Classic Selection 2004
起業型経済の構築を
Building Entrepreneurial Economies
2012年7月号掲載論文
デルやシスコ・システムズなど、アメリカ経済の富と生活レベルを引き上げているのは起業によって立ち上げられた企業である。こうした新企業は経済の技術革新を誘導するだけでなく、新規雇用をつくり出し、景気循環がつくり出す困難な時期の衝撃を緩和し、経済の成長と進化を刺激する。アメリカに存在する起業と大学、大企業、政府を結ぶ「4セクターモデル」は、経済停滞に直面している先進国だけでなく、途上国も導入できる。起業にまつわる文化的な制約は取り払うことができる。
- 「ハイインパクト企業」 <一部公開>
- 見過ごされている起業の経済効果
- 起業を支えるシステムの全体像
- ベンチャー・キャピタルと起業
- 途上国と起業
- 起業家精神は文化を問わない
<「ハイインパクト企業」>
冷戦後のワシントンは、対外援助計画と国際的経済開発機関への影響力を駆使して、途上国にアメリカの資本主義の特質と制度を採用するように働きかけてきた。しかし、「ワシントン・コンセンサス」と呼ばれるこのアプローチは、失望を禁じ得ない結果しかもたらさなかった(訳注1)。事実、ラテンアメリカ、東ヨーロッパその他の国々の経済は停滞するか、むしろ悪化しているし、希望に満ちた生活をいずれ手にできる見込みのある最貧国社会はほとんどない。アメリカが書いた経済成長のための処方箋は完全なものではない。大きな問題は、アメリカ経済の主要な特徴である「起業を支える支援体制」を、経済成長を必要としている途上国経済に導入させようと試みていないことだ。
アメリカでの起業率は非常に高く、経済に大きな刺激を与える「ハイインパクト企業」(高衝撃企業)が次々と誕生している。新しい技術、ビジネス手法、日常業務のよりスマートなこなしかたなど、ハイインパクト企業が市場に新しいアイデアを持ち込むことで、価値が創造され、成長が刺激される。ただし、市場経済の制度さえ整えておけば、こうしたハイインパクト企業が忽然と姿を現すわけではない。アメリカは、市場に大きな衝撃を与える新企業の立ち上げを育むための多彩なシステムをもっている。ここで考えるべきは、このシステムを、適切な開発政策とともに、その他の諸国でも根づかせることができるかもしれないということだ。
これまでそのようなアプローチがとられたことはない。ワシントン・コンセンサスは、経済制度の整備と金融・貿易などのマクロ経済上の問題に焦点を合わせてきた。アメリカは途上国に対して、優れた銀行システムを整備し、妥当なレベルの金利と為替を維持し、安定した税制を築くように働きかけ、民営化、規制緩和、インフラへの投資、教育制度の構築を重視するように働きかけてきた。
これまでも、途上国が整備すべき金融・経済制度の一部として、ベンチャー・キャピタル型の起業環境の整備を提言する米政府高官がいたのは事実である。しかし、支援し、育成していく企業を見いださないことには、ベンチャー・キャピタルも役目を果たせない。また、零細企業がいくら立ち上げられても経済への波及効果は望めない。米国際開発局(USAID)や非政府組織(NGO)が促進する小規模企業用のプログラムが多くの人々の生活を助けているのは事実だが、それは、国の生産性や経済成長とは関係のない家内工業、零細産業であることが多い。 だが一方で、有望な小規模事業が立ち上げられても、これを支えていく国内環境がなければ、新企業はうまく成長できない。途上国が、先進国企業のアウトソース業務を引き受けているだけでは長期的な繁栄は望めないし、低賃金を前提とする外国からのアウトソースの受注だけでは、国内労働者が置かれている生活の改善も望めない。真の機会がもたらされるとすれば、ユニークな価値で経済に貢献する新しいアイデアをもつ企業の立ち上げを助けるために途上国政府がイニシアチブを発揮した場合だけだろう。
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