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経済成長と技術革新だけで、人は幸せになれるのか
―生活レベル、そして環境を改善するのは自由放任策か規制か

ジェームズ・スロウィッキー
ニューヨーカー誌記者

Better and Better: The Myth of InevitableProgressFacing Question on How to Handle Extremists

James Surowiecki ニューヨーカー誌記者。著書に“The Wisdom of Crowds”(邦訳『「みんなの意見」は案外正しい』角川書店)がある。

2007年9月号掲載論文

経済成長と技術革新だけで、人は幸せになれるのか。リバタリアン(自由意思論)の立場をとる人々はこれにイエスと答える。市場経済のなかで、国が豊かになって技術革新が進めば、市民は健康になってよりすぐれた教育を受け、よい食事をして長生きし、環境に関心を払うようになる、と。だが、これはいかにも、規制をつくる政府を市場の敵とみなすアメリカ人特有の見方ではないか。実際、規制による適切な動機づけがあれば、経済成長と技術革新は環境にプラスに作用するが、市場のロジックだけではそうしたインセンティブは生じない。アメリカにおける環境への配慮も、力強い経済に必須の産物ではなく、激しい政治論争で環境保護派がかろうじて勝利を収め、規制が導入された結果である。富をつくりだすメカニズムとしての市場経済の作用に疑いはないが、規制緩和を進めて自由化路線をとれば、状況を先へ進められるのかどうか、その因果関係は明快ではない。

  • 劇的な生活レベルの向上
  • 経済成長は環境保護を促すか
  • 自由放任と規制の間
  • グローバル化と市場経済は万能か
  • 新しい現状認識を

<劇的な生活レベルの向上>

「日を追うごとに、私はあらゆる面でどんどんよくなっている」。経済成長、そして人間と環境の進歩の関係を論じたインドゥル・ゴクラニの著書『世界の現状を改善していくには(The Improving State of the World)』を読み進むにつれて、19世紀の心理学者エミール・クーエが考え出したこのフレーズが、何度も私の脳裏をよぎった。「よくなっているという呪文を唱え続ければいつか本当によくなっていく」とクーエが患者たちに説いたように、ゴクラニも「いまの生活はこれまでで最高だ」とさまざまな形で自分に言い聞かせれば、本当にそうなる、と考えているようだ。

ゴクラニは、世界経済におけるすべての経済現象はよい兆しだと言う。サハラ砂漠以南のアフリカの悲惨な経済状況、旧ソビエト諸国での経済停滞など、否定しようのない問題さえも、「経済成長と技術革新が進めばいずれ解決する」と彼は言う。ゴクラニは膨大な歴史的データを引いて、20世紀がたどってきた軌道は全般的に前向きで進歩的だったと説明し、着実な進化と改善はいまに始まった現象ではないと指摘する。

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