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国家通貨時代の終わり
――ドル、ユーロ、アジア共通通貨の時代へ

ベン・ステイル/米外交問題評議会・国際経済担当ディレクター

The End of National Currency

Benn Steil 米外交問題評議会(CFR)の国際経済担当ディレクター。『金融の政治的手腕』の共著者。

2007年7月号掲載論文

この数十年間で、金融危機が非常に深刻な事態を伴うようになったのはなぜだろうか。途上国の通貨価値が下落しそうになると、対外債務の返済が困難になることを見越して、内外の現地通貨の保有者はこれを手放して出口へと殺到し、これが通貨危機を誘発する。だが、そうした危機に陥った通貨が「必要とされない通貨」であることに目を向ける必要がある。安全にグローバル化を進めていくには、各国政府は通貨ナショナリズムを捨て去り、市場の不安定化を引き起こす「必要とされない通貨」をなくしていく必要がある。一般に各国政府は自国通貨をドルやユーロに置き換えるべきだし、アジア諸国の場合は、広大な範囲におよぶ多様な経済発展レベルの地域を包み込めるような、単一の多国間通貨を創造するために協力していくべきだろう。

  • 通貨ナショナリズムとグローバル化の矛盾
  • 最適通貨圏理論をめぐる混乱
  • なぜ金融危機が誘発されるのか
  • ドル時代の終焉か
  • 金を預かり、通貨を提供する民間銀行
  • 信頼されている通貨を共有せよ

<通貨ナショナリズムとグローバル化の矛盾>

資本の自由な移動がグローバル化の進展を阻むアキレス腱となっている。事実、この25年間だけをみても、ラテンアメリカやアジアの国々だけでなく、ロシアやトルコなどの西ヨーロッパの周辺国も、資本の自由化に端を発する壊滅的な通貨危機に見舞われている。生粋のグローバル化支持派のエコノミストとして知られるフレデリック・ミシュキン米連邦準備制度理事会(FRB)理事でさえも、「金融市場を外国資本に開放したために壊滅的な金融危機が発生し、これが、人々に大きな苦痛と苦しみをもたらし、暴動まで誘発した国もある」と認めている。
経済学の専門家も、通貨危機に対して一貫性と説得力のある対応策を示せなかったし、国際通貨基金(IMF)の専門家も同様だった。この20年間にわたって、IMFの専門家は、通貨危機を回避しようと一連の為替レートや金融政策上の枠組みを認めてきたが、結局は失敗に終わっている。放漫財政、ずさんな銀行規制、憶測を誤った産業政策、官僚の腐敗など、多くのことが通貨危機を引き起こす原因としてやり玉にあげられてきた。しかし、通貨危機に関する分析で提言されている処方箋の多くは、うまく条件をつけてそれが有効であるかどうかの判断を難しくしているか、矛盾したものが多く、実際にはほとんど役に立たない代物ばかりだ。
グローバル化に反対するエコノミストは、通貨危機が起きると、危機に見舞われた政府を非難するのではなく、市場そして市場経済を推進するIMFなどの国際機関を批判しがちだ。例えば、ノーベル経済学賞を受賞したエコノミスト、ジョセフ・スティグリッツは、IMFのことを「国際金融上の独裁権力」とまでこきおろし、IMFは危機に見舞われた国に対して「自分たちが設定する特定の条件を受け入れなければ、資本市場やIMFが資金や融資を提供することはないと迫り、相手国が(金融政策その他の)政策主権の一部を放棄することを強制する」と書いている。
だが、彼の言い分は正しいだろうか。市場はうまく機能できないのか。剥ぎ取った主権を各国政府に返せば、金融システムは安定するのだろうか。いや、これは危険な誤診である。実際、資本の移動が通貨の不安定化を引き起こすようになったのは、有価値と広く認識されている金などの資産と自国通貨を切り離し(つまり、金本位制から離脱し)、各国政府が通貨に対する「主権」を主張し始めた後になってからだ。さらに言えば、世界経済と国際金融システムは、――たとえグローバル化の進展が必然ではないとしても――グローバル化の他にはもはや実行可能な経済発展のモデルがないという前提で動いている。
進むべき正しい道筋は、政府が自国の金利と為替レートを管理し、自国以外の世界を都合よく無視できる通貨主権という過去の神話に逆戻りすることではない。自国で使われる通貨をつくり、それを管理することが国家たる条件であるとみなす、ひどく間違った概念を捨て去る必要がある。
国の通貨(通貨ナショナリズム)とグローバル市場はたんに相いれないだけでなく、壊滅的な通貨危機を誘発して地政学的な緊張を引き起こし、有害な貿易保護主義を台頭させる格好の口実をつくりだしてしまう。安全にグローバル化を進めていくには、各国政府は通貨ナショナリズムを捨て去り、市場の不安定化を引き起こす「必要とされない通貨」をなくしていく必要がある。

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