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南米に関する論文

自由貿易協定、20年後の現実 ―― NAFTAとメキシコ

2014年2月号

ホルヘ・G・カスタニェーダ 元メキシコ外相

NAFTA(北米自由貿易協定)が発効してから20年後の現在、おそらくあらゆる人が唯一同意できるのは、「あらゆる議論・主張が誇張されていたこと」だろう。貿易合意としては、NAFTAはメキシコにとって否定しようのないサクセスストーリーであり、輸出の劇的な増大をもたらすきっかけとなった。しかし、NAFTAの目的が経済成長を刺激し、雇用を創出し、生産性を改善し、所得水準を引き上げ、移民流出を減らすことだったとすればどうだろうか。判断は分かれるはずだ。一人当たりGDPもこの20年で2倍になった程度で、年平均成長率でみれば1・2%にすぎない。この時期にNAFTAに参加していないブラジル、チリ、コロンビア、ペルー、ウルグアイは、メキシコよりもはるかに高い一人当たりGDPの成長を実現している。しかし、だからといって、NAFTAは失敗だったと決めつけることもできない。むしろ、メキシコは、エネルギー、移民、インフラ、教育、安全保障など、1994年の交渉テーブルに置き去りにしてきたアジェンダに今後取り組んでいくべきだろう。NAFTAは失望を禁じ得ない結果しか残せていないが、メキシコは、さらなるNAFTA的な路線、つまり、地域的経済統合路線を必要としている。

最近、ウィキペディアは、ブラジルのリオデジャネイロの3人の研究者が開発したプログラミング言語「ルア」をシステムとして採用した。IT技術を支える「エコシステム」を国内にもたない途上国発のIT言語が、ウィキペディアという世界的組織に採用されたのは画期的な展開だが、そこにいたる道程をみると、途上国の技術者が直面する障害が浮かび上がってくる。途上国の技術者が世界で成功するには、技術開発と市場化の「エコシステム」をもたない国内から巣立ち、まず世界で成功を収める必要がある。外国に出るのは危険な坂道に足を踏み入れるようなもので、不利な場所に住み、不利な言語を使い、不利な制度のなかで開発を続けなければならない。それでも、彼らは外国に目を向け、世界中で使われている同じテクノロジーを用いて問題を解決しようとした。そうするしか成功する方法はなかったからだ。・・・

BRICsの黄昏
―― なぜ新興国ブームは終わりつつあるのか

2012年12月号

ルチール・シャルマ
モルガン・スタンレー・インベストメント・マネジメント
新興市場・グローバルマクロ担当ディレクター

これまで「途上国経済は先進国の経済レベルに近づきつつある」と考えられてきた。この現象と概念を支える主要なプレイヤーがBRICsとして知られるブラジル、ロシア、インド、中国という新興国の経済的台頭だった。だが、途上国と先進国の間で広範なコンバージェンスが起きているという認識は幻想にすぎなかった。新興国台頭の予測は、90年代半ば以降の新興国の高い成長率をそのまま将来に直線的に当てはめ、これを、アメリカその他の先進国の低成長予測と対比させることで導き出されていた。いまや新興国の経済ブームは終わり、BRICs経済は迷走している。「その他」は今後も台頭を続けることになるかもしれないが、多くの専門家が予想するよりもゆっくりとした、国毎にばらつきの多い成長になるだろう。

マフィア国家の台頭
―― 融合する政府と犯罪組織

2012年7月号

モイセス・ナイーム
カーネギー国際平和財団
シニアアソシエート

もっとも多くの利益をもたらす違法行為に手を染めているのは、犯罪のプロだけではない。いまや政府高官、政治家、情報機関や警察のトップ、軍人、そして極端なケースでは国家元首やその家族たちも違法活動に関わっている。世界各地で、犯罪者がこれまでにないレベルで政府に食い込み始める一方で、パワフルな犯罪組織を取り締まるどころか、政府が犯罪組織に代わって違法活動を行っている国もある。こうして犯罪組織と政府が融合した「マフィア国家」が誕生している。実際、ブルガリア、ギニアビサウ、モンテネグロ、ミャンマー(ビルマ)、ウクライナ、ベネズエラなどでは、国益と犯罪組織の利益が結びついてしまっている。犯罪組織が最初に狙うのは、腐敗した政治システムだ。中国とロシアは言うまでもなく、アフリカや東ヨーロッパ、そしてラテンアメリカ諸国の犯罪者たちは、従来の犯罪組織では考えられなかったような政治的影響力を手にしている。もちろん、政府そのものが犯罪行為を行う北朝鮮のような国もある。

「ブラジル経済の奇跡」の終わり
―― 社会保障か経済成長か

2012年6月号

ルチール・シャルマ モルガン・スタンレー投資管理 マネージングディレクター

ブラジル経済の成長軌道は、国内の石油、銅、鉄鉱石など、市場の資源需要の拡大軌道とほぼ重なりあっている。問題は、中国経済の減速によって、これらの原材料に対する世界需要が減少し始めていることだ。新興市場諸国が簡単に成長できた時代、原材料価格の高騰が支えた経済成長の時代、そして社会保障を優先してもブラジルがかろうじて4%の成長を実現できた時代は終わろうとしている。経済の停滞を回避するために、リスクをとり、経済を開放し、社会的安定と経済拡大のバランスをとる方法をブラジルが見つけださない限り、未来は切り開けない。改革に失敗し、原材料輸出主導路線に固執すれば、いずれ、ブラジルの経済成長も社会的安定も損なわれていく。

ハイチの悲惨な現実

2011年2月号

ローリー・ギャレット 米外交問題評議会グローバルヘルス担当シニア・フェロー

2010年1月に大地震に見舞われたハイチの復旧・再建活動はうまく進展していない。地震で家をなくした人は、いまもそのままだし、ほとんどの政府施設やインフラも依然として再建されていない。しかも、2010年10月にはコレラが発生して猛威を振るいだし、いまも感染を広げ、犠牲者が増えている。クリスマス以降、犠牲者数は1日平均100人に達し、2011年1月1日までの犠牲者総数は3651人に達している。最大の問題は清潔な飲料水を提供するインフラが存在しないことだ。いまや水田に入ればコレラに感染するのではないかと恐れて、農家が稲を水田に植えることさえ嫌がるようになった。ハイチが必要としているのはインフラと統治だが、それが短期的に満たされる可能性は低い。

なぜハイチは瓦礫に埋もれたままなのか
―― 巨大地震からの復興を阻む
統治の空白

2011年10月号

ポール・コリアー / オックスフォード大学教授

2010年、地震後のハイチが直面した切実な課題は、100億ドルの援助をどうすれば社会を変貌させる復興と再建にうまく生かせるかという点にあった。「かつてよりもよい状態へ再建する」。これが復興のキャッチフレーズにされた。その任務は気も萎えんばかりに大きかったが、特に複雑なことではなかった。人々をより地震の影響を受けにくいところで生活させ、この地域で雇用を創出し、社会サービスを提供する。これが基本だった。だが問題は、慢性的な社会的機能不全という環境で地震という急性の危機が起きたことだ。慢性症状が急性症状をさらに深刻にし、緊急事態への対応を難しくしている。急性症状を治すには、まず慢性疾患を治さなければならないという、非常に難しい状況にハイチは追い込まれている。

災害と政治

2011年4月号

アラステイアー・スミス ニューヨーク大学教授
アレジャンドロ・クイロズ・フローレス ニューヨーク大学政治学助教授

40年前、マグニチュード7・9の地震によってペルーでは6万6000人が犠牲になった。2001年にペルーはさらに大きな地震に見舞われたが、このときの犠牲者は150人未満だった。最初の地震の震源地の人口密度が2度目に地震が起きたときのそれの半分程度だったのは事実だが、それだけでは、これほど大きな犠牲者の違いを説明できない。・・・大きく違っていたのは政治の質だ。2001年のペルーは民主国家だったが、1970年当時は、そうではなかった。・・・民主国家の政治指導者が権力を維持していくには、市民の大多数の信任を得なければならない。そのためには、建築基準を徹底し、官僚制度を有能な行政官に指揮させることで、天災の被害から市民を守らなければならない。政府がこの点での備えを怠り、多くの人が犠牲になれば、政治家は職を失う。

大国ブラジルのアジェンダ

2011年3月号

ジュリア・E・スウェイグ
米外交問題評議会(CFR)
中南米担当シニア・フェロー

流血の惨事を起こすことも他国を侵略することもなく、ブラジルは多民族・多人種の民主国家を作り上げ、力強い市場経済を定着させた。何百万人もの貧困層を中産階級層に引き上げることにも成功した。いまや、ブラジルは大国の仲間入りをし、大国として振る舞う資格があると考えている。すでに、国連安全保障理事会の常任理事国入りを希望すると表明し、途上国の連帯を組織し、最近も世界銀行や国際通貨基金(IMF)における議決権拡大を模索している。だが、ルセフ新大統領にとっての最大の課題とは、国際的な地位の確立を模索していくことと、格差の是正、教育の強化、犯罪の撲滅などの野心的な国内アジェンダへの取り組みとのバランスをどのようにとっていくかにある。

新興国という無責任な利害共有者 ―― 時代は「協調なき、多極化」へ

2010年12月号

スチュワート・パトリック / 米外交問題評議会シニア・フェロー

アメリカのパワーが衰退していくにつれて、台頭する新興国は既存の制度を試し、弱め、改革して自分たちの目的に合致するように作り替えようと試み始めている。既存の大国と新興大国の間だけでなく、新興大国どうしの戦略的ライバル関係も高まりをみせている。各国が演じているゲームは一つではない。金融改革や対テロでは協調するかもしれないが、市場シェア、戦略資源、政治的影響力、軍事的優位をめぐっては競いあっている。問題は、アメリカを含む先進国が、パートナー、そしてライバルとしての二つの顔を持ち、国際社会での発言権を強化したいと望みながら、一方では自国を途上国と定義する新興諸国との関係をどのように管理していくかだ。新しい国家を制度に取り込む一方で、可能な限り、これまでの秩序を維持していくには、2世紀前のヨーロッパの大国間協調がそうだったように、常に綱渡りをしているような細かな配慮が必要になる。

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