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CFRミーティング
世界エネルギー・アウトルック ――
ゲームチェンジャーとしての電気自動車と二酸化炭素回収・貯蔵技術

スピーカー
ファティ・ビロル 国際エネルギー機関・経済分析部 チーフエコノミスト
司会
ピーター・ゴールドマーク 環境防衛ファンド ディレクター

World Energy Outlook 2010

Fatih Birol 国際エネルギー機関のチーフエコノミストとして、長年にわたってIEAの年次出版物である『世界エネルギー・アウトルック』をまとめている。エネルギー問題に関する世界有数の専門家の一人。各国の政策決定者にエネルギー関連のビジネスプロスペクトを提供する、IEAのエネルギービジネス評議会の責任者も兼務している。

2011年1月号掲載論文

原油価格は今後も高いレベルを維持し、一方、天然ガスの価格は供給過剰で今後も安値が続く。天然ガスは環境面でも悪い選択肢ではなく、逆に再生可能エネルギーの開発にはマイナスに作用している部分がある。・・・既存のエネルギーに比べてコストが高いために、クリーンテクノロジーは市場に浸透しないという問題を抱えている。鍵を握るのは中国だ。中国が、クリーンテクノロジーを大々的に市場に導入すれば、コストは引き下げられ、これは世界のすべてにとっての利益になる。だがもう一つの側面もある。電気自動車を例にとると、中国は自動車メーカー、部品メーカーその他すべてをひとまとめにして、資金と補助金を与えるという戦略をとっている。つまり、今後20~25年もすれば、中国が電気自動車産業の覇者になっていてもおかしくはない。・・・いずれにしても、エネルギー問題、地球環境、石油市場についてわれわれが持続不可能な未来へと向かっているという基本的な流れに変化はみられない。(F・ビロル)

  • 市場を左右する石油価格の高騰と天然ガス価格の低下
  • 中国が環境に優しい技術を取り入れれば・・・
  • 地球温暖化対策の先行きは暗い
  • 今後を左右する電気自動車と二酸化炭素回収・貯蔵技術
  • 代替エネルギーと代替燃料

<市場を左右する石油価格の高騰と天然ガス価格の低下>

ピーター・ゴールドマーク IEA(国際エネルギー機関)の年次報告、『世界エネルギー・アウトルック』が世界で広く注目され、詳細な検証の対象にされるのは、経済的繁栄の多くが、われわれがエネルギーをどのように生産し、消費するかに左右されるからだ。この年次リポートを長年にわたってまとめているのが、今日のスピーカー、ファティ・ビロルだ。今回のアウトルックの特徴は何だろうか。

ファティ・ビロル 分析のなかから、石油、天然ガス、中国、気候変動問題について、簡単に説明しよう。

先ず、石油について。安価な石油の時代は完全に終わり、そのような時代が復活することはもうあり得ない。これが今回の分析の結論だ。石油消費国の運輸・交通システムが、石油を基盤とするものから、電気を基盤とするものへと大きく変化していかない限り、石油の価格は上昇を続けるだろう。3年前に石油の価格が1バレル60ドルだった当時、私は「原油価格は上昇する」と予測した。(乱高下を経た)現段階でも、価格は86ドルの高水準にある。今後グローバル経済が回復へと向かえば、原油価格はさらに上昇する。これは、政府や企業だけでなく、車のドライバーなど民間の個人にとっても重要なポイントだと思う。われわれとしても初めての経験だが、「今後、当面は、原油の高価格時代が続く」という予測を示した。

次に天然ガスについて。2009年に私は、天然ガスは供給過剰になるかもしれないと予測し、実際、天然ガス市場はいまや飽和状態、供給過剰状態にある。北米、ヨーロッパ、アジア・太平洋地域の需給トレンドをみると、消費地域であるヨーロッパその他で予期せぬ経済ブームが起きて天然ガス需要が増大しない限り、この供給過剰は、あと10年程度は続くと考えられる。

特に、LNG(液化天然ガス)は低価格で推移するはずだ。これは消費国にとってはグッドニュースだが、主要な天然ガス生産国にとっては、必ずしもそうではない。アメリカが天然ガス資源を輸入に頼らなくても済むようになったことで、市場では天然ガス資源の供給過剰が続いている。

ヨーロッパとアジアの多くの諸国は、これまで、石油価格の変動に連動した価格で天然ガスを調達する契約を結んできた。この契約の場合、石油価格が上昇すれば、天然ガス価格も上昇する。だが、現在の天然ガスの長期調達契約は、より創造的な価格決定メカニズムを取り入れ始めている。LNG価格には石油価格だけでなく、その他のエネルギー資源の市場価格変動も反映されるようになった。これによって輸入国であるヨーロッパやアジア諸国のLNG輸出国に対する立場が強くなった。流れは変化し、契約スタイルも見直され始めている。

その結果、エネルギー資源そのものが相互に連動するのではなく、競い合うようになった。これには、いいところも悪いところもある。

エネルギー資源のコスト問題、環境問題、利便性がそれぞれかい離しつつある。価格面では天然ガス資源は安くなったが、天然ガスが環境面でも悪い選択肢ではないために、再生可能エネルギー開発にはマイナスに作用している部分がある。

実際、私が最近訪問した国々の多くは巨大な財政赤字を抱え込んでおり、再生可能エネルギーへの補助金を維持していくのは難しい状況に陥りつつある。特にヨーロッパ諸国はそうだ。再生可能エネルギーのライバルで、環境負荷も大きくはない天然ガス価格が低下していけば、再生可能エネルギーがスムーズに普及していくとはますます考えにくくなる。

二酸化炭素の回収・貯蔵などの新技術は前途有望だが、依然としてコストが高い。天然ガス価格が当面は低いままだと考えられているため、こうした新技術への関心が薄れつつある。

これは推測にすぎないが、天然ガスの低価格化がエネルギー市場の全体像を塗り替えるかもしれない。

アメリカ同様に、中国も天然ガス資源を重視するようになるかもしれないからだ。それはシェールガスかもしれないし、炭層メタンかもしれない。だが、まだ様子をみなければならない。特に、中国で変化が起きるかどうかを見守る必要がある。オーストラリアは炭層メタンを重視しており、すでに多くの開発プロジェクトが進められている。非通常型の天然ガスが出回るようになる可能性もある。

 

<中国が環境に優しい技術を取り入れれば・・・>

次に、新興市場諸国がエネルギー問題と地球環境問題の今後を左右するとして、(エネルギー消費の増大を伴う)経済成長はどこで起きるだろうか。エネルギー消費の増大、二酸化炭素排出の増大という観点からみれば、それが集中するのは中国、インドの順になると考えられる。石油需要という面からみれば、世界の石油需要増の実に60%は中国によるものになるだろう。これは驚きだが、具体的に数字を追っていくと納得できる。

アメリカとヨーロッパの自家用車所有率は現在1000人あたりそれぞれ700人、500人だが、中国の場合、現状では1000人あたり30人にすぎない。25年間のうちに中国の自家用車所有率が1000人あたり、240人になれば、中国はますます多くの原油を輸入するようになり、石油市場に大きな影響がでる。アメリカやヨーロッパのケースからみて、中国がこのレベルの所有率に達すると考えてもおかしくはない。

つまり、自家用車保有率でみて、2035年に中国がアメリカのほぼ3分の1のレベルに達すれば、石油の輸入量が劇的に増大し、市場に非常に大きな影響が出る。

この場合、二酸化炭素排出量の増大の60%は中国によるものになる。中国政府がいかなる決定を下すとしても、われわれは大きな影響を受ける。アメリカの鉱山業者もヨーロッパの自動車メーカーもデンマークの再生可能エネルギー関連企業もその余波を受ける。

だが、この話には続きがある。原材料市場や二酸化炭素排出という面で中国のウェイトが高まっていることは誰もが知っているが、一方で別のストーリーもある。それはクリーンエネルギー・テクノロジーの普及率という側面でも中国が今後最先端をいくと考えられることだ。風力発電、原子力発電、電気自動車など先端技術を最大限取り入れるのは中国になると考えられている。

これは何を意味するか。一つはクリーンエネルギーの技術と産業が、中国市場での試行錯誤を通じて前進していく。より多くを市場で試みれば、より多くが改善され、多くの場合、コストが低下していく。

中国が風力発電、ソーラー発電、先端自動車技術を大々的に市場に取り入れていけば、こうした技術の生産・利用コストは低下し、これは誰にとってもグッドニュースだろう。

既存のエネルギーに比べてコストが高いために、クリーンテクノロジーは市場に浸透しにくいという問題を抱えている。だが中国が、これらの技術を大々的に市場に導入すれば、コストが引き下げられる。クリーンエネルギー技術の利用コストが低くなるのは、世界の誰にとっても良いことだ。

ただし、これにはもう一つの側面がある。電気自動車を例にとると、米欧と中国の開発戦略は大きく違っている。中国は自動車メーカー、部品メーカーその他すべてをひとまとめにして、資金と補助金を与えるという戦略をとっている。つまり、今後20~25年もすれば、中国が先端自動車の覇者になっていてもおかしくはない。つまり、現在の覇者は今後その座を中国に奪われることになる。

OECD諸国のGDPの3%は自動車産業が担っているし、ヨーロッパの雇用の8%は自動車産業が作り出している。現在、クリーンエネルギーを主導する国は中国に取って代わられることを意味する。エネルギー産業だけでなく、貿易その他の産業にも似たようなことが言えるかもしれない。

最後のポイントは、地球温暖化問題だが、この問題の鍵を握るのがエネルギー部門だ。温室効果ガス排出の3分の2はエネルギー部門に関係している。この部門を変化させない限り、地球環境問題を大きく緩和させることはできない。

だが、コペンハーゲンでは法的拘束力のある合意は成立しなかったし、その後のさまざまな会議で声明や目標が発表されたが、意図的かどうかはともかく、そのすべては曖昧で、理解しがたい内容だった。真剣な熱意に欠けることだけは明らかだ。

現在のエネルギー部門の投資の多くは、地球温暖化問題に配慮したものではない。いまや、地球温暖化問題に対応できなくなるぎりぎりのところまで来ている。しかも、現在のエネルギー投資が動きだせば、今後数年間は、もう後戻りはできなくなる。(G8の合意事項である)気温の上昇を摂氏2度以内に収めるのは、もはや不可能になりつつある。これが最後のポイントだ。

 

<地球温暖化対策の先行きは暗い>

ゴールドマーク 今回のエネルギー・アウトルックの特徴は、エネルギー毎に需要が大きく違っていることだ。2009年の段階では、リセッションゆえにエネルギー需要が低下していくことはある程度予測できた。今後の、エネルギー需要の変化はどうなるのだろうか。

ビロル 現在、多くの国でエネルギー需要を管理する政策が導入されている。例えば、中国、ヨーロッパ、そしてある程度はインドやアメリカでも、需要管理策がとられている。エネルギー効率基準、再生可能エネルギーの使用比率、原子力発電の促進策などだ。だが、ヨーロッパを例外とすれば、地球温暖化への懸念からというよりも、エネルギー安全保障の観点からこれらの政策は実施されている。

これらの措置の導入によって、エネルギー需要の全般的な伸びは少しばかり鈍化し、再生可能エネルギー、原子力による電力生産のシェアが少しばかり増えたが、依然として化石燃料を利用する電力生産がほとんどだ。一方、世界における天然ガスのシェアは増えていくと考えられる。

これらを変化とみなすこともできる。だが、私に言わせれば、もっとも重要な変化は、グローバル経済にアジア経済が深く浸透していることだ。エネルギー需要構造のなかでも、現在のゲームを支配しているのはアジアだ。これらが変化の一部だろう。だが、われわれがエネルギー問題、地球環境、石油市場について持続不可能な未来へと向かっているという基本的な流れには変化はみられない。

ゴールドマーク 今回のリポートの意味合いは、現状のコースを歩み続ければ、地球温暖化をめぐって壊滅的な事態に遭遇するということか。

ビロル 現状のコースを歩み続ければ、気温は摂氏3・5度程度上昇することになる。これは、海洋の水位レベル、水資源、人の移動、生物種に非常に深刻な悪影響を与える。私は気候変動の専門家ではないが、3・5度の気温上昇は壊滅的な事態を招き入れることになるだろう。

だがそれでも、3・5度に収まればまだ幸運と言える。3・5度の気温上昇に抑えられるのは、例えば、アメリカが二酸化炭素の排出量を2005年のレベルの8%程度へと大幅に削減することに成功した場合だ。そして、この場合でも、ダメージは相当深刻なものになる。気候変動問題の緩和という考え方だけでなく、この問題にどう対処していくかを根本から見直す必要が出てくるかもしれない。

ゴールドマーク 世界のエネルギー・アクセス、電力へのアクセスの不均衡問題について、コメントしてもらえるだろうか。

ビロル 現在、世界の14億人、つまり、世界の人口の20%が電力のない環境で暮らしている。地域的にみると、サハラ砂漠以南のアフリカ、インド、パキスタン、バングラデシュなどの南アジアなどだ。電力がなければ、暗くなって新聞は読めないし、子供用の医薬品を冷蔵庫で保管することもできない。

この側面でも、世界には大きな不均衡が存在する。サハラ砂漠以南の地域には8億人の人々が暮らしているが、この地域に供給されている電力の総量は、ニューヨーク州が消費している電力量とほぼ同じだ。考えられない規模での、電力へのアクセスの不均衡が存在する。

だが、このアクセス面での格差を是正するのはそれほど難しくない。これらの地域では多くの人々は田舎で暮らしており、機器や装置さえ提供すれば、(風力、ソーラーその他の)再生可能エネルギーを利用できる。したがって、ほんのわずかの投資でこの地域の人々にエネルギーを提供できるようになるし、現地での生活を一変させることができる。

やっとこのエネルギー・アクセスの不均衡問題が認識されだした。

だが、14億の人々がさらにエネルギーへのアクセスを持つようになれば、人間の生活に伴う二酸化炭素排出量がさらに増えて、気候変動問題がさらに深刻になるのではないかと考える人もいる。実際、これは、国際的なエネルギー政策のフォーラムでも争点として取り上げられている。だが、この14億人の人々がエネルギーを利用できるようになっても、世界の二酸化炭素排出量は0・8%増大するだけだ。

これらの人々が使用するエネルギーは非常に少量だし、多くの場合、再生可能エネルギーが使用されることになるからだ。したがって、アフリカ、南アジアの14億の人々に電力を与えるための各国の試みを、国際的に支えていくべきだ。

 

<今後を左右する電気自動車と二酸化炭素回収・貯蔵技術>

ゴールドマーク では質疑応答へ。

質問者 状況を大きく塗り変えるようなゲームチェンジャーとなり得るテクノロジーはあるだろうか。それが衝撃を持ち始めるまでに、どの程度の時間がかかるだろうか。

ビロル ゲームチェンジャーとなり得る技術は二つあると思う。一つは、消費サイドにおける電気自動車だ。石油の需要を減らすという意味でも状況を大きく塗り替えることになると思う。石油需要は運輸・輸送部門が牽引しているわけで、この部門の需要を減らせれば状況は変化する。

二つ目の技術を指摘する前に、この関連で(原油の産出量が頭打ちになり、その後、減少し始めるとする)ピークオイル論についても触れておこう。ピークオイルは資源の限界、埋蔵量の観点から論じられている。いずれ原油の生産がピークに達するのは避けられない。だが、電気自動車など、交通部門での代替エネルギー技術が広く使用されるようになれば、どうなるだろうか。石油輸入国が石油資源の将来を変えていくための大きな手段が電気自動車だ。石油をベースとする交通から電気をベースとする交通へと移行していけば、状況は大きく変わる。中国を始めとする多くの諸国が、この移行に取り組んでいる。

もう一つの技術は、二酸化炭素の回収・貯蔵技術だ。依然として、電力生産の主流は石炭による火力発電だ。中国だけでも、今後25年間で、600ギガワットレベルの電力を生産できる多数の石炭火力発電所を建設する計画を持っている。600ギガワットが何を意味するか。これは、アメリカ、ヨーロッパ、日本の石炭火力発電所の電力生産量の合計に匹敵する。

二酸化炭素回収・貯蔵技術とは、排出される二酸化炭素を回収して、地中に貯蔵する技術のことだ。このテクノロジーはまだ完成形にはいたっていないし、コスト面での問題も抱えている。

だが、このテクノロジーが費用対効果の高いものになり、主要な石炭消費国である中国、インド、アメリカがこの技術を導入すれば、気候変動のゲームチャンジャーとしての技術になるかもしれない。

電気自動車と二酸化炭素回収・貯蔵技術が、気候変動問題の今後を左右する技術だ。個人的には、二酸化炭素回収・貯蔵技術よりも、電気自動車の普及のほうが進むのではないかと考えている。中国を中心に今後、数多くのドライバーが誕生すると予想されるからだ。

質問者 天然ガスの供給過剰が続き、世界規模での二酸化炭素排出権取引は進みそうにない。この環境で、原子力発電はどうなるとみているか。

ビロル 地球温暖化対策として原子力は重要な技術だ。風力発電のように電力生産が途切れることはないし、生産コストも高くない。問題は、施設建設のための初期コストが莫大な額に達することだ。中型の原子力施設で平均60億ドルもかかる。

現在、世界で60基の原子力発電所が建設されているが、そのうちの半分、30基は中国で建設されている。この他に、ロシア、インド、その他の国々が原子力発電所を建設している。一方で、OECD加盟国での新規建設はほとんど行われていない。これは初期コストが膨大であることと、市場では60億ドルの予算を調達するのが難しいことが理由だ。

とはいえ、これまでに原子力に否定的だったOECD諸国の路線は変化している。例えば、ドイツは、数年前までは原子力発電の縮小化を想定していたが、その後、路線を180度転換させて、現在は、原子力発電に前向きになっている。スウェーデンもベルギーも同様だ。1992年に国民投票で原子力発電を禁止したイタリアでさえも、いまは原子力による電力生産を前向きに検討し始めている。

とはいえ、天然ガス価格が低下していることもあって、原子力による電力生産の需要が一気に高まるとは考えにくい。特にOECD諸国ではそうだろう。一方で、中国の原子力への取り組みが突出している。

質問者 今後も石油需要は高まり、供給サイドでの問題が生じる。これが今後10年間、あるいはそれ以上にわたって続くトレンドではないのか。一方で、あなたが示唆するように、需要ピークが訪れるのかもしれないし、OECD諸国の一部ではすでにこれが現実になっているのかもしれない。

ビロル 石油価格が上昇していくと私が考えるのは、あなたも指摘するように、市場の需要が高いからだ。一方で、OPEC(石油輸出国機構)以外で国際的石油企業が開発している油田の産出量は、市場原理によって低下しつつある。

中東では国営石油企業が支配的だし、このスタイルが世界的趨勢になれば、市場メカニズムとは関係のないところで投資と生産の決定が行われるようになる。だが、他にも要因はある。中東や北アフリカの国営石油企業の仕事は石油に投資するだけではない。学校や病院を建設し、インフラも整備しなければならない。間違いなく言えるのは、国際的石油企業の栄光の日々はもはや過去のものだということだ。

国際的石油企業が管理している油田の埋蔵量は低下し、新しい油田へのアクセスを確保するのも生産量を増やすのも難しい状況にある。いまや、ほとんどが国営石油企業に支配されている。

先に電気自動車や自動車技術の進展について指摘したが、これらが短期的に実現するわけではない。

今後も原油価格が高騰したままであれば、代替エネルギーの利用増大に向けた投資が加速されることになるだろう。先端技術の開発・応用ペースが速まり、政府もそれを後押しし、代替エネルギーの経済効率の改善が進むと考えられる。逆に言えば、産油国にとっても、原油の高価格が続くのを喜んでばかりもいられない。

最終的には、石油の高価格は代替エネルギー開発を劇的に進展させることになる。

 

<代替エネルギーと代替燃料>


質問者 世界的にみて、ソーラーエネルギーが主要な解決策となるような地域はあるのか。

ビロル ドイツはソーラーエネルギーの開発にかなりの資金をつぎ込んでいるが、この国の日射量は少なく、ドイツでソーラーが主要な代替エネルギーとなることはあり得ない。一方、資金面での問題をクリアーする必要があるが、アフリカ大陸ではソーラーエネルギー市場が整備されていくかもしれない。中国もソーラーエネルギーに大規模な投資を行っている。中国が生産するソーラーエネルギー・システムは比較的安価であり、これらは国内で使用されているだけでなく、輸出されており、この流れによってエネルギー生産に占めるソーラーの比率が高まる可能性もある。

つまり、ソーラーエネルギーが根付く可能性があるのはアフリカと中国だ。中国は技術改善のために多額の投資を行い、洗練しようと試みており、すでに国内で使用するとともに、外国へと輸出している。

質問者 交通部門のエネルギー源としての石油と電気の競合という話があったが、この二つの間の選択肢についてはどうなっていくのか。

ビロル 数多くの選択肢がある。バイオ燃料、プラグインハイブリッドカー、ハイブリッドカー、電気自動車などだ。数多くの技術があり、これらは原油の高価格への対策になるし、地球温暖化対策としてもある程度は期待できるだろう。

バイオ燃料については新テクノロジーが導入されつつある。(これまでのように穀物を原材料にするのではなく)セルロースを原料にした第2世代のエタノールの生産が試みられている。産業部門と農業部門が協力してエネルギーコストを引き下げ、環境インパクトを減らす技術が誕生しつつある。

交通部門、自動車部門についても、新技術を持つプレイヤーは、将来の市場シェアを確保しようとせめぎ合いを演じている。

例えて言えば、この市場は、子供の出産を間近に控えた女性のようなものだ。子供が生まれるのはわかっているが、それが、男の子なのか、女の子なのか、双子なのか、誰にもわからない。ただ、石油市場がどうなるか、政府がどの分野に補助金をつぎ込んでいるかで、今後は変化してくる。

どの技術が勝利を手にするのかはわからないが、ブラジルの例からみても、バイオ燃料は有望だと思う。だが、2035年の液体燃料の使用に関するわれわれの予測では、バイオ燃料の市場シェアはわずか5%と試算されており、ゲームチェンジャーにはなれないだろう。

質問者 石油の供給について、もっと詳細に話してもらえるだろうか。増産が期待できるのはどの国だろうか。この文脈で、イラクとブラジルの石油生産の今後をどうみているか。

ビロル どの産油国で増産が期待できるか。トップ3は、サウジ、イラク、ブラジルだとみている。サウジの増産には誰も驚かないだろう。ブラジルは驚きかもしれないが、そこに世界有数の国営石油企業が存在することを思えば、それほど驚きでもない。

国営石油企業については、(その非効率や政治色など)とかくステレオタイプでみなされがちだが、ブラジルのペトログラスは、世界のトップクラスの石油企業で、オフショア油田の開発をめぐって大きな成功を収めている。ブラジルで増産が期待できるのは間違いない。だが、どのくらいの増産になるか。おそらく、日産400万バレル程度が積み増されることになるだろう。

需要サイドで電気自動車その他の自動車の先端技術が導入されてゆけば、供給サイドにどのような影響を与えることになるかも考えるべきだが、供給サイドで私が特に注目しているのはイラクだ。イラクで何が起きるかは非常に重要だ。

現在のイラクは日産250万バレルの石油を生産しているが、少なくとも、われわれは、今後イラクは日産400~700万バレル程度まで生産を伸ばせると考えている。イラク政府はもっと高い数字を目標として設定しているが、イラクの石油増産を妨げている障害は、政治が不安定で治安が十分に確保されていないことだ。この政治・社会面での改善が実現しない限り、投資を増やしても増産は見込めず、石油市場は逼迫し、困難な状況に直面する。

需要サイドで電気自動車や先端自動車がゲームチェンジャーだとすれば、サプライサイドは、イラクが治安の確保に成功し、石油の増産が期待できる環境になるかで多くは左右される。

質問者 2010年夏にIEAは公式に中国が世界最大のエネルギー消費国になったと公表した。仮にわれわれが新しいビジネスサイクルに入り、世界最大のエネルギー消費国である中国が石炭を中心としたエネルギー増産を試みれば、石炭の供給が混乱することにはならないか。これはエネルギー市場全体にどのような影響を与えるだろうか。

ビロル 確かに、100年に及ぶアメリカの独占を破って、中国が世界最大のエネルギー消費国になったと私は2010年に発表した。だが、中国人の専門家は異なる見方をしている。まだ4%程度、アメリカのエネルギー消費のほうが大きいと考えている。だが中国側の見方でも、2011年には中国は世界最大のエネルギー消費国になるはずだ。

だが、驚くべきは、わずか10年前の2000年当時の中国のエネルギー消費量がアメリカの半分程度にすぎなかったことだ。これは、わずか10年足らずで、中国のエネルギー消費が倍以上に増えたことを意味する。もう一つは二酸化炭素排出量だ。

2008年に私は、中国は最大の二酸化炭素排出国になったと発表したが、このときも、中国の専門家は私の見方を受け入れなかった。だが、ついに中国も2010年末に、自国が世界最大の二酸化炭素排出国であることを認めた。

次に石炭の問題に移ろう。あなたの指摘する通り、これは非常に重要な問題だ。いまや石炭価格は急騰している。中国は消費する石炭のわずか3%を輸入しているにすぎないが、その3%が世界の石炭市場を揺るがしている。今回のアウトルックでも指摘したが、少なくとも2015年末までは、中国は石炭を輸入し続け、市場にインパクトを与え続けるだろう。

中国は石炭鉱床を国内に持っているが、国内産の石炭のほとんどは、沿岸地域で工業用、あるいは、電力生産用に使用されている。問題は資源が存在するのが中国西部やモンゴルなどで、これらの石炭資源を沿海地域へと運ぶのがますます難しくなっている。インドネシアやオーストラリアから輸入した方が安いし、品質も良い。

何か大きな変化が起きない限り、中国は今後も石炭の輸入を続け、市場に大きな衝撃を与え続けるだろう。●

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