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南米に関する論文

世界大国への道を歩み始めたブラジル

2008年12月号

フアン・デ・オニス ジャーナリスト

かつては「コーヒー大国」としてしか認知されていなかったブラジルも、いまや石油資源の開発ブームに沸き返り、農業生産性を飛躍的に向上させ、バイオ燃料生産でも世界の先端をいく国に成長した。インフレも低く抑え込まれ、市場経済型の施策に徹し、資本市場を整備したことで、世界から巨額の資金が流入している。国内の貧困と社会格差の問題にも対応策がとられ、いまやブラジルの人々は、「経済の地平線が国境を越えて広がった」という感覚を広く共有している。事実、ブラジルの国内総生産(GDP)の規模は1兆5800億ドルと世界10位にまで拡大した。過去の過ちを繰り返さないためには、未解決の問題への新たな処方箋をみつけていかなければならない。安定と成長を今後も維持していくことが前提になるが、今後、腐敗・汚職の横行、税制改革および労働市場改革の停滞、低い貯蓄率、効率に欠ける公教育制度、高度なスキルを持つ労働者不足という一連の問題をうまく克服していけば、長い間さほど重要な国とみられていなかったブラジルも、ついに「グローバル・プレイヤー」としての地位を手に入れることができるだろう。

石油の富と呪縛
 ――なぜ資源保有国は貧困から抜け出せないのか

2008年5月号

マイケル・L・ロス カリフォルニア大学政治学部准教授

途上世界の資源保有国のほとんどは貧しく、非民主的だし、まともな統治体制を持っていない。そこに石油資源からの富が流れ込めば、往々にして紛争が誘発されるか、すでに起きている紛争を長期化させ、資源がもたらす富が建設的投資にまわされることはなく、結果的に貧困が続く。
 史上例のない原油価格の高騰は、棚ぼたの経済利益を資源保有国にもたらし、これが逆に紛争を助長してしまう危険がある。必要なのは、こうした資源国に輸出の対価として政治腐敗と紛争を助長するキャッシュを与えるのではなく、インフラ整備や社会サービスなどを提供し、成長の基盤を整えることではないか。

チャベス革命の虚構
――無謀な理想主義者の挫折

2008年5月号

フランシスコ・ロドリゲス/元ベネズエラ国民議会チーフエコノミスト

「貧困層に優しいチャベス」という仮説は、事実からかけ離れている。石油高騰からの経済ブームの恩恵を貧困層に再分配するという点で、チャベス政権が過去のベネズエラの政権と異なる措置をとってきたことを示す証拠は、驚くほど少ない。実際には、「チャベスの経済モデル」に画期的なところは何もない。多くのラテンアメリカ諸国が1970年代から1980年代にかけて経験したのと同じ、破滅的な道のりをたどっているだけだ。チャベス政権がその貧困対策の偽りの「成果」をうまくアピールできた最大の理由は、おそらく先進国の知識人や政治家が、ラテンアメリカの開発問題は、金持ちで特権的なエリート層による貧しい大衆の搾取にあるというストーリーを安易に信じ込んでいたためだ。19世紀ならともかく、この見方を現状判断の枠組みにするのは間違っている。

Classic Selection
カストロ後のキューバ

2008年2月号

ジュリア・E・スウェイグ 米外交問題評議会ラテンアメリカ担当シニア・フェロー

ポスト・カストロ体制の権力移行はすでにかなり進行している。いまや実権を握っているのは弟ラウルと6人の側近たちで、彼らはカストロがつくり上げた体制を維持することを最優先課題に据え、カストロの路線に従って、新政府を安定させ、日々の問題に対応し、キューバ独自の改革モデルを構築し、ラテンアメリカと国際社会における地位を維持し、予想されるアメリカの政策をうまくかわして管理しようと試みている。
 しかし、すでにキューバが新たな時代へと足を踏み入れているというのに、ワシントンは、依然として民主化を求める体制変革路線を維持している。必要なのはキューバへの内政干渉を完全にやめて、2国間の危機管理と信頼醸成措置の導入を提案し、制裁を解除し、亡命キューバ人の路線と決別し、カストロ後のキューバに自分たちの道を選ぶ余地を与えることではないか。

(Classic Selection とは、現在の情勢を理解するうえで有益と思われる過去の掲載論文の再録です。本文の内容、及び著者の肩書きは掲載当時のものです)

自由に基づく恒久平和を
――民主国家の連帯を軸とするパートナーシップを

2007年12月号

ジョン・マケイン/米共和党予備選大統領候補

アメリカは冷戦期に西側を団結させた民主国家の連帯を復活させなければならない。アメリカだけで、自由に基づく恒久平和を実現することはできない。民主的な同盟国の意見に耳を傾けなければならない。……民主国家を「民主国家連盟」という一つの機構のもとに連帯させ、立場を共有する諸国が平和と自由のために協力するこの連盟が、国連がうまく対応できないような案件に対処していくようにする。私が大統領になれば就任1年目に、世界の民主国家の指導者とのサミットを開き、指導者たちとの意見交換をし、このビジョンを実現するために必要な措置を模索していく。(この文脈において)G8を……市場経済と民主主義を実践する主要国だけのクラブにする必要があり、ロシアを排除して、新たにブラジルとインドを参加させるべきだ。……一方、大統領として私は、オーストラリア、インド、日本、アメリカによるアジア太平洋地域の主要な民主国家による4国間安全保障パートナーシップの制度化を模索していく。……私は、日本が国際的なパワーになることを歓迎するし、見事なビジョンである「価値外交」を支援するとともに、日本が願っている国連安保理の常任理事国入りも支持する。

ラテンアメリカの左旋回
――正しい左派と間違った左派を区別せよ

2006年7月

ホルヘ・G・カスタニェーダ/ 元メキシコ外相

ラテンアメリカ全域で左派勢力が台頭し、市場経済に向けた改革路線、議会制民主主義に対する激しい逆風が吹きはじめている。しかし、そこに正しい左派と間違った左派が存在することを認識する必要がある。旧共産・社会主義系左派は、自らの失敗と昔のモデルの欠陥を認め、態勢を立て直すことに成功し、ラテンアメリカのよい統治に必要なものを提供する資質を持っている。一方、資源を国有化してカネをばらまき、でたらめな経済路線をとり、ナショナリズムを鼓舞して権力を奪い取ろうとする左派ポピュリストは、全く変化していない。チャベスに代表される左派ポピュリストにとって、貧しい選挙区の絶望は政治が取り組むべき課題ではなく政治の道具にすぎない。最大の問題は、左派ポピュリストが民主主義よりも権力を愛し、権力を維持するためなら大きな犠牲を払ってもかまわないと考えていることだ。

ウゴ・チャベスとは何者だったか
(2006年6月発表)

2006年6月号

マイケル・シフター
米大陸対話フォーラム政策担当副会長

ラテンアメリカにおけるウゴ・チャベスの影響力は「ベネズエラ、そしてラテンアメリカのアジェンダ(課題)が何であるかをうまく特定して定義する能力」に根ざしている。社会格差、お粗末な状況にある教育や医療制度など、ラテンアメリカ地域の社会的病巣を彼がうまく、しかも正当な形で表現するからこそ、チャベスは人々への大きな訴求力を持っている。この地域の社会的病巣に関する彼の診断は正しいし、彼の意図は誠実なものかもしれない。しかし、彼が示している処方箋は、まやかしである。実際、チャベスは、石油の富を場当たり的に、あるいは政治的思惑でばらまくだけで、社会問題に長期的に対処するモデルをうまく考案できていないし、彼の政策は失望を禁じ得ないほどに小さな成果しか上げていない。必要なのは、この社会問題を建設的に解決していける、より適切な処方箋を示すことではないか。

同時多発的な石油供給の混乱に備えよ  
――ベネズエラ石油危機の教訓

2004年10月号

ミシェル・ビリッグ/前米外交問題評議会国際関係フェロー

サウジアラビアの石油輸送の拠点が攻撃され、イラクの武装蜂起がさらに激化し、ナイジェリアで民族浄化が起き、旧ソビエトのチェチェン人分離勢力が破壊工作活動を行い、ベネズエラが禁輸策をとれば、世界の石油の供給はどうなるだろうか。非常事態に備えた、多層的な供給ラインの整備が必要である。

金融危機のさらなる教訓
――アルゼンチンのケースから

2002年4月号

マーティン・フェルドシュタイン ハーバード大学教授

アルゼンチンでの金融危機の教訓は3つある。固定為替レートは、通貨の過大評価、通貨危機、債務不履行を引き起こしかねず、変動為替レートこそがこれらの問題を避ける唯一の方法だということ。第2に、ドル建ての借り入れが非常に危険だということ。そして第3に、貿易自由化、外国からの直接投資の奨励、国営企業の民営化策が好ましい政策であるということだ。

グローバル経済の格差をなくすには

2002年2月号

ブルース・R・スコット ハーバード大学ビジネス・スクール教授

現在のグローバル経済では、勝ち組と負け組が必然的に出てくるし、1日1ドル足らずしか稼げない人々が世界にはほぼ10億人もおり、世界的な所得格差はますます拡大している。しかも、これを市場メカニズムで是正していくのは不可能である。問題の核心は、富裕国が移民と農産品輸入に対する障壁を設け、 一方で、発展途上世界の多くの政府が無能で効率性を欠いているために、外国資本を呼び込めずにいることだ。経済発展のためには制度の改革が必要であり、そのためには政治的・社会的近代化も必要になってくる。制度的不備こそが発展途上諸国の経済発展を妨げている大きな障害であり、外部からの助言や援助も制度面での整備に配慮したものとする必要がある。

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