キケロ兄弟の選挙戦術
―― 現代に生きる古代ローマの知恵と戦術
Campaign Tips from Cicero
―― The Art of Politics, From the Tiber to Potomac
2012年6月号掲載論文
候補者となった以上、あなたに好意をみせる人、あなたの仲間になりたいと考える人はすべて友人です。一方、家族そしていつもあなたの近くにいる人々には注意が必要です。悪い噂の大元は家族や友人たちであることが多いものです。・・・相手に好意を持っていることをあなたが示すことで、彼らがあなたに抱く敬意をさらに高めることができます。・・・あなたの立場を代弁してくれる人々を探すのです。・・・社会集団の指導者との接触を試み、(一方で)・・・元気な若者たちをあなたの支持者にすれば、非常に大きな力になってくれます。・・・市民がもっとも強い印象を受けるのは、候補者が自分のことを覚えてくれることです。毎日、人々の顔と名前を一致させることを練習すべきです。そして決してローマを離れてはいけません。・・・キャンペーンでもっとも大切なのは、人々に希望を与え、あなたに好感を抱かせることです。有権者に強い印象を与えるには、彼らのことを理解し、愛想良く優しく接し、自分をアピールし、誰とでも会い、決して諦めないことです。
- 兄マルクス・キケロヘ
- クィントゥス・トゥッリウス・キケロ 共和政ローマ法務官
- すべての好意とつながりを動員せよ
- 対立候補について
- 人々に希望を与えよ
- 友人を近くに、敵はもっと近くに
- とにかく、何でも約束せよ
<はじめに>
紀元前64年、共和制ローマの弁護士、雄弁家として知られるマルクス・トゥッリウス・キケロはローマの最高権力ポストである執政官に立候補する。当時、キケロは42歳。頭脳明晰な彼はすでに大きな名声を手にしていた。
通常なら、貴族階級の生まれではない人物が執政官候補とみなされることはない。だが、この年の他の候補たちは魅力のない人物ばかりで、少なくともキケロの弟クィントゥスは、うまく選挙キャンペーンを展開すれば、兄マルクスが執政官に選ばれる見込みはあるとみていた。当時、ローマ市民の男性は投票権を持っていたが、投票システムは複雑だった。
富裕層が大きな力を持っており、選挙で勝利を収めるには彼らの社会的、政治的な後見が欠かせなかったし、選挙には賄ろ、そしてときには暴力がつきものだったが、選挙そのものには秩序があり、一定の公正さを持っていた。コメンタリオラム・ペティショニス(選挙に関する小ハンドブック)は、クィントゥスが兄マルクスのためにまとめた選挙をいかに戦うかのメモと言われている。
この解釈を支持する研究者もいれば、このメモは誰か他の知恵者がまとめたと考える研究者もいる。
いずれにしても、この手引書の著者が紀元前1世紀におけるローマ政治のかなりの事情通だったことに間違いはなく、ここに書かれていることは現在にもそのまま通用する部分がかなりある。●
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