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論争 台湾は中国の軌道に入りつつあるのか?

ヴァンス・チャン 駐米台北経済文化代表処・情報部ディレクター
ハンス・モウリゼン オランダ国際研究所 シニア・リサーチフェロー
ブルース・ジリー ポートランド 州立大学行政大学院准教授(政治学)

To the Finland Station
―― Is Taiwan Selling out to China

2010年6月号掲載論文

エネルギーの利用効率の改善ペースが石油資源の枯渇ペースを上回り続ければ、いずれ石油は低価格であっても市場で見向きもされない資源になる。利用効率の改善によって節約される資源は、いまや米国内のエネルギー供給の五分の二に匹敵する規模に達しており、これこそもっとも急速に拡大している新しい「資源」だ。石油価格を引き下げ、安定させることができるのは、唯一需要サイドでのエネルギー利用効率の改善促進だけだし、利用効率レベルをほんの少し引き上げるだけでそれは実現する。石油の供給を増やすのではなく、使用効率の改善に重点を置いた需要管理措置とクリーンな代替エネルギー促進策を政策の基盤に据えるべきだ。

  • すべての前提は米台安全保障パートナーシップだ/ヴァンス・チャン
  • 現状では台湾のフィンランド化はあり得ない/ハンス・モウリゼン
  • アメリカが規定する対中環境から抜け出すかどうか、それを決めるのは台湾だ/ブルース・ジリー

すべての前提は米台安全保障パートナーシップだ/ヴァンス・チャン

「台湾がアメリカを離れて中国の軌道に入るべきこれだけの理由=”Not So Dire Straights”」(フォーリン・アフェアーズ リポート2月号=Foreign Affairs January/February, 2010)で、ブルース・ジリーは、現在の台湾、中国、アメリカの関係を規定するダイナミクスを説明しようと試み、最近の中台関係を、第二次世界大戦後の「フィンランド・モデル」で説明した。

このとらえ方は表面的には興味深いかもしれないが、彼の議論は詳細な検証に耐えるものではない。馬英九総統の対中外交戦略を台湾の「フィンランド化」を促進しようとする試みとみなすジリーの描写は不適切だし、事実を反映していない。(注、ジリーは、かつてフィンランドがソビエトの懐に入って西側と東側の和解の橋渡しをしたように、台湾がフィンランド化して中国の軌道に入れば、中台関係が安定するだけでなく、中国における前向きの変化をこれまで以上に刺激し、中国が平和的に台頭する可能性を高めることができると指摘した)。

ジリーも、中台が第二次世界大戦の大義の他、1979年の台湾関係法に象徴される永続的な戦略利益、そして、民主的自由や経済的自由という価値へのコミットメントなど、中台が価値を共有し、ともに利害を形作ってきたことは認めている。だが、台湾の現在の路線をフィンランド化モデルで説明しようと試み、実態がないにも関わらず、台湾のフィンランド化を認めることをアメリカの政策決定者にとっての「はっきりとした選択肢」と位置付けることで、ジリーは現在の台湾の政治的現実をまったく見誤ってしまったようだ。

フィンランド化理論の主要な要素をここで振り返ってみよう。フィンランドは、1948年のソビエトとの合意を通じて、モスクワに挑戦するような同盟関係に参加しないこと、米ソが関わる問題については中立路線をとることを約束した。一方で、モスクワはフィンランドの自治と民主主義を尊重することを約束した。

ジリーの理論によれば、「フィンランド化した国」は、戦略的な妥協を行うことで、隣接する超大国との平和的な関係を作り出し、一方の超大国は、軍事的強制策ではなく、漠然とした脅威を作り出すだけで、小国の路線を左右できる。

だが多くの意味で、この半世紀に及ぶ台湾と大陸中国は、フィンランド化モデルとはまったく逆の路線を歩んできた。

台北は60年間にわたってアメリカとの同盟関係を維持し、北京との対立局面を何度も経験してきた。台湾の中核的な価値や自由が脅かされるリスクがあるときに、中国に対して妥協策や宥和策をとることはなく、アジア地域におけるアメリカの利益を強く支持してきた。

中国が台湾の自治や民主的制度を尊重してきたわけでもない。中国は武力をバックとする外交的恫喝策をとってきたし、現に、台湾海峡の大陸側にはますます多くのミサイルが配備されている。

フィンランド化という言葉でが、台北と北京の関係の現状をうまく言い表しているわけでもない。2008年に総統に就任して以降の馬英九の政策と行動を、フィンランド化という言葉では説明できない。フィンランド化モデルに即して、馬英九が中国により中立的で和解的なモデルをとっているわけではない。彼は就任演説で、アメリカは台湾にとって「もっとも重要な同盟国であり、貿易パートナーだ」と表明し、対中宥和路線を打ち消すかのように、「台湾はたんに安全と繁栄が欲しいだけではない。尊厳をもたなければならない。台湾が国際社会における孤立状況から脱して初めて、海峡間関係を、自信を持って前に進めることができる」と宣言している。

ジリーが言うように「これまでのゲームルールから抜け出す」のではなく、むしろ台北は、台湾、中国、アメリカのすべてが勝者となれる見込みをかつてなく高めるような路線をとっているだけだ。馬英九は、海峡間関係の緊張を和らげる一方で、歴史的な台北とワシントンのパートナーシップを強化することを目的にした新たな外交路線をとっている。この点も、フィンランド化モデルと台湾の経験の大きな違いだろう。

第二次世界大戦後、フィンランドが時折アメリカに依存したのとは違って、台湾とアメリカのパートナーシップは長期的で一貫しているし、価値と目的を共有することでしっかりと支えられている。だからこそ、馬英九はワシントンとの相互信頼を再確立し強化することに成功している。彼は、他の国を訪問する途上でアメリカに立ち寄った際にも、アメリカの指導者との意見交換の機会をつくっているし、台湾の防衛能力強化のために2008年10月と2010年1月に武器調達をアメリカと交渉している。

実際には、馬英九は、アメリカとの強固なパートナーシップを前提に台湾の利益を見据えた上で、北京との新たな関係の構築を模索してきた。これは、フィンランド化した国が行う戦略的な妥協とはまったく別物だ。この枠組みにおいて台北は北京との間で双方を結ぶ直行便や輸送チャンネル、犯罪対策、食糧安全保障などの案件をめぐって合意をまとめ、2009年12月の海峡間交渉でも、漁獲権、農産品の検査という、台湾経済にとって非常に重要な案件をめぐって合意を成立させている。

同様に、台湾の外交的試みは、相手に屈服しているのではなく、むしろ、自信に裏付けられている。微妙な外交路線を通じて、国際機関でのプレゼンスを確保しようとする試みにも成功している。世界保健機関(WHO)の事務局長は、2009年5月のWHO総会に台湾がオブザーバーとして参加するように求めた。これは、WHOへのより本格的な参加に向けた歓迎できる前向きの展開だ。

ワシントンは、台頭する中国への対抗バランスの一部として台湾を位置付ける「軍事化されたリアリスト・アプローチ」をとるのか、それとも、「自らは身を引いて、台湾と中国の緊密な関係を認めるのか」いまや「はっきりとした選択に直面している」とジリーは主張している。だが、最近の展開からも明らかなように、彼の言うような、はっきりとした選択肢など存在しない。

半世紀前と同様に、台湾とアメリカの強固な安全保障パートナーシップがすべての前提であり、海峡間の経済協調であれ、気候変動やテロをめぐる多国間協調であれ、台湾の外交路線はあくまで、こうしたアメリカとのパートナーシップに支えられている。

馬英九のアプローチは、台湾にとって重要なだけでなく、北京とワシントンが信頼を育んでいくことにも貢献し、米台中のすべてに利益をもたらすようなシナリオの実現へと道を開くことになるだろう。この目的から、台北は、馬英九の言葉を借りれば、オバマ政権との緊密で「安定した手堅い」関係を模索してきた。これに対してバラク・オバマと米政府の高官たちは、海峡間関係を改善しようとする馬英九の路線を賞賛・奨励してきた。

台湾がフィンランド化して(中国に取り込まれて)いく可能性は、むしろ、いまや限りなく遠のいている。むしろ、台北は北京との建設的な対話路線を続けるともに、台湾の民主的価値を促進し、同じ思いを抱く諸国の道標となれるように、ワシントンとのパートナーシップを維持していくだろう。

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