1000 Words/shutterstock.com

アジアの安定と平和を維持するには
――多国間フォーラムと自由貿易構想の価値に目を向けよ

ビクター・D・チャ/前米国家安全保障会議アジア部長

Winning Asia

2007年11月号掲載論文

歴史的にみても、アメリカが中国を封じ込めようと日本との関係を強化したり、古くからの同盟諸国や小規模な地域国家に配慮せずに中国との関係強化を模索したりすると、アジアの秩序は常に緊張したものだ。だが今日の状況は、米中が協調関係にあり、日米同盟は堅固な基盤を共有し、日本と中国の関係も改善に向かっている。そこには、見事な勢力均衡が成立している。もちろん、北朝鮮問題が残されており、いかなる政権がワシントンに誕生しようと、核武装した北朝鮮との外交関係の正常化に応じたり、平和条約を結んだりすることはあり得ない。一方、平壌が本気で核を放棄するつもりなら、6者協議は2008年には核の解体という最終局面に進む。今後必要になるアジアの安全保障構造を形作るには、アメリカは、東南アジア諸国へのさらなる関与を行い、2国間関係を強化するとともに、北東アジアでの多国間安全保障フォーラムを構築し、相互に関連する2国間、3国間、多国間の制度ネットワークを形成しなければならない。

  • アジアをめぐる通説と真実 <部分公開>
  • 中国がすでにアジアのリーダーなのか?
  • 米中関係の安定こそ地域的な安定の要
  • 日本とのグローバルな同盟関係
  • ブッシュ政権は韓国を失ったのか
  • 北朝鮮問題の行方
  • アジアの新しい安全保障構造
  • 次期大統領とアジアの課題

<アジアをめぐる通説と真実>

最近では、アメリカの新聞の論説ページやワシントンの政策サークルで、アジアにおけるアメリカの影響力の低下を嘆く声を見聞きすることも多い。アジアにおけるパワーバランスの変化、ナショナリズムの台頭、ワシントンがとれる選択肢の乏しさを根拠に、いまやアジアにおけるアメリカのリーダーシップが形骸化しつつあると広く考えられている。

「ブッシュ政権は、イラク問題に気を取られるあまり、中国の政治・経済的台頭を前にしても適切な対応を怠り、対テロ戦争に血道を上げた結果、アジア人の多くがアメリカから距離を置くようになった」。批判派の多くはこう主張している。「冷戦後のアジアでアメリカがリーダーシップを発揮しなかったために、いまやこの地域はいつ紛争が起きてもおかしくない状態にある」という批判もある。

しかし、こうした通説は間違っている。逆に、アジアにおけるアメリカの立場はかつてなく強化されているし、アジアの平和が今後乱れることもない。アメリカは中国との間で、実務的で結果重視の協調的な関係を築き上げている。東京と北京が関係改善に努めるなか、日米同盟も拡大・強化されている。こうした一連の流れが、地域的な安定を高めるような日米中のパートナーシップを形成しつつある。ワシントンは韓国との同盟関係の仕切り直しを行い、6者協議を通じて北朝鮮の核開発能力の放棄に向けた流れもつくりだしている。さらに、2004年のインドネシア沖津波災害への人道支援をきっかけに、アメリカと東南アジア諸国の関係もしだいに改善しつつある。

だが、こうした成果をめぐって、安倍前政権、盧武鉉政権、ブッシュ政権を評価する評論家は日米韓のいずれの国にもほとんどいない。特に、ワシントンのブッシュ・バッシャー(ブッシュ政権たたきを行う人々)は、現政権の政策路線によって状況を先に進めることができたことを認めようとはしない。仮にアジアが好ましい状況にあるとしても、ブッシュ政権のネオ・コンサーバティブ勢力はイラクばかりに焦点をあて、アジアの現実に見て見ぬふりをしてきたのだから、それは偶然の産物だと決めつけている。だが、こうした認識は間違っている。ブッシュ大統領のアジア政策はうまく機能し、成果を上げている。

この論文はSubscribers’ Onlyです。


フォーリン・アフェアーズリポート定期購読会員の方のみご覧いただけます。
会員の方は上記からログインしてください。 まだ会員でない方および購読期間が切れて3ヶ月以上経った方はこちらから購読をお申込みください。会員の方で購読期間が切れている方はこちらからご更新をお願いいたします。

なお、Subscribers' Onlyの論文は、クレジットカード決済後にご覧いただけます。リアルタイムでパスワードが発行されますので、論文データベースを直ちに閲覧いただけます。また、同一のアカウントで同時に複数の端末で閲覧することはできません。別の端末からログインがあった場合は、先にログインしていた端末では自動的にログアウトされます。

(C) Copyright 2007 by the Council on Foreign Relations, Inc., and Foreign Affairs, Japan

Page Top