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核兵器を削減し、核不拡散を強化せよ
――軍事戦略の中枢に核兵器を据えることの誤り

ウォルフガング・K・H・パノフスキー /スタンフォード大学リニア・アクセラレーター研究所名誉所長(量子物理学)

Nuclear Insecurity

2007年10月号掲載論文

現状においてアメリカが核戦力を維持することの利益は、他国による核兵器の使用を抑止することだけである。したがって、アメリカの軍事戦略の中枢に核兵器を位置づける理由はもはや存在しない。一方で、アメリカが核の役割を大幅に低下させ、核兵器の削減にコミットし、核不拡散に向けた多国間構想を強化すべき理由は数多くある。この方向での取り組みをみせれば、アメリカが内外での核の削減に本気であることをアピールできる。こうした路線をとって初めて、アメリカの国家安全保障は強化されることになる。

  • 核兵器の役割を低下させよ
  • 抑止力はうまく機能したが…
  • 曖昧な戦略の弊害
  • 核で「味方を安心させ、敵を思いとどまらせ、抑止し、打倒する」戦略?
  • 核燃料の国際的管理と供給を
  • 核の削減と核不拡散努力を

<核兵器の役割を低下させよ>

ソビエトの崩壊以降、ワシントンの核戦略路線は危険で不適切な方向へと向かいつつある。2002年1月にアメリカの核姿勢をめぐる新路線を発表したブッシュ政権は、2006年にも、この新路線を再確認している。しかし、ブッシュ政権は、「21世紀の現実を踏まえた核戦略をとる」と宣言しておきながら、すでに存在しない脅威か、核兵器による対応など必要としない脅威を前提とした核戦略をとっており、この路線では、国を守るどころか、アメリカの安全保障が逆に脅かされるだけだ。
現在、核兵器が世界に突きつけている脅威は非常に大きい。だが、現在の脅威が、かつての核の脅威とは質的に違っていることを認識する必要がある。冷戦終結以降、核保有国クラブのメンバーが増えるにつれて、脅威は変化してきた。現下の脅威とは、不用意な核の使用、地域的な核戦争、核拡散、そして、テロリストが核を入手することだ。つまり、冷戦期と比べれば、アメリカにとって核の有用性は劇的に低下してきている。
ソビエトの後継国であるロシアはもはやアメリカの敵ではないし、他の追随を許さぬ通常戦力を持つアメリカは、ほぼすべての軍事目的を、核兵器を用いずとも達成できる。今日、核兵器に残された使命とは、抑止力の形成だけである。これらのすべてを考慮すると、アメリカが1万個近くの核弾頭を擁する核戦力を維持し、その多くが即応態勢に置かれ、外国への核配備も増やしているという現実は不合理としか言いようがない。ブッシュ政権が考えているように、新世代の核弾頭を開発・配備していけば、こうした危険はさらに増幅され、複雑化していく。
核兵器をいまさら存在しなかったことにはできないが、ジョージ・シュルツ、ヘンリー・キッシンジャーという二人の元国務長官、ウィリアム・ペリー元国防長官、サム・ナン元上院議員、そして、マーガレット・ベケット前英外相が最近指摘したように、アメリカの政策を変えれば、最終的な核廃絶に向けた流れをよりはっきりとしたものにすることができる。今日の世界にあっては、核兵器の存在がもたらす恩恵よりもリスクのほうがはるかに大きい以上、アメリカは国際関係における核兵器の役割を低下させていくための世界規模のキャンペーンを展開していく必要がある。

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