Borna_Mirahmadian / Shutterstock.com

なぜイランは核兵器を保有すべきか
―― 核の均衡と戦略環境の安定

ケネス・N・ウォルツ
カリフォルニア大学名誉教授

Why Iran should get the bomb

Kenneth N. Waltz カリフォルニア大学名誉教授で、現在は、コロンビア大学の戦争と平和に関するザルツマン研究所のシニア・リサーチスカラー。同大学教授(非常勤)。ネオリアリズムを代表する研究者の一人。

2012年7月号掲載論文

現在のイラン危機の多くは、テヘランが核開発を試みているからではなく、イスラエルが核を保有していることに派生している。イスラエルの核保有のケースがきわめて特有なのは、核武装から長い時間が経過しているにも関わらず、依然として中東で戦略的な対抗バランスが形成されていないことだ。イスラエルは核開発を試みて戦略バランスを形成しようとするイラクやシリアを空爆し、これらの行動ゆえに、長期的には持続不可能な戦略的不均衡が維持されている。現在の緊張の高まりは、イランの核危機の初期段階というよりは、軍事バランスが回復されることによってのみ決着する、数十年におよぶ中東における核危機の最終段階とみなすことができる。現実には、イランの核武装化は最悪ではなく、最善のシナリオだ。この場合、中東の軍事バランスが回復され、戦略的均衡を実現できる見込みが最大限に高まる。

  • 最善のシナリオとは
  • 現状をどうとらえるか
  • イランと核拡散に関する誤解
  • 他を安心させる

<最善のシナリオとは>

この数カ月というもの、アメリカとイスラエルが「イランの核開発活動にどのように対応するのが最善なのか」をテーマに熱い論争が繰り広げられている。論争が過熱するなか、アメリカはイランに対する制裁措置をさらに強化し、欧州連合(EU)は2012年1月に、7月1日からイラン原油に対する禁輸措置を発動すると表明した。アメリカ、EU、イランは最近外交交渉を再開したが、いまも危機は続いている。

だが、危機を長引かせるべきではない。アメリカ、ヨーロッパ、イスラエルのほとんどの評論家と政策決定者は、現在の対立状況の最悪の結末はイランが核武装に成功することだと考えている。だが実際には、イランの核武装化こそが最善の結末だろう。この場合、中東の戦略環境の安定を実現できる見込みが最大限に高まる。

<現状をどうとらえるか>

イランの核開発危機の結末として想定できるシナリオは三つある。

第1は、厳格な制裁と外交を組み合わせたアプローチによって、イランが核開発プログラムの放棄に応じることだ。しかし、このシナリオが実現する見込みはほとんどない。歴史的にみても、核開発を試みている国が、説得によって開発を断念したケースはほとんどない。

経済制裁で相手国を締め付けても、核開発を断念させられるわけではない。事実、北朝鮮は、国連安保理決議を通じて何度も制裁の対象にされてきたが、結局は核武装に成功している。テヘランが「自国の安全保障は核を保有できるかどうかに左右される」と確信している限り、経済制裁で相手の認識を変化させるのは難しい。実際、さらに制裁措置を積み上げていけば、イランは自らの脆弱性をますます強く意識するようになり、究極の抑止力による保護を手に入れようとする決意をさらに固めるはずだ。

第2のシナリオは、イランが核開発能力を手に入れながらも核実験をしないことだ。この場合、ごく短時間で核兵器を生産し、核実験を実施できる。洗練された核開発技術を手に入れながらも、核兵器を生産していない国もある。例えば、日本は、巨大な民生用原子力インフラを持っており、専門家の多くは、日本は短期間で核兵器を生産できるとみている。

短期間で核を生産できる「ブレイクアウト能力」を手に入れれば、イランの支配者が国内政治上の必要性を満たすこともできる。「(国際的な孤立や批判などの)副産物を伴わずに、(より高度な安全保障など)核保有に派生する恩恵を手にできる」と説明して、強硬派を安心させることもできるだろう。問題は、ブレイクアウト能力が予想通りに機能しない可能性があることだ。

「イランが核能力を兵器化に利用すること(核兵器を生産すること)」をもっとも恐れているアメリカとヨーロッパの同盟国は、「核開発能力を手にしても実際には核を生産しない」というシナリオを受け入れるかもしれない。だが、イスラエルは違う。「イランが高度なウラン濃縮能力を手に入れるだけでも、自国にとって受け入れられない脅威になる」とすでに明確に表明している。

この論文はSubscribers’ Onlyです。


フォーリン・アフェアーズリポート定期購読会員の方のみご覧いただけます。
会員の方は上記からログインしてください。 まだ会員でない方および購読期間が切れて3ヶ月以上経った方はこちらから購読をお申込みください。会員の方で購読期間が切れている方はこちらからご更新をお願いいたします。

なお、Subscribers' Onlyの論文は、クレジットカード決済後にご覧いただけます。リアルタイムでパスワードが発行されますので、論文データベースを直ちに閲覧いただけます。また、同一のアカウントで同時に複数の端末で閲覧することはできません。別の端末からログインがあった場合は、先にログインしていた端末では自動的にログアウトされます。

(C) Copyright 2014 by the Council on Foreign Relations, Inc.,and Foreign Affairs, Japan

Page Top