラブ世界は解体しつつあり、ロシアとイランがより積極路線をとり、しかもこの地域では四つの紛争が戦われている。新米大統領は機能不全に陥った中東に関する気も萎えるほどに大きな一連の決断に直面することになる。

ヨーロッパをトランプ外交から守るには
―― ドイツはリベラルな秩序を擁護できるか

2017年1月号

トルステン・ベナー グローバル公共政策研究所 (在ベルリン)所長

トランプの勝利が決まった直後、ベルリンのタブロイド紙B.Z.は、今夜は「西洋が死んだ夜」になったと表現した。北大西洋条約機構(NATO)を嫌悪し、貿易保護主義を擁護するトランプの姿勢を、安全保障と自由貿易によって豊かさを享受してきたドイツ人は特に警戒している。ドイツは最悪のシナリオに備えるべきだろう。トランプが、アメリカの同盟国と多国間機構、そして国際協定に深刻なダメージを与える事態に備える必要がある。変化に対応する最善の方法は、ドイツが国防能力を強化し、明白な原則に基づいてワシントンに接することだ。・・・アメリカの同盟国と世界におけるアメリカの役割を守る決意をもつ米議会共和党との関係を強化する必要もある。ヨーロッパの混乱ゆえに、できることは限られているが、ドイツはダメージコントロールを試み、NATOを含む大西洋同盟や国際機構をトランプ政権から守ることを再優先にすべきだろう。

次期米大統領のアジア政策
―― 同盟システムの軽視と単独行動主義

2017年1月号

ミラ・ラップ・ホッパー センター・フォー・ニューアメリカンセキュリティー シニアフェロー(アジア・太平洋安全保障プログラム)

ドナルド・トランプはTPPに反対し、(アメリカ人の雇用を奪う)中国からの輸入に45%の課税を適用すると公約している。そのようなことをすれば貿易戦争が起き、米経済は深刻なリセッションに陥る。数百万のアメリカの雇用が失われ、日韓を含む同盟諸国の経済もダメージを受ける。安全保障領域でも、日本と韓国に米軍の駐留コストを全額支払うように何度も求め、そうしない限り、米軍部隊の規模を削減していくと語っている。すでにアメリカのコミットメントへの信頼は揺らいでいる。トランプはまるで不確実性を作りだすことがドクトリンであるかのような発言を繰り返し、外交ツールとして経済懲罰策を振りかざす路線を強調している。新大統領は後退路線を、側近たちは単独行動主義を主張しているが、重要な部分を共有している。ともに、戦後国際秩序におけるアメリカのリーダーシップを支えてきた「同盟システム、国際的ルールや規範を基盤とする外交を求めていない」ことだ。

デジタル経済とアナログ経済の未来
―― 政府と企業は新しいモデルを導入せよ

2017年1月号

サミュエル・パルミサーノ 前IBM・CEO(最高経営責任者)

企業にとって基本的な課題は、(アナログ世界とデジタル世界という)二つの世界の双方で活動する際に、(アナログ世界の)政治や社会が作り出す障害を迂回するか、克服する一方で、(デジタル世界の)つながりと統合が提供する機会をうまく生かし、その適切なバランスをいかに見出すかにある。経済開発を促進し、経済成長軌道へと立ち返ることに配慮するビジネスの指導者と政府官僚も、アナログ世界とデジタル世界という拡大する二つの領域のバランスに目配りをしなければならない。二つの領域が交差する領域をいかに最適化するかで、グローバルなビジネスの構造が左右され、この構造が将来における成功を左右する。現状において重要なのは、啓蒙的な指導者たちが企業と政府の新しいモデルを考案し、これを常に近代化していくことだ。そうしない限り、われわれは不寛容と緊張に支配される世界に直面することになる。

CFR Events 人工知能と雇用の未来
―― 人間と人工知能の共生を

2017年1月号

ジェームズ・マニュイカ マッキンゼー&カンパニー シニアパートナー
ダニエラ・ラス  マサチューセッツ工科大学(MIT)教授
エドウィン・ファン・ボメル IPsoft チーフ・コグニティブ・オフィサー

「2010年当時、自律走行車のことを議論する者はいなかったが、6年後のいまや誰もがこのテクノロジーを当然視している。この現状は、驚くべき計算処理能力の進化、優れたセンサーとコントローラー、さらには地図を作り、ローカライズする優れたアルゴリズムによって実現している。しかも、今後、技術的進化のペースはさらに加速すると考えられる」。(D・ラス)

「仕事(タスク)のすべてがオートメーション化されなくても、6割の雇用においてその生産活動あるいはタスクの30%がオートメーション化されると考えられる。これは具体的に何を意味するだろうか。雇用がなくなることはないが、仕事の内容が大きく変化する。・・・この仕事の変化がより大きな影響をもつ。機械とともに働くには、労働力に求められるスキルと能力も変化していく」(J・マニュイカ)

「(人間のようにやりとりできる人工知能プラットフォーム)アメリアが会話を担当できるようになっても、人間に残されるタスクは数多く残されている。例えば、金融部門なら、クライアントへのアドバイスにもっと時間を割くこともできるし、クライアントと今後の市場についてゆっくり話すこともできるようになる。しかも、アメリアやワトソンのような新しいプラットフォームを管理していく新世代の仕事も必要になる。具体的には、これらのシステムが適切に学習しているかどうか、規制内で活動してコンプライアンスを守っているかどうかを確認する人材が必要になる」(E・ファン・ボメル)

民主主義はいかに解体されていくか
―― ポピュリズムから独裁政治への道

2017年1月号

アンドレア・ケンドール・テイラー 国家情報会議・副国家情報官
エリカ・フランツ ミシガン州立大学准教授

ポピュリストの指導者が主導する民主体制の解体ペースがゆっくりとしたものであるために、広範な反対運動を刺激するような劇的な展開はなく、反政府勢力を団結させるようなはっきりとした争点も浮かび上がってこない。仮に反政府勢力が組織されても、ポピュリストたちは、彼らを「第五列」、「エスタブリッシュメントのエージェント」、あるいは、「システムの不安定化を狙う工作員」と呼ぶことで、封じ込める。司法や治安サービスなどの権力の中枢を握るポジションに忠誠を尽くす人材を配し、メディアを買い上げることでその影響力を中和し、メディアを縛る法律を成立させ、検閲システムを導入する。この戦略がとられると、実際には民主主義が解体されているかどうかを見極めにくくなる。この狡猾さが、21世紀の民主主義に対するもっとも深刻な脅威を作り出している。

オバマは外交戦略の前提として、世界におけるアメリカの役割をより穏やかなものにすることを考えていた。(アメリカの後退路線によって)自己防衛努力を迫られる同盟国は国防体制を強化し、より自己規制の効いた国際秩序を作りだせると考えていた。一方、トランプはオバマ以上に全面的にオフショアバランシング、つまり、同盟相手へのバーデンシフティングを進めるのではないかと考えられている。トランプは、アメリカのNATOへのコミットメントを低下させ、より取引を重視した同盟関係へと仕切り直し、一方で、東ヨーロッパとシリアについてはロシアの好きにさせると示唆している。先行きを不安に感じているアメリカの同盟諸国に対して、新大統領は同盟諸国を安心させる措置をとっていくべきだが、そのプロセスでリベラルな国際秩序を脅かす必要はない。このバランスをトランプが発見できるかどうかは、今後を見守るしかない。

「アメリカ、ヨーロッパその他におけるポピュリストの台頭は、最近におけるグローバル化の時代の終わりを意味し、1世紀前にグローバル化の時代が終わった後と同様に、今後、われわれは不穏な時代を迎えることになる」。こう考えるのがいまや一般的になっている。しかし、1世紀前とは大きく違って、いまや不穏な事態に陥るのを防ぐさまざまな国内的、国際的なバッファーがある。1930年代のような経済的、地政学的カオスへと陥っていくことはあり得ない。問題は、今後も他のいかなる国にも増して大きな軍事、経済、ソフトパワー上の資源を維持していくとしても、アメリカがその資源を、国際システムを支える公共財の維持のために用いなくなる恐れがあることだ。多くの人はそれを失うまで、リベラルな秩序が安全と繁栄を支えていることに気づかないかもしれない。しかし、それに気づいたときには、すでに手遅れだろう。

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