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金融政策とその限界

アダム・ポーゼン ピーターソン国際経済研究所所長

The Austerity Delusion

Adam Posen  アメリカのエコノミストで、ピーターソン国際経済研究所所長。統一後のドイツ政府、日本政府、米議会予算局、イギリス政府の経済顧問を務め、2009―2012年にはイングランド銀行の金融政策委員会メンバーとして活動した。専門は、マクロ経済政策、金融危機対策、ヨーロッパ、日本、アメリカ経済など。

2013年8月号掲載論文

金融政策のことを、大きな権限を持つものだけが操れる、何かミステリアスで不可知なものと恐れる必要はないし、その政策を万能薬と考えるのも間違っている。・・・その背後には常に政治が介在し、ときに金融政策の決定プロセスを混乱させ、戦術的な変化を強要されることもある。しかし、政治が金融政策に決定的な影響を与えるのは、金融政策委員会の委員長(総裁・議長)がそれを望んだ場合だけだ。・・・中央銀行のバンカーたちの役割は、結局のところ、薬剤師のそれとさほど変わらない。棚にある薬の量は限られており、法律によって一定量を超える薬を使うのは禁止されている。この条件で異なる専門家が書いた走り書きの処方箋に一貫性をもたせ、適切な調剤薬品を患者に提供する。その人物が薬品を摂取すること以外、何かを知ることも管理することもない。望み得る最善は、副作用を最小限に抑えつつ、患者が時とともに着実に回復していくことだ。

  • 中央銀行のバンカーは錬金術師か?
  • 金融政策決定のイメージと現実
  • 金融政策と政治
  • 財政政策と金融政策
  • 各国の金融当局は協調するか
  • 中央銀行バンカーの限られた役割

<中央銀行のバンカーは錬金術師か?>

中央銀行のバンカーたちは、何かしら近寄りがたい神秘的な存在と考えられている。中央銀行の政策と手続きに関する透明性がこれまでになく高まっているにも関わらず、中央銀行のバンカーたちは外からはうかがい知れない、人々が知らない情報と権力をもっていると考えられがちだ。

金融危機によって金融政策、より広範には経済予測の本質的な限界が明らかになっているにも関わらず、危機が今も続いているために、中央銀行のバンカーの行動と判断が経済政策決定と政治的関心の中枢として依然として注目されている。

だが現実には、過去数十年と比べて、現在の中央銀行のバンカーたちは、より慎ましやかな存在になっている。1980年代末から21世紀初頭まで続いた、経済変動の少ない「グレート・モデレーション」期には、この安定は巧みな金融政策によって実現されたと中央銀行のバンカーを評価する人々もいた。だが現在では、この時期に世界の多くの地域が享受した経済的繁栄と安定は、主に幸運に恵まれた結果だったことが明らかになっている。もちろん、多くの人が考えるほどパワフルではないとしても、金融政策がパワフルなツールであるのは事実だろう。

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