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外国からの米前方展開軍の撤退を
―― 軍事的後退戦略で米経済の再生を

ジョセフ・M・パレント/マイアミ大学政治学准教授
ポール・K・マクドナルド/ウェルズリー大学政治学准教授

The Wisdom of Retrenchment

Joseph M. Parent マイアミ大学政治学准教授。専門は、国際関係、安安全保障、米外交政策など。
Paul K. MacDonald ウェルズリー大学政治学准教授。専門は帝国と帝国主義、大国と経済衰退など。

2011年12月号掲載論文

超大国にとって最大の脅威は、帝国意識から過剰な関与をしてしまうことだ。アメリカも行き過ぎた消費と対外関与、過度な楽観主義という覇権国特有の悪いパターンに陥りつつある。幸い、アメリカの有権者は対外関与をより穏やかなレベルへと引き下げていくことを望んでいる。世界におけるアメリカの軍事プレゼンスを低下させ、米軍の規模と編成を見直し、その結果もたらされる「後退戦略の配当」を経済の回復にうまく生かすべきだ。アジアでも米軍のプレゼンスを削減する余地は十分にある。日本と韓国の領土保全を維持し、中国や北朝鮮の冒険主義を封じ込めるには、日韓にそれぞれ駐留する3万の兵力ではなく、強固な予備役部隊がバックアップする緊急展開戦力で十分だ。在日米軍、在韓米軍の規模を段階的に20%削減し、一方で、他の戦力をグアムやハワイに移転しても、現在と同じ戦略機能をより効率的に果たせる。後退戦略をとっても、国際秩序が不安定化するとは限らないし、むしろ、アメリカの改革と復活に向けた基盤を作り出せる。

  • 後退戦略の美徳(部分公開)
  • 損なわれる軍事的優位
  • 経済力の低下とアメリカのパワー
  • 米前方展開軍はもはや必要ではない
  • 後退戦略への議会の支持は得られるか
  • 後退戦略のメリット
  • ヨーロッパの米戦力を半分に削減せよ
  • アジアからの部分撤退を
  • 対テロとゲリラ戦争
  • 国防予算の削減を

<後退戦略の美徳>

冷戦後、アメリカの外交戦略は大きな変化を経験した。モスクワとのライバル競争から解放されたワシントンは、それまでの対外関与の限界を超えた外国へのエンゲージメントをみせ始めた。いかなるライバル国と比べても速いペースで軍事支出を増やし、NATO(北大西洋条約機構)を拡大させ、人道支援のために部隊を投入し、一方では主要な同盟国からさえ距離を置くようになった。特に9・11以降は、こうした単独行動主義的なトレンドがますます鮮明になった。アメリカはアフガンやイラクとの戦争を開始し、世界でのテロ対策を強化しただけでなく、ミサイル防衛に力を入れ、遠隔の地に基地を確保した。

だがいまやアメリカのパワーは廃れつつある。「その他」が台頭してくるにつれて、無節操な支出と全面的な対外コミットメントがアメリカの体力を蝕み始めたからだ。巨大な政府債務を前に、(小さな政府を求める)ティーパーティ派、(赤字の削減を求める)予算タカ派が政府包囲網を築いている。

2011年、退任を控えたロバート・ゲーツ国防長官は「今後5年間で780億ドル規模の国防予算を削減していく」と発表した。同年夏の債務上限引き上げ合意によって、今後10年間でさらに3500億ドルの国防予算が削減される可能性もある。いまやワシントンも、財政規律強化の必要性だけでなく、多国間協調と外交的・軍事的自制のメリットを再認識しつつあるようだ。

事実、アフガンやイラクでの戦争目的はより穏当なものへと修正され、NATO拡大はアジェンダから外された。リビアに対する軍事作戦のリーダーシップもフランスとイギリスに委ねた。

だが、ワシントンが自国のパワーの相対的衰退に応じて戦略的コミットメントを本気で見直すつもりなら、それを後退(retrenchment)戦略として体系化する必要がある。軍事支出を中心とする対外関連予算の大幅な削減を認め、外交戦略の優先課題を再定義し、アメリカの防衛上の負担のより多くを同盟国に委ねる必要がある。

だが、現実にはそうした流れにはなっていない。新任のレオン・パネッタ国防長官は「債務上限の引き上げで合意された以上に国防予算が削減されれば壊滅的な事態になる」と警告し、(そのようなことになれば)「国防は弱体化し、世界における同盟国をつなぎ止めるのも難しくなる」と述べている。政府高官の多くも「アメリカの外国での影響力が弱まれば、独裁者が幅を利かし、世界貿易も混乱に陥る」と懸念を表明し、アメリカの対外エンゲージメントが唐突に低下すれば多くを失うことになる圧力団体も対外関与の圧縮に強く反対している。

実際には、慎重な後退戦略をとれば、外の世界が極度の混乱に陥り、国内に分断線が作り出されるどころか、アメリカの外交、軍事政策のコストを引き下げ、より一貫した持続性のある路線をとれるようになる。歴史的にも、パワーの衰退を認識して外交目的を引き下げた大国は、拡大的で過度に野心的な目的を追い求め続けた大国よりも、権力政治をうまく乗り切っている。

アメリカの前方展開戦力を削減すれば、敵対勢力との緊張を和らげ、潜在的なフラッシングポイント(火種)をなくし、集団安全保障への同盟諸国のさらなる貢献を促す一方、地政学的な支配的優位を維持していくことに伴うアメリカの重荷も軽減される。後退策をとっても、国際秩序が不安定化するとは限らないし、ワシントンにおける党派対立に火を注ぐことにもならない。むしろ、アメリカの改革と復活に向けた基盤が作り出され、戦略的柔軟性が高まり、リーダーシップの正統性が刷新されることになるだろう。

(C) Copyright 2011 by the Council on Foreign Relations, Inc., and Foreign Affairs, Japan

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