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悪いのはロシアではなく欧米だ
―― プーチンを挑発した欧米のリベラルな幻想

ジョン・ミアシャイマー シカゴ大学教授

Why the Ukraine Crisis Is the West's Fault
―― The Liberal Delusions That Provoked Putin

John J. Mearsheimer アメリカの政治学者で、シカゴ大学教授(政治学)。リアリストの国際政治分析者として広く知られる。スティーブン・ウォルトとの共著「イスラエルロビーとアメリカの外交政策」はアメリカでベストセラーになった。最近の著著にWhy Leaders Lie: The Truth About Lying in International Politics (2011)がある。

2014年9月号掲載論文

ロシアの高官たちはワシントンに対してこれまで何度も、グルジアやウクライナを反ロシアの国に作り替えることも、NATOを東方へと拡大させるのも受け入れられないと伝えてきたし、ロシアが本気であることは2008年にロシア・グルジア戦争で立証されていた。結局のところ、米ロは異なるプレーブックを用いている。プーチンと彼の同胞たちがリアリストの分析に即して考え、行動しているのに対して、欧米の指導者たちは、国際政治に関するリベラルなビジョンを前提に考え、行動している。その結果、アメリカとその同盟諸国は無意識のうちに相手を挑発し、ウクライナにおける大きな危機を招き入れてしまった。状況を打開するには、アメリカと同盟諸国は先ず「グルジアとウクライナをNATO拡大策から除外する」と明言する必要がある。

  • リベラル派の幻想
  • NATO拡大策という欧米の挑発
  • 欧米の体制変革戦略
  • ロシアの立場で考えれば
  • リベラル派の誤診
  • ウクライナ支配の野望はもっていない
  • 終わりなき欧米の挑発
  • 打開策はあるか

<リベラル派の幻想>

欧米世界では「ウクライナ危機はすべてロシアの責任だ」と考えられている。「ロシアのウラジーミル・プーチン大統領はソビエトの再建という積年の思いに駆られてクリミアを編入し、最終的には、残されたウクライナだけでなく、他の東ヨーロッパ諸国もロシアの一部に組み込んでいくつもりだ」とみなされている。この見方に従えば「2014年2月のウクライナのヤヌコビッチ政権の崩壊が、ロシア軍にウクライナの一部を占領させる命令を下すきっかけをプーチンに与えた」ということになる。

だがこうした解釈は間違っている。ウクライナ危機を誘発した大きな責任は、ロシアではなくアメリカとヨーロッパの同盟諸国にある。危機の直接的な原因は、欧米が北大西洋条約機構(NATO)の東方への拡大策をとり、ウクライナをロシアの軌道から切り離して欧米世界に取り込もうとしたことにある。同時に、2004年のオレンジ革命以降のウクライナの民主化運動を欧米が支援したことも、今回の危機を誘発した重要な要因だ。

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