中印の台頭と新・新世界秩序
The New New World Order
2007年4月号掲載論文
すでに中国とインドの台頭によって、国際政治秩序は多極化へとシフトしつつある。ここで多国間機構の改革を進めて、こうした新興大国のパワーを枠組み内にうまく取り込んでいかない限り、多国間レジームの今後はますます不確定要因で覆い尽くされるようになる。多国間機構が妥当性を失っているのは、力と権限の不均衡、つまり、各国のパワーの実態に即した意思決定に関する権限と影響力が機構内で認められていないからだ。いかなる反対があっても、台頭するパワーを反映できるように多国間機構の改革を進めなければならない。そうしない限り、新興大国は独自の道を歩み始め、アメリカの利益と正面から衝突するような多国間機構を立ち上げようとするかもしれず、そこでわれわれが直面するのは不快な未来にほかならない。
- 新しい世界と新しい秩序
- 冷戦終結で変化した世界
- 新興大国との協調
- 中印との関係強化
- 中国に経済力に応じた発言力を
- 機構改革に対する障害
- 衝突か協調か
<新しい世界と新しい秩序>
20世紀を通して、世界の大国と呼ばれる国の数は少なかった。大国のリストに名を連ねていたのはアメリカ、ソビエト、日本、そして、ヨーロッパ北西の国々に限られていた。だが21世紀に入って状況は一変し、中国とインドが重量級の経済大国、政治大国として台頭している。中国は1兆ドルもの外貨準備を保有し、インドのハイテク部門もめざましい成長を遂げている。ともに核を保有する両国は外洋展開型の海軍力も整備している。アメリカ政府のシンクタンクである米国家情報会議は、2025年までに中国とインドは、それぞれ世界で2番目と4番目の経済大国になると予測している。すでに中国とインドの台頭によって、国際政治秩序は多極化へとシフトしつつある。
こうした国際秩序の構造的な変化は、1940年代に誕生し、アメリカが主導してきた(国連その他の)グローバルな機構・制度にも大きな課題を突きつけている。これらの多国間レジームは貿易の自由化、資本市場の開放、核不拡散といった課題に取り組み、設立からほぼ60年にわたって世界の平和と繁栄に寄与し、公言されることはないとしても、アメリカの国益も促進してきた。しかし、中国とインドという台頭するパワーをこうした秩序にうまく取り込んでいかない限り、多国間レジームの今後はますます不確定要因で覆い尽くされることになる。
この6年間における多国間機構のパフォーマンスからみて、「ブッシュ政権は新興大国を国際的制度にうまく取り込むことに必ずしも成功していない」と多くの人は考えているかもしれない。たしかに、イラク戦争に象徴されるブッシュ政権の単独行動主義への傾斜は、アメリカ外交を批判する際の格好の材料とされてきた。しかしイラク戦争をめぐる論争ゆえに、ブッシュ政権の大戦略が持つ現実主義的で多国間主義的な側面が見えにくくなっているのも事実だ。
ブッシュ政権はその大戦略を通じて、アメリカの外交路線を世界のパワーバランスの変化に即したものへと変化させるとともに、多国間機構を改革していこうと試みた。まず、台頭するパワーに対処していくための政府予算を増額したうえで、核不拡散に始まり、通貨関係、環境問題にいたる一連の問題をめぐって、アメリカがつくり上げた秩序の中核的価値を新興大国に受け入れさせようと、国際通貨基金(IMF)から世界保健機関(WHO)にいたるさまざまな多国間機構における新興大国の影響力を強化しようと試みた。
しかし、こうした試みが対テロ戦争などハイポリティックス領域ではなく、おもにローポリティックス(非軍事)領域で展開されたために、専門家の多くはブッシュ外交のこうした現実主義、多国間主義的側面を見落としてしまったようだ。実際には、ジョージ・W・ブッシュは、「新・新世界秩序」を創造することで、父であるジョージ・H・W・ブッシュがその構築を試みた「新世界秩序」をいまによみがえらせていると言えよう。
あまり注目を集めることはなかったが、(新興大国を取り込めるような秩序を構築しようとする)ブッシュ政権の試みは誠実な意図に導かれていたし、うまく考案されていた。しかし、そのプロセスで二つの難題に遭遇した。その一つは、台頭途上にある諸国の多国間機構での権限を強化しようとすれば、衰退途上にある国の権限の一部を奪い取ることになることだった。当然、(権限の一部を奪われることになりかねない)欧州連合(EU)のメンバー国は、アメリカの戦略に否定的だった。たしかに、EUは新興大国との関係を独自に強化してきたし、アメリカの単独行動主義を牽制するために、新興大国との協調路線を模索したこともある。しかし、ヨーロッパ諸国は、多国間機構で自分たちが手にしている不相応に大きな影響力の一部を譲ることをかたくなに拒んできた。
次にブッシュ政権は自らつくりだした問題に遭遇した。それは、アメリカの単独行動主義という悪評にほかならない。この数年来、「ワシントンはさまざまなグローバル統治構造を損なうような行動をとっている」と広く考えられてきた。このため、ブッシュ政権によるグローバルなゲームルールを書き換えようとするいかなる試みも、「国際法の制約から逃れようとするワシントンのさらなる策謀」としかみなされなかった。アルゼンチン、ナイジェリア、パキスタンなど、新興大国に不信感を持つ諸国も、インドや中国を大国間の協調システムに取り込もうとするワシントンの試みに横やりを入れた。
こうした障害があるとはいえ、新興大国を国際的な機構・制度に取り込む努力をさらに強化していくのはアメリカの国益からみても理にかなっている。世界における反米主義の高まりは、一方で非同盟諸国などの、伝統的にアメリカに敵対的な諸国の団結を促しており、これらの諸国が抱く猜疑心を払拭するためにも、アメリカは大きな譲歩をする準備をしておくべきだろう。何よりも、中国とインドが既存の国際システムはどうにも居心地が悪いと考えれば、アメリカを除外した新しい秩序をつくろうとするかもしれないことを強く認識する必要がある。
この論文はSubscribers’ Onlyです。
フォーリン・アフェアーズリポート定期購読会員の方のみご覧いただけます。
会員の方は上記からログインしてください。 まだ会員でない方および購読期間が切れて3ヶ月以上経った方はこちらから購読をお申込みください。会員の方で購読期間が切れている方はこちらからご更新をお願いいたします。
なお、Subscribers' Onlyの論文は、クレジットカード決済後にご覧いただけます。リアルタイムでパスワードが発行されますので、論文データベースを直ちに閲覧いただけます。また、同一のアカウントで同時に複数の端末で閲覧することはできません。別の端末からログインがあった場合は、先にログインしていた端末では自動的にログアウトされます。
(C) Copyright 2007 by the Council on Foreign Relations, Inc., and Foreign Affairs, Japan