CFR Interview
E・スノーデン事件を法的に検証する
―― 米政府の認識にも問題がある
Extraditing Edward Snowden
2013年8月号掲載論文
ロシアへの一時亡命が認められたエドワード・スノーデンが、アメリカに送還されるかどうか。現在、彼が(アメリカが犯罪人引き渡し条約を結んでいない)ロシアにいるだけに、これは、法的プロセスというよりも、高度な政治プロセスになる。仮に告発の意図があったとしても、スノーデンは政府が所有する情報を盗んだだけでなく、告発手続きの相手であるNSA(国家安全保障局)の監察官ではなく、その情報を漏らすべきではない外国メディアに提供することで、手続きを踏み外している。したがって、彼が公開した情報で存在が確認された監視プログラム(プリズム)に仮に違法性があるとしても、スノーデンはアメリカの内部告発者保護法の適用対象にはならない。だが、アメリカで裁判にかけるとなると陪審制度という非常に大きな変数が絡んでくる。陪審制度の大きな機能の一つは、政府と検察の権力をチェックすることにある。仮に送還が実現して、裁判になるとして、スノーデンの運命を左右する12人の陪審員の一部は彼に同情しているかもしれない。・・・外国情報監視法(FISA)によって、政府による情報活動は適切な監督下におかれ、説明責任も果たされているという米政府の認識には問題がある。どのような結果になるにせよ、法律がテクノロジーの進化についていけていないのは間違いない。デジタル時代のプライバシーが何であるかについて、われわれはもう一度考える必要がある。
- 米送還は実現するか 部分公開
- 米死刑制度は本国送還の障害になるか
- 中国とロシアの立場
- スノーデンは有罪なのか
<米送還は実現するか>
2013年6月、香港滞在中に英ガーディアン紙その他に対して、米国家安全保障局 (NSA)が「プリズム(PRISM)」と呼ばれる監視プログラムを用いて個人情報を収集していたことを暴露しただけでなく、「NSAは中国を含む世界各 国を対象にハッキングを行っていた」と語った元中央情報局(CIA)職員エドワード・スノーデンは、その後、ロシアへと向かい、モスクワの空港内施設から ロシアへの一時亡命を申請し、7月24日、ロシア移民局は、入国と滞在を認める許可証を発行した。
ワシントン・ポスト紙と英ガーディア ン紙は、スノーデンの情報を基に、マイクロソフト、ヤフー、グーグル、フェイスブック、パルトーク、AOL、スカイプ、ユーチューブ、アップルの九つの米 IT企業がNSAに音声、ビデオ、写真、電子メール、文書ファイルなどの情報を提供していたと6月初旬に報道していた。
だがその後、 NSAがワシントンやニューヨークの日本やフランス大使館を含む各国の在外公館やEUの代表部、さらにはブリュッセルのEU本部を盗聴したり、コンピュー ターネットワークに侵入して文書や電子メールを傍受したりしていたとメディアが伝えたことで、事件はさらに大きな衝撃を世界に与えた。
アメリカ政府はロシア政府にスノーデン容疑者の本国送還を要請しているが、ロシアは犯罪人引き渡し条約をアメリカと交わしていないことなどを理由に、これに応じていない。
国務省によれば、7月12日には、オバマ大統領とプーチン大統領がスノーデンの扱いについて電話で協議し、スノーデンのロシアへの一時亡命が認められた7月24日には、ケリー国務長官がロシアのラブロフ外相にスノーデンの米国送還を改めて要請している。
モスクワの空港でスノーデンと面会したヒューマン・ライツ・ウォッチの関係者によれば、彼はロシアへの一時亡命を経て、最終的には、南米ベネズエラなどへ亡命することを希望していると報道されている。(FAJ編集部)
―― 最終的に、エドワード・スノーデンがアメリカに送還される可能性は、どの程度あるとみているか。
彼が送還される可能性を予測するのは不可能だ。それは、スノーデンが最終的にどの国にいくか、アメリカ政府が相手国にどの程度の政治圧力をかけるかに左右される。さらに、今後の展開は、量的に計測できない外交、外交政策上の配慮にも左右される。
送還問題は、法的プロセスというよりも政治プロセスだし、特に、犯罪人引き渡し条約を交わしていないロシアに彼がいる限り、交渉は高度な政治プロセスになる。
当事国の双方が犯罪人引き渡し条約を結んでいれば、理論的には、引き渡しを求める国は、相手国に対して送還を要請している人物を引き渡す(条約上の)義務があると主張できる。だが条約を結んでいなければ、そう主張する権利はなく、完全に政治プロセスになる。
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