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パックス・アメリカーナの終わり
―― 中東からの建設的後退を

スティーブン・サイモン / 前ホワイトハウス シニアディレクター (中東・北アフリカ担当)
ジョナサン・スティブンソン/ 米海軍大学教授

The End of Pax Americana

Steven Simon アメリカの中東専門家。現在はダートマスカレッジの客員講師。米外交問題評議会シニアフェロー、ホワイトハウスの中東・北アフリカ担当シニアディレクターなどを経て、現職。
Jonathan Stevenson 米海軍大学教授(戦略研究)。国家安全保障会議(中東・北アフリカ政治・軍事担当)ディレクターなどを経て現職。

2015年12月号掲載論文

湾岸戦争以降のアメリカの中東介入路線は、アメリカの歴史的規範からの逸脱だった。それまでアメリカとペルシャ湾岸諸国は、安定した石油の価格と供給を維持し、中東の政治的安定を維持していく必要があるという認識だけでなく、1979年以降はイラン封じ込めという戦略目的も共有していた。この環境において中東への軍事介入路線は規範ではなかった。いまやシェール資源の開発を可能にした水圧破砕法の登場によってアメリカの湾岸石油への直接的依存度も、その戦略的価値も低下し、サウジや湾岸の小国を外交的に重視するワシントンの路線も形骸化した。一方、アメリカがジハード主義の粉砕を重視しているのに対して、湾岸のアラブ諸国はシリアのバッシャール・アサドとそのパトロンであるイランを倒すことを優先している。こうして中東の地域パートナーたちは、ワシントンの要請を次第に受け入れなくなり、ワシントンも、アメリカの利益と価値から離れつつあるパートナーたちの利益を守ることにかつてほど力を入れなくなった。・・・

  • 介入主義はニューノーマルでない
  • 失われた共有基盤
  • 介入を控えるべき理由
  • オフショアバランシングで現状を維持できる
  • イランはどう動くか
  • 中東における目的の下方修正を
  • シリア紛争を外交的に決着させるには
  • 建設的な後退

<介入主義はニューノーマルでない>

台頭するイスラム国(ISIS)に対する空爆作戦を主導しているとはいえ、オバマ政権は、明らかに中東介入路線からの後退をみせている。批判派はこのトレンドは、「オバマ政権が中東への積極的関与、大規模な戦闘に巻き込まれるのを嫌がり、グローバルなエンゲージメントを控えるべきだとイデオロギー的に考えていること」で説明できるとみなしている。だが現実には、イラク戦争に代表される9・11以降の中東介入路線はアメリカの歴史的規範からの逸脱に過ぎない。皮肉にも、こうした介入主義が米国内と中東の双方で政策上の「ニューノーマル」として誤認されてしまった。

オバマ政権がイラクやシリアへ地上軍を投入することに対して慎重な姿勢を崩さないのは、介入路線から距離を置こうと調整しているからではない。大統領は9・11前の数十年にわたって維持されてきた、介入自制路線を通じて中東の安定を取り戻そうとしている。・・・

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