Classic Selection 2007
グローバル化する大学
College Goes Global
2007年4月号掲載論文
ボーイングやIBM、インテル、マイクロソフトがそれぞれの産業で世界市場を席巻してきたように、高等教育の分野でも、一握りのグローバルプレーヤー、つまり教育分野における圧倒的強者が現れ、市場を制するようになり、21世紀は、「グローバル大学」の時代になるのだろうか。世界の学界から選りすぐりの教授陣と学生を集め、インターネットでつなぐ巨大研究教育機関としてのグローバル大学が出現するのか。しかし、「中国には20年前から、イタリアには50年以上も前から分校を持つアメリカの大学の学長である私に言わせれば、国際的な教育市場においてアメリカの圧倒的優位を不動のものにするのは、それほど簡単でもなければ、現実味があるわけでもない」。
- アメリカの大学がグローバル市場を席巻する? <一部公開>
- 世界に通用する専門家
- 曖昧化する教授と大学の関係
- メガバーシティは誕生するか
- 大学もグローバル化の波から逃れられない
<アメリカの大学がグローバル市場を席巻する? >
2006年6月に中国河南省新鄭市にある昇達経貿管理学院の学生たちが起こしたデモは、天安門事件へとつながった1989年の大規模な民主化デモ以来、もっとも激しい破壊と暴力を伴う抗議行動と化した。このデモを前に大学は警察の出動を要請したが、結局、大学は閉鎖され、後に学長は辞任に追い込まれた。卒業証書に昇達経貿管理学院の名前が記され、当初学校側が約束していたとされる系列の有名大学、鄭州大学の名前が記されていなかったことが学生たちがデモを起こした原因だった。鄭州大学の5倍もの授業料を納めていた学生たちは、学校側にだまされたと憤り、「有名大学の卒業証書がなければ、これからの中国経済で働き口を見つけられない」と思い悩んでいる。
学生が異例の理由から起こしたこの抗議行動から、今日のグローバル市場における高等教育の役割について多くのことが見えてくる。一つは、グローバル化した21世紀型の知識経済では、大学の学位が必要不可欠なパスポートとみなされていることだ。かつて、高等教育はエリートの条件だったが、いまではほとんどの国が、大学教育のことを、経済成長を軌道に乗せ、統御し、促すために必要不可欠な戦略ツールとみなしている。もちろん、今回の抗議行動によって、同じ学位でも、一流大学の学位は、平凡な大学の学位とは比較にならないほどの価値がある、つまり、能力よりも、大学の知名度が大切と学生たちが考えていることも明らかになった。
こうしたエピソードを前に、アメリカの大学の将来は明るいと考える人々もいるだろう。戦後以降、アメリカは高等教育の分野で世界をリードしてきた。大学の数や学生数、高等教育や研究への支出額のどれをみても、アメリカの右に出る国はなく、アメリカへやってくる留学生の数は毎年50万人を超える。上海交通大学が、教授陣の質や研究の成果を基にまとめている、論文引用度の高い世界の大学ランキングによると、世界における大学の上位100校のうち半数以上、そして上位20校のうち実に17校がアメリカの大学だ。
高等教育市場もグローバル化へ向けて機が熟したようにも思える。アメリカの大学がこれまでに達成した成果や圧倒的な評価、規模、資金面での優位を考えれば、ボーイングやIBM、インテル、マイクロソフトがそれぞれの産業で世界市場を席巻してきたように、アメリカの大学が世界市場を制することになると考える人もいるだろう。しかし、中国には20年前から、イタリアには50年以上も前から分校を持つアメリカの大学の学長である私に言わせれば、国際的な教育市場においてアメリカの圧倒的優位を確かなものにするのは、それほど簡単でもなければ、現実味があるわけでもない。
グローバルな高等教育市場が進化していることと、アメリカが高等教育において大きな役割を果たしていることが、アメリカ自身にもその他の国々にも、ますます大きな意味合いを持ち始めているのは事実だろう。アメリカの高等教育機関、特に、世界に名高いアメリカの私立、公立の研究大学は、この環境の変化にどう適応していけばよいのだろうか。他の数多くの産業でもみられたように、高等教育の分野でも、一握りのグローバルプレーヤー、つまり教育分野における圧倒的強者が現れ、市場を制して、21世紀は「グローバル大学」の時代になるのだろうか。・・・
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