アメリカの国益を再考する
――新しい世界とアメリカ特有のリアリズム
Rethinking the National Interest
2008年6月号掲載論文
アジア・太平洋地域でも民主化が進展するとともに、同盟関係のネットワークが拡大し、われわれが共有する目的が促進されている。多くの人が中国の台頭がアジアの将来を左右すると考えているが、同様に、アジアでしだいに広がりをみせている民主国家コミュニティーの台頭も将来を左右する重要な要因だし、ともすれば、後者のほうが中国の台頭以上に、今後を左右するファクターになるかもしれない。
われわれはオーストラリア、東南アジアの主要国、日本との強固で民主的な同盟関係を築き上げている。日本は、いまや普通の国家としても台頭しつつある経済大国で、アジア、そして広くアジアを超えてわれわれと共有する価値を守り、推進していく力を持っている。
……アジア・太平洋でのこうした展開は、われわれの価値と戦略利益にとって劇的なブレークスルーである。
- 「アメリカに特有なリアリズム」
- ロシア、中国、新興諸国との関係
- 価値を共有する諸国との責任分担
- 「民主的な開発モデル」とは何か
- 中東での課題――民主化かテロ対策か
- パキスタン、イラン、中東和平問題について
- 中東における選挙の功罪
- イラクを変貌させるには民主主義しかない
- アメリカのパワー基盤は健在だ
- 国益と理念のバランス
<「アメリカに特有なリアリズム」>
国益とは何か。2000年に私がフォーリン・アフェアーズ誌で発表した論文で取り上げたのがこのテーマだった。当時、われわれは「ポスト冷戦時代」にあると考えていたし、実際に、それが(いまだ冷戦の残像が漂う)時代の本質だった。われわれは「それまで」のことはよく理解していたが、「これから」に対して漠然たる不透明感を抱いていた。潮流の大きな変化が起きていたが、その意味合いがどのようなものかは判然としなかった。
そして、9・11が起きる。1941年の真珠湾攻撃のときと同様に、アメリカはこの事件を境にそれまでとは全く異なる世界へと引きずり込まれていく。何が脅威で、新しい機会は何かを判断することが切実に必要になり、新たなビジョンも求められていた。そして、過去に劇的な戦略環境の変化に直面したときと同様に、9・11以降のわれわれの外交政策にも継続性と変化という二つの側面が生じていく。・・・
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