引き籠もるイギリスと欧州連合
―― EUもイギリスも衰退する
Littler England―― The United Kingdom's Retreat From Global Leadership
2015年11月号掲載論文
1962年、ディーン・アチソン米国務長官は、「帝国を失ったイギリスは、まだ新しい役割を見つけていない」と指摘したが、現在のイギリスは、国際問題への関与にさらに消極的になっている。イギリスはヨーロッパだけでなく世界全般から手を引きつつあり、一方で、経済的な利益のためなら、中国の立場に配慮して地政学的な原則さえ犠牲にしていると一部では考えられている。おそらくは2016年に実施されるEU脱退の是非を問う国民投票は、イギリスの「引きこもり」が今後も続くのかどうかを判断する重要な材料になるはずだ。投票では、イギリスのパワーを強化するのは、EUメンバーのイギリスかEUを離れたイギリスかが問われることになる。問題は現在のようにイギリスがEUにおけるリーダーシップをとることを躊躇し続ければ、EUはますます非効率的になり、イギリスではEU脱退論がますます強くなり、悪循環に陥ってしまうことだ。
- 漂流するイギリスの自画像
- 内向きとなったイギリス社会
- 経済至上主義路線の弊害
- EU脱退問題
- イギリスの中国重視戦略?
- より完全な連合を目指して
<漂流するイギリスの自画像>
2014年だけでも、主に北アフリカ出身の3万9000人が英仏海峡トンネル経由でイギリスへの入国を試みている。フランスの港町カレーから列車やトラックの荷台に忍び込んで入国を試みるのが一般的なやり方だ。これに対してロンドンは、カレー側のトンネル入り口周辺の道路側に約4キロにわたってフェンスを設置して、密航者の列車やトラックへの侵入を防ぐ措置をとった。このフェンスは、2012年のロンドン五輪と2014年の北大西洋条約機構(NATO)首脳会議の警備のために使われたものだった。
一貫した難民・移民政策を通じてではなく、「リサイクルのフェンス」で事態に対処しようとする姿勢は、最近のビジョンに欠けるイギリス外交を象徴しているかのようだ。デービッド・キャメロン首相率いる保守党政権は、世界におけるイギリスの立ち位置について明確なビジョンをもっていないようだ。イギリスは核保有国であり、国連安保理の常任理事国だ。それなのに現在のロンドンは、世界に関わるよりも、世界と距離を置くことに関心があるようだ。イギリスには大戦略がないだけでなく、通商分野以外は明確に定義された外交政策さえもっていないようだ。
この論文はSubscribers’ Onlyです。
フォーリン・アフェアーズリポート定期購読会員の方のみご覧いただけます。
会員の方は上記からログインしてください。 まだ会員でない方および購読期間が切れて3ヶ月以上経った方はこちらから購読をお申込みください。会員の方で購読期間が切れている方はこちらからご更新をお願いいたします。
なお、Subscribers' Onlyの論文は、クレジットカード決済後にご覧いただけます。リアルタイムでパスワードが発行されますので、論文データベースを直ちに閲覧いただけます。また、同一のアカウントで同時に複数の端末で閲覧することはできません。別の端末からログインがあった場合は、先にログインしていた端末では自動的にログアウトされます。
(C) Copyright 2015 by the Council on Foreign Relations, Inc., and Foreign Affairs, Japan