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他国を占領することの現実
――アレン・ダレスが語る戦後ドイツの実像

アレン・W・ダレス 前米戦略情報局ヨーロッパ局長

Flashback: "The Present Situation in Germany"

Allen W. Dulles

2003年12月号掲載論文

  • 現下のドイツ情勢について
  •   優れた人材は政治的に汚れている?
  •   なぜ占領がうまくいかないのか
  •   どうすればよいのか

<ドイツ占領をめぐるアレン・ダレス報告について>

イラクの再建を考えるとき、多くの人は第二次世界大戦後の日独の戦後復興の歴史に洞察を求めるかもしれない。イラク占領と日独占領の似た部分に注目し、ブッシュ政権の現在の試みの先行きもそう暗くはないと論じる楽観論者もいれば、その違いに注目し、全く逆の結論を唱える悲観論者もいる。実際には、似ている部分も、違っている部分もある。歴史が繰り返すことはあり得ない。だがその律動が似ていることもある。少なくとも、「戦後数カ月たった段階で、まだ先がみえていない」という点では三つの戦後の事例には共通点がある。

瓦礫のなかにある日独の今後を手探りで模索していた終戦直後のトルーマン政権の高官たちが、日独の占領という自分たちの実験がどのような結末を迎えるのか確信が持てずにいたように、ワシントンとバグダッドのアメリカ人官僚もいま同じ思いを抱いている。日独の占領時代、アメリカは、切実な問題、急激な展開をみせる事態に対処しつつも、長期的な大ビジョンを忘れずに、可能な限り先へ先へと手探りで前進していくしかなかった。日独の占領がどのような結果に至ったかを知るわれわれは、とかく「後知恵」で物をみようとする。多くの人は、大きな不確実性のなかにあった当時の専門家たちの判断を、歴史を決定づけた一瞬とみなすことはあっても、現時点での論争の指標にしようとはしない。とすれば、対独勝利から七カ月後のドイツ占領の現実を描写した報告をいまよみがえらせることは有益であろう。

第二次世界大戦期、アレン・W・ダレスは米戦略情報局(OSS)のヨーロッパ局長としてベルンに駐在していた。その後、OSSは一九五三年に新設される米中央情報局(CIA)として進化し、ダレスは五三~六一年までCIAの初代長官を務めることになる。戦時中ドイツ人の反ナチス勢力と接触していたダレスは、戦後の対独占領についてもつぶさに検証できる立場にあった。

OSSが四五年九月に解体されると、彼は民間人としての生活に戻ることを決意する。あと一週間もすれば公職から離れる四五年十二月三日、ダレスは米外交問題評議会のオフレコのミーティングで、戦後ドイツの情勢について真正面からの単刀直入な報告を行った。このミーティングが開かれた当時の米ソは、瓦礫の山と化したヨーロッパ情勢をまだ注意深く見守っていた。その後「冷戦」として知られることになる対立関係にはまだ陥っていなかった。占領地域は区分されていたが、ドイツはまだ一つの国だった。ジョージ・ケナンの「長文の電報」も、ウィンストン・チャーチルの「鉄のカーテン」演説もまだ数カ月先の出来事だった。(共産主義への普遍的な対抗姿勢を打ち出した)トルーマン・ドクトリンの発表、マーシャル・プラン(欧州復興計画)の実施、北大西洋条約機構(NATO)の設立もまだ数年先の話だった。ワシントンはドイツを自立させようと試みつつも、米軍の武装解除を進め、アメリカの国内問題に専念しようとしていた。戦後ヨーロッパへのアメリカのコミットメントが、その後どのような事態にいたるかを予見しているアメリカ人はほとんどいなかった。多くの人は、戦争が終わり、兵士たちが故郷に帰ってくることを望んでいたのだ。

外交問題評議会文書の管理ルールでは、当人が生存している場合にはその同意を取りつけることを条件に、二十五年を過ぎた文書は一般閲覧に開放することになっている。アレン・ダレス文書についてはすでに解禁されている。だがこの文書が、世論における議論啓発のために出版されるのは今回が初めてである。

(フォーリン・アフェアーズ編集部)

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