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景気循環の波は消滅した?

ポール・クルーグマン マサチューセッツ工科大学経済学教授

Seeking the Rule of the Waves

Paul Krugman 九四年に「フォーリン・アフェアーズ」で「幻のアジア経済」(「中央公論」一九九四年五月号)、さらに、「競争力という名の危険な妄想」(「中央公論」一九九五年一月号)という世界的な話題を呼んだ二大論文を発表した米国の気鋭のエコノミストで、その細密なマクロ経済分析と歯に衣着せぬ発言で有名。(この二大論文は、それぞれ、『日米はなぜ対立するのか』(中央公論社、一九九五年)『アジア 成功への課題』(中央公論社、一九九五年)に収録)。スタンフォード大学教授を経て、最近、古巣のチューセッツ工科大学に復帰した。

1997年8月号掲載論文

六年間にわたって成長が安定的に続き、インフレも驚くほどおとなしく推移してきた事実、さらには、歴史的文脈から今後の景気循環の安定的推移を予測するフッシャーの今回の著作に勇気づけられたのか、米国の新聞・雑誌はあっさりと「景気循環のサイクルは消滅し、一九九〇~九一年のリセッションを最後にこの先当面の間不況はやってこないだろう」と指摘し、ビジネスマンも、われわれはすでに安定を常態とする「約束の地」にたどり着いた、と考えはじめている。だがこうした考えは歴史の教訓をまったく無視している。かつて多くのリセッションを引き起こした諸力が弱まってきているのは事実だが、今後私たちがこれまでに出会ったことのない新たな問題や力学に遭遇するのは自明だからだ。「問題が新しい性格のものである以上、これをうまくいなすことはできず、かくして、景気循環は続く」のである。「遠大な過去の歴史パターンの解釈を、最近の歴史的教訓を無視するための口実として利用する」のは明らかに間違ってる。

  • もう不況はやってこない?
  • 景気変動の歴史と理論
  • 技術改良と生活水準
  • 「かくして景気循環は続く」

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