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ロシアに関する論文

ウクライナと核戦争リスク
―― 三つのシナリオ

2022年10月号

ジョン・J・ミアシャイマー シカゴ大学教授(政治学)

専門家の多くは、交渉によるウクライナ戦争の解決は当面実現しないと考え、血塗られた膠着状態が続くと予測している。この認識は正しいが、すでに長期化している戦争に破滅的なエスカレーションメカニズムが埋め込まれていることが過小評価されている。ニューヨーク・タイムズ紙が報じたように、すでにワシントンは戦争に深く関わっており、米軍の兵士が引き金を引き、パイロットがボタンを押すまで、あと一歩のところまで来ている。米軍が介入した場合、プーチンを核使用に走らせることなく、ウクライナを救えるのか。ロシアがウクライナ軍にひどく追い込まれた場合には、モスクワが核を使用する恐れはないか。エスカレーションの先にあるものは、第二次世界大戦を超える犠牲と破壊という、まさに壊滅的な事態かもしれない。

プーチンとロシアの未来
―― ソビエト崩壊の教訓

2022年9月号

ウラジスラフ・ズボク ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス 教授(国際史)

ソビエト崩壊の代替シナリオは存在しなかったと考えるのは決定論者だけだろう。実際には、ソビエト帝国は、その解体後もルーブル経済圏として何年も存続し続けた。ソビエト同様に、弱体化したロシアが崩壊すると欧米が予測するのも決定論にすぎない。もちろん、欧米が本気でプーチンを止めたいのなら、とにかく圧力をかけ続けるしかない。制裁を長期化し、その内容をさらに厳格化してゆけば、欧米の反ロシア経済レジームに世界経済の他のアクターも参加し、制度化されていくだろう。それでも、弱体化したロシアがソビエトのような崩壊の時を迎えるとは考えにくい。むしろ、欧米は「弱体化し、屈辱にまみれながらも、それでも独裁的なロシア」と共存せざるを得ないシナリオに備えるべきだろう。

権力者の盲点
―― プーチンは何を見誤ったのか

2022年9月号

ヌゲール・ウッズ オックスフォード大学教授(グローバル経済ガバナンス)

ロシアのウクライナ侵攻は権力が作り出す落とし穴の多くを裏付けている。プーチンは、ロシア軍の戦闘能力を過大評価する一方でウクライナ軍のそれを過小評価し、一部の側近が簡単に勝利できると断言し、現実には消耗戦と化した戦争に国を突入させてしまった。失敗の一因は、権力者のもう一つの落とし穴である「相談や批判を受け入れないこと」にも促されている。プーチンの失敗は彼特有のものではないし、単に独裁者の悪癖の結果でもない。民主主義国家を含むあらゆるパワフルな国家の指導者が、権力に幻惑され、不用意な決断を下すことがある。側近集団の助言、議会や世論など、権力者の判断ミスを避けるための抑制メカニズムはある。だが、これらを指導者が支配するか、無視できる環境にあれば、自分が服を着ているかどうかさえも分からなくなる。

ロシアのヨーロッパ分断戦略
―― エネルギー危機が揺るがす欧州の連帯

2022年9月号

ナタリー・トッチ 伊国際問題研究所 ディレクター

ウクライナ戦争をめぐるヨーロッパの連帯はいつまで維持されるのか。それを崩壊させるのは何か。連帯を脅かす最大の脅威は、戦闘が比較的小康状態になることかもしれない。この状況でエネルギー危機がさらに深刻化すれば、モスクワが一部のEU諸国に働きかけてキーウに譲歩を迫らせることも不可能ではなくなるかもしれない。エネルギー危機は、欧州のポピュリストを台頭させる機会を提供しており、ヨーロッパの結束だけでなく、欧州連合(EU)の存続さえ危うくする恐れがある。すでに分裂は起き始めている。バルト諸国やポーランドなどウクライナと国境を接する諸国が、経済制裁と力強い軍事支援を通じて正義をもたらすことを求めているのに対して、イタリア、フランス、ドイツなど西ヨーロッパ諸国はロシアとの妥協に傾き始めている。・・・

プーチンの新警察国家
―― スターリン化するプーチン

2022年9月号

アンドレイ・ソルダトフ 調査報道ジャーナリスト
イリーナ・ボロガン 調査報道ジャーナリスト

ウラジーミル・プーチンは、連邦保安局(FSB)を、ロシア内外における政治問題に解決策を提供する即応部隊にしたいと考えていた。だが、繰り返し失望させられて考えを改めた彼は、ソビエト期のKGB(国家保安委員会)に近い任務を与えた。つまり、エリートを含むロシア民衆を脅すことで、政治的安定をもたらすツールとして利用した。しかし、ウクライナ戦争開始以降の動きは、プーチンが再びFSBの任務を見直したことを示している。いまやFSBは、1970―1980年代のKGBではなく、市民の厳格な統制を目指したスターリンの諜報機関、内務人民委員部(NKVD)に似てきている。NKVDが強大で恐れられる存在だったのは、それが国や党ではなく、スターリンだけに従う組織だったからだ。ウクライナ戦争が始まって以降、プーチンの拡大する警察国家の管理組織は、どうみてもNKVDに近づいている。・・・

ウクライナ戦争はもはや制御不能か
―― レッドラインとエスカレーション

2022年9月号

リアナ・フィックス 独ケルバー財団 プログラム・ディレクター(国際関係)
マイケル・キマージュ 米カトリック大学教授(歴史学)

プーチンは傲慢さと怒りから、欧米を驚かせ、徹底的に脅かすには、戦争を劇的にエスカレートさせるしかないと判断する恐れがある。「現状がかつてないものであること」を認識する必要がある。何年も続く可能性のある大きな戦争が、無政府状態に近づきつつある国際システムの中枢で血を流している。リベラルな国際秩序のルールに従うように教育されてきた同盟国の政策立案者と外交官は、無秩序のなかを歩んでいくことを学んでいかなければならない。「戦場の霧」が、ソーシャルメディアのスピードと信頼性の低さによってさらに濃くなり、辺りを覆っている。この霧がもっともうまく考案された戦略さえも曖昧にしてしまうかもしれない。世界を震撼させたキューバ・ミサイル危機は13日間続いたが、ウクライナ戦争が引き起こす危機は今後長期的に続く。

ウクライナの再建を考える
―― 人口減、都市・経済インフラの破壊に対処する

2022年8月号

アナ・レイド 前エコノミスト誌キエフ特派員

先の見通しがたたない悲惨な状態のなかでも、一定の平和が戻ったときに、この国をどのように再建したいかを考え始めている人たちがいる。楽観的なシナリオでも、東部では戦闘が何年も続く可能性が高いことは理解されている。経済的喪失だけでなく、500万人以上が国外に難を逃れ、国内にいないこと、人口が大きく減少していることにも対処しなければならない。政治腐敗国家に戻らないようにする努力も必要だろう。もちろん、安全、繁栄する近代的経済、家族の帰還、うまく計画された新しい都市建設などの夢がすべて実現するわけではないだろう。だが、過酷な戦争が続くなかでも、再建計画が話し合われている。ウクライナ人の勝利への決意は固く、ロシアの脅威によって彼らの結束とアイデンティティは逆に高まっている。・・・

黒海と世界の食糧危機
―― ロシアに対する軍事・外交オプションを

2022年8月号

マーク・カンシアン 戦略国際問題研究所 国際安全保障プログラム上級顧問

これまでのところ、世界で飢餓が起きているという報道はないが、戦争が続けば、穀物の供給はさらに減少し、食糧不足だけでなく、暴動が起き、社会と体制の不安定化が誘発される恐れがある。欧米に行動を求める圧力が高まるのは避けられない。当然、食糧不足が危機として具体化する前に軍事作戦から外交までの計画を準備しておくべきだ。プーチンが示唆するような「ロシアの貨物船1隻が(経済制裁の例外措置として)国際貿易を認められれば、ウクライナの貨物船1隻も(ロシアの海上封鎖の例外として)国際貿易を許される」という合意も可能かもしれない。だが、この方法はロシアにかなりの金銭収入をもたらすとともに、制裁解除の前例を作り出すことになるため、ほとんど支持は得られていない。一方、欧米は衝突のリスクを冒すことには及び腰で、その間にも世界の食糧事情はますます厳しくなっている。・・・

プーチンの歴史との闘い
―― ウクライナをめぐる葛藤

2022年7月号

アナ・レイド 元エコノミスト誌ウクライナ特派員

国家の地位を勝ち取ったのは31年前だとしても、ウクライナには何世紀にもわたる豊かな歴史がある。「あまりにも弱く、あまりにも分断しているため、ウクライナはひとり立ちできない」という主張も、戦場で見事に打ち砕かれている。ネオナチだという侮辱が言いがかりであることは、ゼレンスキー大統領がユダヤ系であることで立証されている。プーチンが語る架空のウクライナと、現実のウクライナのギャップが大きくなるにつれて、その嘘を維持するのは難しくなり、その矛盾はひどく深刻になっている。ウクライナの親ロシア派市民の声が聞こえてこないのは、「地下に追いやられ」「その信念のために迫害され」、場合によっては「殺されて」いるからだとプーチンは言う。だが、歴史が手がかりになるのは、それが本物の歴史の場合だけであることを、今頃プーチンは学んでいるのかもしれない。・・・

ウクライナ危機と新エネルギー秩序
―― 地政学・気候変動リスクと政府介入の拡大

2022年7月号

ジェイソン・ボルドフ コロンビア・クライメートスクール学院長、メーガン・L・オサリバン ハーバード大学 ケネディスクール教授(国際関係)

ウクライナ戦争が引き起こしているエネルギー危機は、各国の関心を「地政学的エネルギーリスク」に向かわせ、「今後の気候変動対策」と「現状でのエネルギーの必要性」間のバランスをわれわれに否応なく意識させている。仮に世界が戦略的エネルギーブロックの形成へ向かえば、この数十年におけるエネルギー市場のつながりは解体し始め、市場断片化へと向かっていく。注目すべきは、経済的ナショナリズムと脱グローバル化だけでなく、今後のエネルギー秩序が、最近では例のないレベルでのエネルギー部門への政府介入によって定義されるようになると考えられることだ。ロシアのウクライナ侵攻が際立たせたこれらの課題に各国がどう対応するかで、今後数十年における新しいエネルギー秩序が形成されることになるだろう。

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