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Classic Selection 2001
日本システムから退出する企業と個人

レオナード・J・ショッパ バージニア大学准教授(論文発表当時)

Japan, the Reluctant Reformer

Leonard J. Schoppa バージニア大学の政治外交学部の准教授。『Bargaining With Japan』の著者(肩書は論文発表当時)。 邦訳分はオリジナル「崩壊する『日本というシステム』」からの抜粋(初出はフォーリン・アフェアーズ2001年9月号)

2001年9月号掲載論文

いまや日本人は、日本のシステムからの「退出」路線を選ぶほうが、政府の政策を変えようと試みるよりも好ましいと確信しているようだ。運命共同体的な日本企業も二分され、競争力のある企業は自分だけのボートを保有するようになり、その結果、競争力のない企業が救済措置を求めて日本政府へ影響力を行使することにも異を唱えなくなった。日本の銀行や政府が、形ばかりの再建案と引き換えに、いまも債務まみれのゾンビ企業への新規融資や公共事業を提供するなか、競争力のある日本企業、老後を 心配する市民、若い女性たちはこれまでの日本のシステムから退出しつつある。

  • 改革へのさめた感情 <一部公開>
  • ゾンビ企業の延命に手を貸す銀行
  • 人口高齢化にどう対処する
  • 女性が働ける社会環境を
  • システムからの退出
  • 空洞化するシステム
  • 日本を救えるか

<改革へのさめた感情>

2000年末、すでに長い間リセッション(景気後退)に苦しんできた日本人は、さらに悪いニュースによって追い打ちを受けることになる。日本のさらなる衰退が差し迫っていると予測するリポートが発表されたからだ。米中央情報局(CIA)が発表した「グローバルトレンド2015」は、中国の台頭ペースを考慮すると、日本は「(アメリカとヨーロッパに次ぐ)世界第三の経済大国としての現在の地位をいずれ維持できなくなるかもしれない」という予測を示した。

このリポートが発表される数カ月前にも、アメリカの格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスが、日本国債の格付けを2度連続して引き下げたばかりだった。かつては高い評価をほしいままにしてきた日本の国債も、いまではポルトガル国債と同じ程度のリスクがあると見なされている。

日本国内でも、この二つのニュースは、こうした否定的評価につながる日本の根幹問題とともに広く報道された。しかし、経済的窮状への関心が大いに高まったにもかかわらず、日本の市民は奇妙なまでに静かだ。不況下にある経済を前に、日本人はあきらめにも似た感情を抱いているようだ。

低成長と財政赤字が膨らんだ時期の政権政党が自民党だったにもかかわらず、有権者は、これまで長く日本を支配的影響力の下に置いてきた自民党支持へと回帰しつつある。人々は1%未満という超低金利を、労働組合も賃金カットという痛みを受け入れている。財界も、政府がなかなか金融機関を立ち直らせることができず、(貸し渋りなどの)クレジット・クランチも緩和できずにいるというのに、状況を辛抱強く見守っている。

こう考えると、より奥深い疑問に行き当たる。なぜ日本人は景気後退という現実を長い間我慢しているのか、なぜ市民たちは、政府に経済を回復させ、国の凋落を阻止するようにもっと積極的に働きかけてこなかったのか。

そもそも日本といえば、大きな課題に正面からうまく対処してきたことでとみに有名な国だ。アメリカの「黒船」が1858年に(列強との)不平等条約(修好通商条約)の締結を強いると、日本は大胆な改革を断行することで状況に対処し、その後わずか50年足らずで列強の仲間入りを果たした。

その後、第二次世界大戦で完全な敗北を喫したものの、見事な復興を遂げ、最近まではアメリカを経済的に追い抜かんばかりの勢いを持っていた。いったい何が起きたというのか。(明治期や戦後における)日本の改革を促した熱意やエネルギーはいったいどこにいってしまったのか。

皮肉にも、その答えは日本の成功という側面に隠されている。

いまや日本の歴史上はじめて、個人や企業は、直面する経済問題を自分で解決できるだけの富と自由を手にしている。個人や企業が自己利益から見て完全に合理的な解決策を現に実施していることが、国全体の経済問題をますます深刻にしている。かつては、日本の個人や企業は独自に経済問題に対応できるほど豊かではなかった。その結果、個人も企業も国による集団的努力のなかに身を置くというやり方に依存してきた。政府へのこうした依存構図ゆえに、日本の市民は自分たちの声に政府が耳を傾けるように働きかけ、賢明な政策をとるように、つまり、債務を増やさず、非効率を生むような経済介入を行わないように求めてきた。

だが、いまや現実はその逆へと向かっている。

問題に直面している個人や企業が自分で解決策をとるのはこれまで困難だった。国際的資本の移動は厳しい制約の下に置かれ、海外へ投資するのも難しかった。保守的な社会秩序ゆえに職業選択や転職の機会も少なく、特に女性たちは、この社会秩序ゆえに結婚したら仕事を辞めて子育てに専念するしかなかった。だが今日では、教育レベルの高い日本の女性は高給ポストを射止める機会を手にしており、結婚を選択しない女性も多くなりつつある。

大きな自由と富を利用できるようになった市民は、問題への対処を政府に強く求めるよりも、この国が直面する問題から逃れようとしている。いまや日本人は、自らの運命を自分で切り開くためにシステムからの「退出」路線を選ぶほうが、政治運動によって政府の政策を変えようと試みるよりも好ましいと確信しているようだ。

しかし残念なことに、このトレンドが国レベルでの経済問題をさらに深刻にし、一方で政府は少子化とそれに伴う労働人口の減少という環境下で、膨大な規模に達している赤字を均衡に持ち込むという遠大な目標に取り組みつつ、デフレスパイラルから抜け出そうと格闘している。

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