迫り来る湾岸経済の危機
―― 経済の多角化を阻む障害をいかに克服するか
The Gulf Economies' Coming Meltdown?
2015年12月号掲載論文
湾岸の産油国の経常収支は今後急速に悪化していく。国際通貨基金(IMF)の予測によれば、5年後の2020年までに、湾岸諸国の経常赤字合計額は7000億ドルに達する。原油安が続けばこの数字がさらに膨らむ恐れもある。原油価格の変動に翻弄されないように経済の多角化を進める必要があることはかねて理解されてきたが、改革は進んでいない。問題は、そうした改革によって支配エリートの権力基盤が損なわれてしまうことだ。構造改革によってビジネス界の収益が拡大して、影響力が大きくなれば、支配者の権力基盤が揺るがされる。つまり、経済の多角化を進めるには、改革によって資源輸出の収益に依存するエリートが何かを失うとしても、それを埋め合わせる恩恵があることを指導者たちが納得する必要がある。先ず手を付けるべきは金融部門の改革と整備。市場の自由化、そして地域的経済協調の確立だろう。
- 湾岸経済の改革を阻む政治ファクター
- 三つのサクセスストーリー
- 改革・自由化と地域協調
<湾岸経済の改革を阻む政治ファクター>
バーレーン、クウェート、オマーン、カタール、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)の経常黒字総額が約6000億ドルに達していたのはわずか5年前のことだ。しかし、国際通貨基金(IMF)の予測によれば、5年後の2020年までに、これら湾岸諸国の経常赤字合計は7000億ドルに達する。原油安が続けばこの数字がさらに膨らむ恐れもある。この予測は産油国が直面するもう一つの重要なアジェンダを際立たせている。それは、資源に恵まれたアラブ諸国が、原油価格の暴落に翻弄されずに、躍動的で多角的な経済構造を構築する必要があることに他ならない。
アラブ諸国政府はかねて、エネルギー資源輸出への過度な依存体質から脱却する必要があることを認識してきたが、経済多角化の試みはうまく進展していない。例えばイラクは、1965年の5カ年計画で経済の多角化を主要な政策目標に掲げたが、現実には、経済の原油への依存度は時とともに高まっていった。カタール、クウェート、サウジアラビアでも1970年代以降、経済の多角化が主要な政策アジェンダに据えられたが、ほとんど実現できていない。湾岸諸国の基準では多角化の進んだ経済構造をもつアラブ首長国連邦でさえ、依然として経済を原油輸出に依存している。・・・
この論文はSubscribers’ Onlyです。
フォーリン・アフェアーズリポート定期購読会員の方のみご覧いただけます。
会員の方は上記からログインしてください。 まだ会員でない方および購読期間が切れて3ヶ月以上経った方はこちらから購読をお申込みください。会員の方で購読期間が切れている方はこちらからご更新をお願いいたします。
なお、Subscribers' Onlyの論文は、クレジットカード決済後にご覧いただけます。リアルタイムでパスワードが発行されますので、論文データベースを直ちに閲覧いただけます。また、同一のアカウントで同時に複数の端末で閲覧することはできません。別の端末からログインがあった場合は、先にログインしていた端末では自動的にログアウトされます。
(C) Copyright 2015 by the Council on Foreign Relations, Inc., and Foreign Affairs, Japan