Rena Schild / Shutterstock.com

暴かれたアメリカの偽善
―― 情報漏洩とアメリカのダブルスタンダード

ヘンリー・ファレル ジョージ・ワシントン大学准教授(政治学、国際関係論)
マーサ・フィネモアー ジョージ・ワシントン大学教授(政治学、国際関係論)

The End of Hypocrisy

Henry Farrell ジョージ・ワシントン大学准教授(政治学、国際関係論)。様々な国の研究者が参加する政治ブログ「Crooked Timber」の執筆者の一人。専門は、EUとヨーロッパ統合、政治とブログ、電子商取引(イーコマース)。
Martha Finnemore ジョージ・ワシントン大学教授(政治学、国際関係論)。著書にThe Purpose of Intervention: Changing Beliefs about the Use of Force(Cornell University Press, 2003)がある。

2013年12月号掲載論文

E・スノーデンがリークした情報によって情報源や情報収集の手法が明るみに出たとはいえ、予想外のものは何も出てきていない。専門家の多くは、かねて「アメリカは中国にサイバー攻撃をし、ヨーロッパの政府機関を盗聴し、世界のインターネット・コミュニケーションを監視している」と考えてきた。リークが引き起こしたより深刻な問題は、アメリカのダブルスタンダードが明らかになり、理念と原則の国としてのアメリカのイメージを失墜させたことだ。アメリカは、自分たちが唱道する価値を一貫して擁護し、順守してきたわけではなかった。この矛盾を前に、他の諸国は「アメリカが主導する秩序は正統性を欠いている」と判断するかもしれない。ワシントンは(米情報機関の行動に対する)厳格な監視体制を導入し、政策に関する論争をもっと民主的に進めるべきだろう。安易な偽善(とダブルスタンダード)の時代はすでに終わっている。

  • 情報漏洩の本当の問題とは 
  • 偽善的な覇権国はなぜ裏の顔を隠せたか 
  • 中国に対する偽善的批判 
  • 偽善とダブルスタンダードの時代の終焉

<情報漏洩の本当の問題とは>

(マニングやスノーデンなど)アメリカの軍や政府機関の関係者によって、できれば明るみに出したくない米政府の行動が漏洩(リーク)されていることに対して、ワシントンは怒りを抑えられずにいるようだ。

現に、そうした行動に対する強硬姿勢をとっている。3年前、当時は、ブラッドリー・マニングとして知られていたチェルシー・マニングが数十万の極秘ケーブルを、政府や企業などの機密情報を公開する内部告発サイト、ウィキリークスに提供する事件が起きると、米当局はマニングを投獄した(拷問に関する国連特別調査官は、マニングが残忍で非人道的な扱いを受けていると報告している)。事件後、米上院共和党の指導者ミッチ・マクドネルは、報道番組「ミート・ザ・プレス」で、ウィキリークスの設立者であるジュリアン・アサンジを「ハイテクテロリスト」と呼んだ。

最近も、元国家安全保障局の分析官エドワード・スノーデンが、アメリカの諜報活動に関する情報をリークすると、米政府は、他の諸国に対して、スノーデンの亡命申請を受け入れないように外交圧力をかけた。ロシアのプーチン大統領が、アメリカの要請を受け入れることを拒絶すると、オバマ大統領は、(関係が悪化していただけに)待望されていた米ロサミットさえキャンセルした。

こうした強硬な対応をみせているとはいえ、アメリカの指導者たちは、「情報漏洩がなぜ(アメリカの国家安全保障にとって)非常に大きな脅威なのか」を説明するのに苦慮している。

実際には、マニングやスノーデンがリークした情報には、情報問題の専門家が衝撃を受けるような内容は含まれていない。例えば、ロバート・ゲーツ元国防長官は、ウィキリークス問題が作り出したパニックからは距離を置く姿勢をみせ、2010年に「リークされた情報でそれほど大きな衝撃は生じていない。情報源や情報収集方法に制約は生じていない」とメディアに語っていることは、問題の本質の多くを物語っている。

たしかに、その後、スノーデンがリークした情報によって情報源や情報収集の手法が明るみに出たかもしれない。しかし、予想外のものは何も出てきていない。彼が情報をリークする前から、専門家の多くは、「アメリカは中国にサイバー攻撃をし、ヨーロッパの政府機関を盗聴し、世界のインターネット・コミュニケーションを監視している」と想定していた。もっとも衝撃的なリークである、アメリカとイギリスがオンラインのプライバシーとセキュリティを守るためのコミュニケーションソフトと暗号化システムを破っていたという事実にしても、事情通の専門家は、かねてその可能性があると考えていた。

マニングやスノーデンのような漏洩者たちが突きつけたより深刻な脅威とは、アメリカの国家安全保障を直接的に脅かすというよりも、むしろ、よりサトルな部分(つまり、理念と原則の国アメリカのイメージを失墜させたこと)にある。

彼らのリークによって、ワシントンが水面下で何もしていないかのように偽善的に振る舞い続けるのは不可能になった。リークが突きつけたリスクとは、漏洩した情報そのものではなく、アメリカがどのような思惑から水面下で何をしていたかに関する文書的な裏付けが提供されたことだ。これら水面下での活動が、米政府の公的レトリックと矛盾することも多く、この場合、同盟諸国もワシントンの水面下での行動を見過ごすことはできなくなり、アメリカの敵対国は、自国の水面下における行動を正当化できるようになる。

偽善的に(ダブルスタンダードで)振る舞えることが、アメリカの主要な戦略資源であると考えている政府高官はほとんどいない。実際、アメリカがダブルスタンダードをかくもスムーズに実践できたのは、一つには、それがレトリック上の誠実さの上に組み立てられていたからだ。ほとんどのアメリカの政治家は、この国が二つの顔を持っていることを理解していない。だが、その言動の間に大きなギャップが存在することを否定する余地が少なくなっていけば、次第に追い込まれ、これまで他に説いてきたやり方を自ら実践せざるを得なくなるだろう。

この論文はSubscribers’ Onlyです。


フォーリン・アフェアーズリポート定期購読会員の方のみご覧いただけます。
会員の方は上記からログインしてください。 まだ会員でない方および購読期間が切れて3ヶ月以上経った方はこちらから購読をお申込みください。会員の方で購読期間が切れている方はこちらからご更新をお願いいたします。

なお、Subscribers' Onlyの論文は、クレジットカード決済後にご覧いただけます。リアルタイムでパスワードが発行されますので、論文データベースを直ちに閲覧いただけます。また、同一のアカウントで同時に複数の端末で閲覧することはできません。別の端末からログインがあった場合は、先にログインしていた端末では自動的にログアウトされます。

(C) Copyright 2013 by the Council on Foreign Relations, Inc.,and Foreign Affairs, Japan

Page Top