CFR Meeting
R・フェルドマンが語る
安倍政権の経済思想と構造改革
A Conversation with Robert Feldman
2013年11月号掲載論文
選挙改革が重要なのは、社会保障支出の問題を解決しないことには財政問題が解決できないからだ。選挙制度によって高齢者の利益が一方的に重視されている状況に対処しない限り、問題は解決できない。・・・必要なのは社会保障関連支出を引き下げることだ。一方で、経済成長を加速するには、研究開発、教育、インフラなど、社会保障関連以外のその他の分野への支出を引き上げる必要がある。現状では、これらの非社会保障関連支出はそれほど大きくない。・・・経済情勢が悪化したときに、いかにして高い支持率を保つかは、アベノミクスの今後にとって非常に重要だ。賃金レベルは重要な要因だが、株価や雇用も重要だ。安倍政権にとって重要なのは、とにかく、支持率を高く保つことだ。
- 安倍首相の経済思想 <一部公開>
- 安倍首相の政治戦術
- 日銀と金融政策
- 成長戦略
- 行政改革と税制改革
- 社会保障と財政問題とオリンピック効果
- 原発再稼動問題、高齢化問題
<安倍首相の経済思想>
ロバート・フェルドマン ヨーロッパでは緊縮財政と成長が議論されているが、アベノミクスもまさしくこれをテーマにしている。この意味では、安倍首相が日本の利益のために試みている政策が、世界の他の地域にとって何を意味するか、非常に興味深いものがある。安倍政権に先立つ、民主党政権は緊縮財政を模索した。したがって、アベノミクスが成功すれば、他の諸国にとって自国の経済論争におけるデータが提供されることになる。
最初に、安倍首相の経済哲学、政策、そして現在彼が用いている戦術についてコメントし、次に日本の金融政策、成長戦略、そして財政問題について話したい。また時間があれば福島第一の原発危機とエネルギー問題についても話したいと思う。福島の原発事故は、多くの人が考えている以上にグローバルな問題だ。
まず経済哲学・思想について。安倍首相は独特な政治家だと私は考えている。一度退席した政治家が復活を遂げたという点でも彼は異例の存在だ。最初に首相をつとめたときは、必ずしも成功したとは言えなかったが、彼は、その後数年間をかけて日本経済を検証し、自分の経済思想を形作っている。
2012年10月、彼は国会で演説を行っている。当時は、自民党総裁にはなっていたが、まだ首相ではなかった。彼はこの演説で二つの重要なポイントを指摘している。一つは成長の源泉についてで、このテーマに関して話した内容から、彼の経済思想、財政思想をうかがい知ることができる。
「成長とはイノベーション(技術革新)に他ならない」と彼は発言しており、成長戦略へのサプライサイドアプローチをとっている。新しいテクノロジー、ビジネスを重視している。さらに、政府はイノベーションを支える役割を果たすべきだと述べ、その後、現在実施している政策(アベノミクス)の概要を話している。
イノベーションを促進することで、新しい雇用とビジネスを創出するという発想を持っている。これはまさしくサプライサイドアプローチであり、G20の指導者はもちろん、G8という枠組みでみても、安倍首相はこのアプローチをとる数少ない指導者の一人だ。ケインズ主義者が多い自民党のなかでも、異例の存在だろう。
財政については、民主党政権のやり方を180度転換すると述べている。2012年8月に、民主党政権は消費税率を引き上げる法案を成立させ、社会保障改革を議論し始めた。2013年8月に(社会保障制度改革国民会議の)報告書が発表されたが、これは実際には、問題に対処できるような内容ではなかった。法人税をさらに引き上げ、すでに社会保障支出が過剰になっているのに、さらに保障レベルを引き上げることを提言していた。
安倍首相の社会保障ビジョンは、これとはまったく違っている。2012年の演説で財政問題に触れた彼は、「削るものはしっかり削っていく」と語っている。第1が支出の削減で、第2が増税による歳入増だ。だが、税収を増やすには、デフレから脱却し、経済のパイを大きくしなければならない。それでも十分でなければ、増税も検討する。つまり、安倍政権の財政改革の順序は、民主党政権と当時の自民党が合意した順序とは逆になっている。こうした安倍政権の政策志向は、私にとっては期待のもてるものだ。
その政治的背景はどうなっているだろうか。日本の政治議論を理解するには、思想マップが必要になる。横軸が大きな政府と小さな政府。縦軸が、積極的な対外路線(タカ派)と消極路線(ハト派)を表す4分円を思い浮かべてほしい。細川政権以降の日本の歴代政権は(小泉政権を除き)この4分円の左下から左上を通して右上までの理念を混合した。要するに、日本政府はこれまで長期にわたって、経済思想と外交思想の一貫性を欠いていたことになる。ねじれ国会に加えてねじれ連立であった。
最近における2度の選挙で、積極的な対外関与をめぐる問題は解決された。中国との対立もあって、日本は積極外交路線へと収斂しつつある。だが、経済問題は完全に解決されたとは言えない。
確かに、自民党内で小さな政府を支持する人々の割合は増えたかもしれないが、安倍政権は単独政権ではない。一方野党勢力のなかに、市場経済志向の強い小政党が存在する。「日本維新の会」と「みんなの党」だ。こうした小政党の立場は、安倍首相にとって大きな助けになるはずである。自民党内でより大きな政府を求める勢力を抑え込む役目を果たしているからだ。この政治地図は、現在のところ、安倍政権に有利に作用している。
最近では、自民党内から、対立の政治から共存の政治への転換をはかりたい、そのためには、パイを大きくしなければならない、との声もあがっている。反改革派も自民党内の特殊団体に支配されている勢力も、成長戦略こそが自分たちの政治的生存を維持するための一部であることを理解しはじめている。こうした発言は前向きの展開だと思う。
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