CFR Interview
追い込まれたサウジアラビア
What's Driving Saudi Actions?
2016年2月号掲載論文
サウジ政府がエネルギー補助金の大幅な削減などの緊縮財政策を発表した後、ニムル師の処刑が実施されたのは偶然ではないし、同じタイミングでイエメンでの停戦合意をキャンセルして空爆を再開したのも偶然ではない。リヤドは宗派主義を政治ツールとして用いている。サウジにとって、イエメン、シリアでの紛争も思うようには展開していない。しかも、国内では経済問題を抱え、政治改革も行われていない。サウジが宗派対立や反イラン感情を煽るのは、こうした問題から民衆の関心をそらすためでもある。一方、地域的な反シーア派感情を煽り立て、ニムル師を処刑し、イランとの関係を遮断することで、ロウハニなどのサウジとの和解を求めるイランの穏健派の影響力は抑え込まれ、テヘランでは強硬派を勢いづかせている。一方で、サウジの新しい指導層もかなりの強硬派で、反イランの地域的グレートゲームの図式を、外交政策の基盤に据えている。・・・(聞き手はザチャリー・ローブ、オンラインライター・エディター)
- 処刑の政治的思惑 <部分公開>
- 原油安とサウジの窮状
- イランの国内政治
<処刑の政治的思惑>
―― サウジはシーア派の指導者ニムル師をなぜ処刑したのだろうか。
ニムル師は公然とサウジにおける革命を求めていた。サウジ国内のシーア派の不満、特に「自分たちの大義をめぐって将来に希望をもてずにいる若者たち」の立場を彼は代弁していた。
長く内務相を務めたナエフ皇太子(ナエフ・ビン・アブドラアジズ)を批判する演説を行った後の2012年に、ニムル師は当局に逮捕された。現在の皇太子兼内務相のムハンマド・ビン・ナエフの父親である故ナエフ皇太子は、サウジの治安問題を20年にわたって取り仕切り、人権乱用、特にサウジのマイノリティであるシーア派の抑圧をめぐって批判されてきた人物だ。
シーア派はこの20年にわたって同じ要求を掲げてきた。シーア派はこの国の政治からも、経済エスタブリッシュメントからも締め出されている。シーア派出身の大臣は1人もいないし、この国の歴史のなかで大使を務めたシーア派の人物はわずか1人で、彼はイランへと送り込まれた。
東部のシーア派地域は経済的にも恵まれていない。この国ではシーア派は正統なイスラムとはみなされず、小学校ではシーア派は不信心だと教えられている。
リヤドが(人口の10―15%とされる)シーア派が政治的にも経済的にも周辺化されている状況を是正していく政治的意思を固めれば、この問題を解決するのは難しくない。そうした国内シーア派への和解策をとれば、シーア派地域へのイランの影響力を遮断できる。サウジ国内のシーア派は、アラブ人であり、本来、イランと密接につながってはいないからだ。
だがリヤドは、シーア派が直面する問題の解決を試みていない。それどころか、王室は宗派主義を政治ツールとして用いている。いいまや(原油安とともに)経済資源も逼迫し始めており、リヤドが国内のシーア派問題の解決を試みる可能性はさらに遠のいている。
―― シーア派指導者の処刑に対して地域的反動が起きることを、当初からリヤドは想定していたのだろうか。
これほど大きな騒ぎになるとは思っていなかったかもしれないが、宗派対立を高め、シーア派のさまざまな動きに遭遇することは予想していたはずだ。さらに処刑によって、ニムル師のことを嫌っていたサウジのスンニ派を結束させることは十分理解していただろう。
数多くの(スンニ派)アルカイダメンバーを処刑するためにも、シーア派の指導者を処刑する必要があった。イエメン紛争をめぐっては、サウジはフーシ派を相手に戦っている「アラビア半島のアルカイダ」と戦術的な同盟関係にある。つまり、アルカイダメンバーの処刑を決めた時点で、処刑に対する国内での反動を抑えるためにシーア派の人物を処刑する必要があったとも考えられる。
一方、サウジのシーア派は「ニムル師はわれわれの指導者だった」と嘆き、イランは彼が処刑されたことをプロパガンダとして利用している。こうしてサウジ国内での宗派主義が高まっている。
スンニ派住民は、サウド家を支援してイランに立ち向かう必要があると考えるようになった。一方、サウジのシーア派はさらに疎外感を強め、その一部は、対立路線、軍事的抵抗路線に身を投じるかもしれないが、これらは、明らかに王族に有利な流れであり、分割統治戦略が機能したことを意味する。
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