貿易財部門の空洞化は避けられない
―― 雇用なき成長への対策はあるか

マイケル・スペンス 米外交問題評議会特別客員フェロー

The Impact of Globalization on Income and Employment

Michael Spence  2001年にジョージ・アカロフ、ジョゼフ・スティグリッツと共にノーベル経済学賞を受賞。世界の貧困、環境、格差などの問題への取り組みを提言する成長開発委員会の議長。現在はニューヨーク大学教授で、米外交問題評議会の特別客員フェロー。

2011年7月号掲載論文

新興市場国が付加価値連鎖の階段を上っていくにつれて、先進諸国の貿易財部門が国内で必要とする労働力は小さくなり、この部門の労働集約型雇用は新興国へと流出していく。事実、米国内での貿易財部門の雇用はほとんど伸びていない。貿易財部門の高付加価値領域における雇用機会と所得レベルは高いが、ローアーエンドへと向かうにつれて、雇用機会も所得レベルも低下している。しかも、アメリカの場合、新規雇用のほとんどが、賃金がほとんど上昇していない非貿易財部門でしか創出されていないために、所得分配の不均衡(所得格差)はさらに顕著になっている。「経済が成長すれば雇用も増大する」と考えられてきたし、実際、これまではその通りだったが、いまや、グローバル経済の構造的進化とそれが国民経済に与える影響によって、経済成長と雇用創出は連動しなくなった。将来に向けた技術・インフラ投資、教育や税制の改革を含む政策の見直しなど、経済の競争力と成長を回復するための長期的で多層的な政策を導入する必要がある。

  • 変化した経済成長と雇用の関係
  • 新興国の台頭と貿易財部門の国内雇用の喪失
  • 先進国の雇用と賃金の不均衡は多層的に拡大する
  • 所得と雇用の不均衡はなぜ起きているか
  • 構造的進化にどう対応するか
  • 公正さと社会的連帯

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