istock.com/BlackJack3D

Classic Selection 2009
21世紀の国家パワーはいかに ネットワークを形成するかで決まる
――新時代におけるアメリカ優位の源泉

アン=マリー・スローター  プリンストン大学ウッドロー・ウィルソン公共・ 国際問題大学院学院長

America's Edge

Anne-Marie Slaughter ハーバード大学教授を経て、プリンストン大学ウッドロー・ウィルソン公共・国際問題大学院長。2002~2004年までアメリカ国際法学会(ASIL)の会長。グローバル化とそれに伴う国際法の変化について数多くの論文を発表し、「トランスガバメンタリズム」の概念をアピールして一躍脚光を浴びた。

2009年2月号掲載論文

問題を前にして、誰と連帯してどのような措置をとるべきか。この点を理解していることが21世紀における外交の要諦である。現在の世界では、いかに他とつながっているかでパワーが左右される。しかも21世紀のネットワーク化した世界は国家の上にも下にも存在し、また国家と国家の間にも存在する。そのような世界で中心的プレーヤーとなり、グローバルなアジェンダを設定し、イノベーションと持続可能な成長の中核を担うのは、最大のネットワークをもつ国である。どれだけネットワークを持っているかによってパワーが決まるとすれば、リーダーシップの本質は共有する問題を解決するために、いかにネットワークを形作っていくかにある。ネットワーク化された世界で重要なのは、(国家の)相対的パワーではなく、濃密なグローバルウェブのどれだけ中心に身を置けるかにある。

  • 21世紀の世界の本質としてネットワーク化 <一部公開>
  • アメリカの優位
  • 他のプレーヤーとのネットワークキング
  • ネットワークでつながれたスーパークラス
  • 大きな人口は資産ではなく重荷である
  • 「グローバル人第1世代」の誕生
  • 21世紀をリードするのは東か西か
  • クリエイティブな文化
  • ウィキの世界
  • アメリカの優位を確立するには
  • 優位をさらに研ぎ澄ますには

<21世紀の世界の本質としてネットワーク化>

われわれはネットワーク化された世界で暮らしている。
戦争もネットワーク化されている。テロリストのパワーも、テロリストを粉砕する各国の軍隊のパワーも、機動力に富む小規模の部隊が情報、コミュニケーション、支援ネットワークをつうじていかにうまく連携するかに左右される。
外交もネットワーク化されている。重症急性呼吸器症候群(SARS)から地球温暖化まで、国際的な危機を管理していくには、官民のアクターからなる国際ネットワークを動員しなければならない。ビジネスも同様だ。この10年間に出版された企業経営者向けマニュアルの多くが、ビジネスの世界が「垂直的なヒエラルキー」から「水平的なネットワークモデル」へとシフトしつつあると指摘している。
メディアもネットワーク化されている。オンラインのブログをはじめとする参加型メディアは、読者のコメントによってネットワーク化された対話を形作っている。社会もネットワーク化されている。ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)の(ネット上のコミュニティサイト)「マイスペース」は、いまや大陸を越えて何億人もの人々を結びつけるグローバルな「アワースペース」と化している。宗教さえもがネットワーク化されている。事実、大きな影響力を持つことで知られるリック・ウォレン牧師は「心の空白、身勝手なリーダー、貧困、病気、無知といった問題を解決できるのは、世界に数百万ある教会間のネットワークだけだ」と述べている。
現在の世界では、他といかにつながっているかでパワーが左右される。
約30年前に男女による世界観の違いを説いた心理学者のキャロル・ギリガンは、男性は世界をパワーのヒエラルキーから成ると考え、そのトップに登り詰めようとし、女性は自分の人間関係(ネットワーク)のなかに世界を見いだし、その中心になろうとすると指摘した。ギリアンの見解は人間の本質というより、環境への適応力を示しているのかもしれない。だが、男女の世界観を説明するために彼女が引きあいに出した二つのレンズは、むしろ、20世紀と21世紀の世界の違いをうまくとらえている。
政治学者アーノルド・ウォルファーズの言葉を借りれば、20世紀の世界は、少なくとも地政学的には、「独立した国家どうしがビリアードの玉のように衝突しあう世界」だったし、そうした衝突の結果を左右するのが軍事力や経済力だった。現在もこの力学はなくなっていない。
ロシアはグルジアに侵攻し、イランは核兵器を手に入れようとしている。アメリカは台頭する中国に対する保険策としてインドとの関係を強化している。ニューズウィーク誌国際版のファリード・ザカリア編集長は、こうした世界を「ポスト・アメリカの世界」と呼んでいる。それは、グローバルな影響力を持つ国家が新たに台頭してくるにつれて、相対的にアメリカの影響力が低下していく世界のことだ。だが21世紀のネットワーク化した世界は国家の上にも下にも存在し、また国家と国家の間にも存在する。そのような世界で中心的プレーヤーとなり、グローバルなアジェンダを設定し、イノベーションと持続可能な成長の中核を担うのは、最大のネットワークをもつ国である。この点からみれば、アメリカは明らかに今後も優位を維持していけると考えられる。

この論文はSubscribers’ Onlyです。


フォーリン・アフェアーズリポート定期購読会員の方のみご覧いただけます。
会員の方は上記からログインしてください。 まだ会員でない方および購読期間が切れて3ヶ月以上経った方はこちらから購読をお申込みください。会員の方で購読期間が切れている方はこちらからご更新をお願いいたします。

なお、Subscribers' Onlyの論文は、クレジットカード決済後にご覧いただけます。リアルタイムでパスワードが発行されますので、論文データベースを直ちに閲覧いただけます。また、同一のアカウントで同時に複数の端末で閲覧することはできません。別の端末からログインがあった場合は、先にログインしていた端末では自動的にログアウトされます。

(C) Copyright 2009 by the Council on Foreign Relations, Inc., and Foreign Affairs, Japan

Page Top