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ロシアに関する論文

大国間競争という幻想
―― 曖昧で変動する世界

2023年9月号

ジュード・ブランシェット 戦略国際問題研究所 フリーマンチェア(中国研究)
クリストファー・ジョンストン 戦略国際問題研究所  シニアアドバイザー

アメリカが直面しているのは、はっきりとした米中競争ではないし、二つの政治ブロックが対立しているわけでもない。緊密なパートナーや同盟国だけでなく、便宜的な二国間関係、不安定で暫定的な連合が織りなす国際環境で大戦略を展開していくには、ワシントンは、相互依存と自立、多極化とブロック化の間に位置する曖昧な世界でうまく流れを制御していく必要がある。はっきりとした反中国の立場で協調しようとする国がほとんどない以上、アメリカはパートナーにゼロサムの選択を求めることには慎重でなければならない。様々な連合を迅速に組織しなければならない世界では、パートナーの立場に配慮して、微妙な部分は口に出さない方が賢明な場合も多い。

プーチン後のロシア
―― 「より良いロシアへの道」は存在するか

2023年8月号

アンドレア・ケンドール・テイラー 新アメリカ安全保障センター シニアフェロー
エリカ・フランツ ミシガン州立大学准教授

権威主義体制は、多くの場合、プーチンのような長年の独裁的指導者が去った後も存続する。プーチンが任期中に死亡するか、インサイダーによって排除されても、体制はそのまま存続する可能性が高く、しかも、戦争が続く限り、プーチンの地位はより安定し、前向きな変化は起こりにくくなる。実際、独裁者が任期中に死亡したり、クーデターや内戦で倒されたりした後に、その国が民主化したケースは存在しない。民主化運動以外の、民主的未来へのルートは存在しない。つまり、より良いロシアを実現する最良のチャンスを握っているのは、ロシアの民衆であり、その民衆を動かせるのは、ウクライナがロシアに明確な勝利を収めることだ。・・・

ワグネル反乱の真の教訓
―― なぜ治安組織は動かなかった

2023年8月号

アンドレイ・ソルダトフ 調査報道ジャーナリスト
イリーナ・ボロガン 調査報道ジャーナリスト

プーチン政権にとってより大きな脅威は、プリゴジンの反乱そのものではなく、反乱に対する軍と治安当局の反応だったかもしれない。ロシア連邦保安庁(FSB)は、ワグネル内に情報提供者までもっていた。だがFSBは、反乱が始まる前にそれを阻止することもせず、プリゴジンの計画についてモスクワに警告することもなかったようだ。プーチンは、権力の掌握に新たな不確実性を作り出すことなく、情報・治安当局の失敗に対処する方法をみつけなければならない。これまでとは違って、政治的安定を確保するために治安機関に頼ることはもはやできないのかもしれない。・・・

プーチン時代の終わりの始まり?
―― 反乱が暴きだした問題の本質

2023年8月号

リアナ・フィックス 米外交問題評議会 欧州担当フェロー
マイケル・キメージ アメリカカトリック大学歴史学部教授

プーチンの権力基盤は、親大統領派と「もの静かな群衆」たちだ。この堅固な基盤の上に、エリートや治安当局の対立派閥が存在し、プーチンはこれらの集団を互いに競い合わせてきた。一方、プリゴジンは、前線の悲惨な状況と「国防省にロシア軍の栄光についての話を聞かされ、現実を知らないプーチン」の孤立を際立たせた。今回の反乱に続くのは、かつての状況を回復し、屈辱を晴らし、おそらくは報復しようとするプーチンの試みだろう。動揺、逆襲、不確実性が状況を支配することになるし、この状況が短期間で終わるとは考えにくい。ウクライナでの戦争が終結し、ロシアの権威主義が弱まる」という最善のシナリオが実現されることを望む一方で、われわれは最悪のシナリオに備える必要がある。

ワグネルの反乱とロシアの権力抗争

2023年8月号

トーマス・グラハム 米外交問題評議会 特別フェロー(ロシア、ユーラシア担当)

反乱(rebellion)の余波のなかで、体制内で権力の再編が進むかもしれない。(プリゴジンによる)反乱の芽を摘めなかった責任を誰かが取らなければならない。政府内部では、エリート派閥が自分たちを守ってライバルを陥れようと、責任のなすりあいが起きるだろう。今後数週間で、モスクワにおける勝者と敗者が明らかになるだろう。(今回の事件が)ロシア上層部の注意を戦争からそらすことは避けられないだろう。この反乱がどのように決着するにせよ、モスクワは今後同様の脅威が出現しないように、より多くの資源を投入しなければならなくなるはずだ。危機感を高めたモスクワが国内治安強化のために要員と資源を振り分けられるように、キーウはロシア国内の標的への攻撃(陽動作戦)を試みるかもしれない。

プーチンの戦争からロシアの戦争へ
―― プーチンと一体化するエリートと民衆の心理

2023年7月号

ユージン・ルーマー カーネギー国際平和財団 ロシア・ユーラシアプログラム ディレクター

ウクライナに戦争を仕掛け、モスクワが敵視する個人を神経ガスで攻撃する。イランや北朝鮮などのならず者国家に先端技術を売り込み、サイバー兵器を無差別に利用する。しかも、核兵器と国連安保理常任理事国の地位に守られているため、国際的な非難や制裁を受けることもない。プーチンの後継者が抜本的な軌道修正を行い、罪を償い始めるとも考えにくい。結局、プーチンは、ロシアのエリートと社会を戦争の共犯に仕立て上げることで、この国が彼の体制から劇的に離れていく可能性を抑え込んでいる。こうして、アメリカとその同盟国にとって、中国といかに戦うかという問題に勝るとも劣らない、厄介な問題が作り出されている。

勝利なき戦争と外交
―― いかにウクライナでの戦闘を終わらせるか

2023年7月号

サミュエル・チャラップ ランド研究所 シニア・ポリティカルサイエンティスト

いまこそ、ウクライナ戦争をどのように終わらせるかについてのビジョンを描くべきだろう。15カ月に及ぶ戦闘で明らかになったのは、たとえ外部からの支援があったとしても、双方には相手に決定的な軍事的勝利を収める能力がないということだ。このままでは、はっきりとした結果を得られぬまま、数年にわたって壊滅的な紛争が続く恐れがある。休戦を前提とする戦闘の終結では、ウクライナは、一時的に全ての領土を回復できない状況に直面するが、経済的に回復するチャンスを手にし、死と破壊の日々と決別できる。少なくともこの1世代でもっとも重大な国際的危機となったこの紛争に対する効果的な戦略は、アメリカと同盟国が紛争の終わりを働きかけることだ。

プーチンの心理と世界観
―― ロシアの核使用リスクを考える

2023年7月号

ローズ・マクダーモット ブラウン大学 教授(国際関係論)
リード・ポーリー ブラウン大学 アシスタントプロフェッサー(政治学)
ポール・スロビック オレゴン大学 教授(心理学)

戦場での大敗も経済制裁も、プーチンに迷いを生じさせることはない。ウクライナの降伏を手に入れない限り、彼が和平に応じることはないだろう。「流れは自分の側にあり、現在の消耗戦が長引けば、ウクライナ軍とウクライナ支援国が疲弊してくる」という読みに賭けているのかもしれない。だが、権力を維持することを重視する彼のナルシズムゆえに、時間枠が限られてくるかもしれない。軍の将軍や傭兵の指導者が内紛を続けるなか、彼は戦争を早く終わらせるためにもっと大きなリスクを引き受けるかもしれない。認知バイアスとプーチンに特徴的ないくつかの心理的傾向からみて、追い込まれたと感じれば、彼は非常に危険な事態を作り出すかもしれない。戦争の歴史で裏付けられた心理学の理論とエビデンスは、欧米諸国が核攻撃の高いリスクを想定して備えるべきことを示唆している。

中国とウクライナ戦争
―― 対ロシア支援の論理と結末

2023年6月号

リアナ・フィクス 米外交問題評議会 フェロー(ヨーロッパ担当)
マイケル・キマージ カトリック大学 教授(歴史学)

ウクライナ戦争の傍観者として振る舞うことで、これまで中国は恩恵を確保してきたが、今後はそうはいかないだろう。ロシアの敗北は中国の利益にならないからだ。ロシアが敗北すれば、アメリカは中国とのライバル競争にエネルギーと資源を集中できる環境を手にする。このような事態を防ぐために、中国はロシアに対して、経済的、精神的支援だけでなく、殺傷能力のある兵器を提供することもできる。戦争を長引かせ、ロシアの敗北を食い止めるため、あるいは何らかのロシアの勝利を早めるために、これらの支援を提供できる。中国の参戦は国際関係の新たなページを開くことになる。ウクライナ紛争を世界規模の紛争に変え、中国と欧米間の敵対関係はさらに深刻になるだろう。・・・

プーチンがワグネルを必要とする理由
―― 戦争とモスクワの権力抗争

2023年6月号

アンドレイ・ソルダトフ Agentura.ruの共同創設者
アイリナ・ボローガン Agentura.ruの共同創設者

なぜプリゴジンは公然とロシア軍の高官を罵倒できるのか。これは、「有事にあっては軍が国家内でより大きな力を得る傾向があること」をプーチンが理解していることに関係がある。戦争が長引けば長引くほど、軍の影響力は拡大し、管理するのが難しくなる。内外の脅威という視点で状況を捉えるプーチンにとって、軍の相対的な力の増大は、戦場でのパフォーマンス以上に気になるところだ。要するに、プーチンにとって、ワグネルは、長く自分の支配を脅かす潜在的な脅威とみなしてきたロシア軍を抑制するための重要な手段でもある。欧米諸国とは違って、ワグネルがこの戦争で果たす役割は、ウクライナの戦場で起きていること同様に、モスクワにおける権力ダイナミクスに密接に関係している。

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