危機後のヨーロッパ
―― 圏内経済不均衡の是正か、ユーロの消失か
Europe after the Crisis
2012年6月号掲載論文
単一通貨導入から10年を経ても、ヨーロッパは依然として、共通の金融政策と為替レートでうまくやっていけるような最適通貨圏の条件をうまく満たしていない。これが現在の危機の本質だ。南北ヨーロッパが単一の経済規範に向けて歩み寄りをみせなかったために、単一通貨の導入はかねて存在したヨーロッパ内部の経済不均衡を際立たせてしまった。救済措置を通じて、危機を管理することはできても、南北ヨーロッパの経済をコンバージ(収斂)させていくという長期的課題は残されている。経済の均衡を図るには、各国のマクロ経済政策を十分に均質性の高いものにすること、つまり、ドイツのような債権国と南ヨーロッパの債務国が、政府支出、競争力、インフレその他の領域で似たような経済状況を作り上げることが必要になる。そうできなければ、ユーロの存続は揺るがされ、ヨーロッパは、今後10年以上にわたって、その富とパワーを浪費し、消耗していくことになるだろう。
- 異質な経済、単一の政策(公開)
- 南北ヨーロッパの同床異夢
- 南ヨーロッパの破綻とドイツの繁栄
- ドイツは「ヨーロッパの中国」なのか
- 救済策をどう評価するか
- コンバージェンスかユーロ解体か
- ユーロはなぜ非民主的か
- ユーロ崩壊でもEUは揺るがない
<異質な経済、単一の政策>
当初から、ユーロはギャンブル紛いの実験だった。1992年に金融・通貨同盟の立ち上げに合意したとき、指導者たちは「ヨーロッパ経済は(一つの規範に)収斂(コンバージ)していく」という読みに賭けていた。「財政赤字を計上し、債務を積み重ねがちな南ヨーロッパ諸国は、ドイツの経済基準を採用して物価と賃金の上昇を抑え、もっと貯蓄をして、支出を控えるようになり、一方のドイツは、政府と民間の支出を増やし、賃金と物価水準を少しばかり引き上げていく」と。
だが、そうした一つの規範に向けた歩み寄り、つまり、コンバージェンスは起きなかった。いまやユーロ圏は危機に陥っており、このギャンブルの本当の意味合いが何であったかが明らかになりつつある。
かなりのコストを必要としたとはいえ、この2年間にわたって、ユーロゾーンのメンバー国は、危機の兆候を短期的に管理していくことについて見事な対応をみせてきた。しかし、「ヨーロッパの経済をコンバージェンスへと向かわせる」という長期的な課題は残されている。そのためには、単一の金融政策を妥当なコストで実施できる程度に、各国のマクロ経済を十分に均質的なものにすること、つまり、ドイツのような債権国と南ヨーロッパの債務国が、政府支出、競争力、インフレその他の領域で似たような経済状況を作り上げることが必要になる。
ヨーロッパ経済を同期化させるには、まず、現在の危機の診断が間違っていることを認める必要がある。問題は、債務国における肥大化した公的部門でも、破綻した民間部門でもない。
危機が起きたのは、多様な国々に同じ金融政策と為替レートが適用される単一通貨圏内に大きな経済的不均衡が存在したからだ。当然、緊縮財政、予算のミクロ管理、連邦財政、救済措置、投機家の餌食にされないための大規模な救済ファンドの設立といった危機対策だけでは問題は解決できない。
むしろ、ヨーロッパはEU(欧州連合)の民主的な体質を生かすべきだ。そうすれば、単一通貨圏の「コンバージェンスに必要なコスト」をもっと公正に経済圏内、メンバー国間で分担できるようになる。このやり方で、各国の公的部門と債務国が抱え込んでいる重荷を、民間部門そして債権国へとシフトさせる必要がある。そうできなければ、ユーロの存続が危ぶまれてくるし、ヨーロッパは、今後10年あるいはそれ以上にわたってその富とパワーを浪費し、消耗していくことになるだろう。
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