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デジタル時代の外交
―― 大使館は依然として必要か

アレックス・オリヴァー / 豪ローウィー国際政策研究所 プログラム・ディレクター

The Irrelevant Diplomats
―― Do We need Embassies Anymore?

Alex Oliver 豪ローウィー国際政策研究所 プログラム・ディレクター。

2016年5月号掲載論文

かつては政府にとって外国情報収集の要だった大使館も、リアルタイムのメディア報道やリスク管理会社による綿密な外国分析レポートに後れを取るようになった。しかも、本国の政府はいまや外国政府と直接やりとりできるし、インドのナレンドラ・モディ首相のように、ツイッター、フェイスブック、インスタグラムを駆使するトップリーダーも現れている。だが、大使館はメディアとは違って、国益の促進という視点から、それまでの経験と知識を生かして特定の出来事を文脈に位置づけ、分析できる。大使館がなくなれば、現地の情勢や鍵を握る人物が誰であるかを知る外交官も、自国の市民が外国で窮地に陥ったときに手を差し伸べる領事館の職員もいなくなる。だがそれでも今後、大使館の運命は「より機敏に状況に対応できるようになれるか、流動化するグローバル情勢により適応に対応できるようになれるか」に左右される。だが、数世紀にわたって存在する伝統的な組織にとって、そうした変貌を遂げるのは決して容易ではないだろう。

  • デジタル時代の外交(部分公開)
  • 逆風にさらされる在外公館
  • 大使館の存在理由
  • 生き残るには

<デジタル時代の外交>

大使館、それも、少なくとも従来型の大使館は存在理由を失いつつある。21世紀におけるグローバル環境の変貌が、国家外交の形を劇的に変化させているからだ。デジタルコミュニケーションが台頭し、外交予算が削減される一方で、安全保障上の脅威は高まっている。この状況を前に伝統的な大使館が果たして価値をもてるのかどうか、いまや疑問視され始めている。

ローウィー国際政策研究所の調査によれば、経済協力発展機構(OECD)のメンバーである先進諸国の半数以上が、過去10年間で、外交活動の対象を縮小させている(われわれの研究所は「グローバル外交インデックス」として、世界の約660都市に広がる6000近い外交拠点を地図で示すプロジェクトを実施している)。

各国が外交予算を削減するなか、大使館や外交官は政治上の重要な資産というよりも、むしろ高価な贅沢品のようにみなされている。「外交官の給料は高すぎるし、いまやカクテルパーティーに通っているだけでは、時代の流れをうまく把握できない」とみなされており、このイメージも大使館を逆風にさらしている。

確かに、外交官の顔ぶれは多様性に欠けるし、ソーシャルメディアを含む、技術革新を採り入れようとしない傾向がある。実際、インドネシアに駐在するオーストラリアの外交官たちは、2010年の段階になってもソーシャルメディアを使っていなかった。この国は各国の大使館が集中する場所だし、オーストラリアが最大の援助を与えている国で、アジアにおける最重要の隣国のひとつだ。「オーストラリア外務省はデジタル時代に取り残された恐竜だ」と2010年に批判されたにも関わらず、2012年になっても、外務次官は「デジタル外交を優先課題とは考えてこなかった」と発言している。

各国政府は、経済外交の重要性が増すにつれて、大使館よりも貿易促進担当省庁やイノヴェーションハブ(技術革新ネットワーク)の形成に力を入れている。われわれの研究では、イギリス外務省は2009年から2015年の間に30の在外公館を廃止する一方で、科学・イノヴェーションネットワークの対象国を24カ国から28カ国へと拡大させている。

かつては政府にとって情報収集の要だった大使館も、リアルタイムのメディア報道やNGOやリスク管理会社による綿密な外国分析レポートにいまや後れを取っている。世界がインターネットでつながっている現在、各国政府は諸外国政府と直接やりとりできるし、しかもインドのナレンドラ・モディ首相のように、ツイッター、フェイスブック、インスタグラムを駆使するトップリーダーも現れている。そうした指導者は大使館の頭越しに内外の膨大な数の人々に直接話しかけることができる。

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