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ソーシャルメディアの政治権力
―― バーチャル空間における言論と集会の自由を重視せよ

クレイ・シャーキー ニューヨーク大学教授

The Political Power of Social Media

Clay Shirky イェール大学卒業後、ノンフィクション系の劇を専門とする劇場をニューヨーク市に設立。1990年代初頭に電子フロンティア財団ニューヨーク支部の副会長に就任。ハンターカレッジにてニューメディアの講座を担当した後、現在は、ニューヨーク大学教授。専門はニューメディア、インターネット論。

2011年2月号掲載論文

「西洋は民主主義のソースコードを持っており、このコードへのアクセスを認めるだけで、権威主義国家は崩壊する」。このような見方は間違っている。ソーシャルメディアは民主化に向けた環境整備のためのツールにすぎない。ウェブ上の公共空間で思想や意見が拡散され、市民社会形成への流れが生じない限り、政治的変化はほとんど起きない。つまり、外部情報へのアクセスを持つことは、相互に会話できる環境を持つことに比べれば、それほど重要ではない。特定の意見が最初はメディアによって伝えられ、その後、それを読んだ人々の友人、家族、同僚たちへと広がっていき、ここで、政治的意見が形作られる。インターネット、特にソーシャルメディアが大きな違いをもたらすのも、この第2段階においてだ。ソーシャルメディアが社会や公共空間での人々の運動を加速する効果があるのは事実としても、その結果が出るまでには、数週間、数カ月ではなく、数年から数十年の時間がかかる。

  • ソーシャルメディアは民主化を促進するのか
  • 「インターネットの自由」促進策が伴う危険
  • 公共空間と市民社会の形成
  • 革命は段階的にしか起きない
  • 「保守派のジレンマ」
  • ソーシャルメディアは政治を変化させるか
  • 政府によるソーシャルメディア対抗策の限界
  • 「社会的コミュニケーションの自由」の促進策を

<ソーシャルメディアは民主化を促進するのか>

2001年1月17日、ジョセフ・エストラーダ大統領の(不正蓄財をめぐる)弾劾裁判のさなか、フィリピン議会の大統領支持派は、弾劾に値する重要な証拠の公開を阻む決議を採択した。この動きが報道されて2時間もしないうちに大きな変化が起きた。腐敗にまみれた大統領が苦境を脱するかもしれないことに危機感と怒りを覚えた数千人の民衆が、マニラの主要な交差点、エピファニオ・デ・ロス・サントス通りに集まっていた。抗議行動の一部はテキストメッセージをつうじて組織された。「黒い服を着て、エピファニオ・デ・ロス・サントス通りへ(Go 2 EDSA. Wear Blk.)」。人々はこのテキストメッセージを転送・拡散し、マニラのダウンタウンは身動きのとれない交通渋滞に陥った。

この週だけでも700万のテキストメッセージが飛び交った。民衆が大規模な抗議行動をきわめて迅速に組織したことに危機感を募らせた大統領派も、弾劾資料提出を認めざるを得ないとついに観念した。ここにエストラーダの命運は尽きた。1月20日までに彼は大統領のポストを追われていた。
この展開は、国の指導者を権力ポストから追放する上で、ソーシャルメディアが大きな役割を果たした初めてのケースだった。エストラーダ自身、「自分はテキストメッセージ世代」によって政治的に追い込まれたと後に述懐している。

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